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終戦

「痛って! マジで痛いぞクソッ! これ絶対全身粉砕骨折してるから」

もちろん、全身粉砕骨折とは言葉の綾であり、実際に全身粉砕骨折なんてしていたら即死である。

「全身粉砕骨折なんてそんな、早く治療しないとです。えーと、救護班は?」

冗談のつもりで言ったのだが、お付の妖精に心配をかけてしまったようだ。

「あー大丈夫大丈夫、気のせいだったわ。それよりみんなを探そうぜ」

「はー、そうですか。そうですね! じゃあ上空から探した方が早いですね」

チルは背中に生えた2枚の羽を羽ばたかせ、空高く上がった。


「どーだーチルー! 見つかったかー!」

自分より遥か高い場所にいるチルに向けて、おもいっきり声を出す。

「はーい! 見つけたのですー! あと300メートルほど進んだところにワカバさんとリリムさんがいまーす。なんかすっっごくデーーーッカい生物と一緒にいるのですー」

そんなにバカデカいのか!? まああの2人なら心配ないだろう。

「戻ってきていーぞーチルー!! 二人と合流しよう」

「はーい!!」



南軍『本陣』

そこには、一千の憲兵軍とともに南の王と多数王族が待機していた。

「国王、戦果報告に参りました」

兵士の一人が国王の前まで走り寄って、片膝をついて軽く頭を下げる。

「うむ、戦場はどのような状況だ? 先の地震といいどうなっている」

「は! 現在、敵戦力は三千、我が軍は四千二百、中(うち)勇者は53人です!」

「おお! 素晴らしい! これほどの戦果とは、まさに『奇跡』!!」

重役の男たちが一斉に歓喜の声を上げるなか、王は一人いたって冷静だった。

「奇跡などではない!! すべてはあの小僧の『筋書通り』だ!!」



『いいか王様、ゲートは悪魔軍の左右に設置してある。つまり悪魔軍は、奇襲を受けて挟まれる形になるわけだ。この奇襲作戦のみそは奇襲により引きおこる混乱ではなく、混乱した悪魔をあんたらの兵士でどう倒すか…だ』

『それはもっともだが、悪魔を相手にするのに兵士が足りないのではないか?」』

少年はニカッと白い歯を見せて笑う。

『だから左右からの奇襲だろうが。いくら悪魔でも、わざわざ奇襲された側には動かない。動くとしたら、あんたらのいる方に進軍するか、一度後退するはずだ。奇襲を受けた軍は統率性を失い、進軍するものと後退するものにバラけるわけだ。進軍する軍は指揮官のいない烏合の衆だから、あんたの兵士たちがしっかりと迎撃すれば十分相対できるはずなんだ』

『なるほど、敵軍3万を後退する軍、その場で応戦する軍、進軍する軍の3つに分断するわけか。だがそれだと、一度後退した軍が戻ってくるのではないか?』

『じゃあ戻ってくるまでに、敵の核を潰しちまえばいい。大将さえ潰しちまえば、悪魔軍は敗走する』



「まったくもって大した小僧だ。戦士としての才(さい)だけではなく、軍師としての才もあるとはな」

「戦果報告! 勇者モミジが敵軍の本陣にて、敵将軍を討ちました!!」

「なにからなにまで…大した奴よ…」

ぐっと拳に力を入れて椅子から立ち上がり、王は本陣にいる王族、大臣、重鎮、側近他多くの兵士に叫びかける。

「聞け憲兵軍!! 貴様らは我が国から選ばれた誇り高き戦士だ!! 主導権は我々にあり!! 悪魔軍を殲滅(せんめつ)するのだ!! この戦争を終わらせようぞ!!」

王は右手を肩より上に高々と上げ、剣を握った拳を力強く掲げる。

「剣を取れ!! 我に従う者は剣を掲(かか)げよ!!!!」

「おおーーーーーー!!!!!!!!!!!」

怒涛(どとう)の歓声とともに、幾千(いくせん)の兵士が剣を抜き、高々と掲げる。

数えきれない数の戦(いくさ)を勝ち抜いた憲兵軍が、戦争を終結させるべく進軍をはじめた。




チルに言われた通りに歩いていると、なにやら黒く巨大な獣の姿が目に入った。

あれがチルが先ほど話していたでっかい生物か? その横にリリムとワカバの姿を確認できた。

「おーい!! 二人とも無事だったかー!?」

二人のいる方向からなにやら怒声が聞こえてきた、二人には俺の声が聞こえていないようだった。

「ああ!! 貴様はまだそんなことを言うかリリムー!!」

この声はワカバ、いやでも…ワカバの声ってこんなどすの利いた声だったか?


近づくにつれて、二人の姿がより鮮明に見えてきた。

俺の目に映ったのは、こめかみを突きつけ合い睨(にら)み合う二人の姿だった。

「…なにやってんの…あいつらは…?」

結構な距離がまだはずなのだが、まるで隣にいるかのような声が聞こえてくる。

どんだけ大きな声で会話? 喧嘩?(笑)、をしてるんだよ。


「何度でも言ってやりますよ。あの化け物を倒せたのは私のおかげッス! 私がいなかったらあなたはスキルは発動すらできなかったんスからね!!」

怒っているんだか、自慢しているんだか微妙な雰囲気のリリム。

「じゃあ聞くが、私がいなくてもあの化け物が倒せたのか? 無理だっただろう。つまり、アレを倒せたのは私のおかげだ!!」

ワカバは…まあ確実にキレているな。


ワカバと目が合った。

「おお紅葉じゃないか! 聞いてくれよ紅葉、貴様は私と」

「あー話さなくていいぞワカバ、全部聞こえてたから」

一瞬にして、リリムの顔が青ざめ後ずさりする。

「え、まさか盗み聞き!? 先輩にそんな趣味が」

「いやちげーよ! そもそも聞きたくて聞いたんじゃねーよ、むしろお前らの醜(みにく)い言い争いなんて聞きたくなかったわ!!」


「じゃあ先輩は、私と先輩、どちらのおかげでアレに勝てたと思うッスか!?」

率直に答えを求めてくる俺のリリム、それに合わせるかのように顔を近づけてくるワカバ。

俺と2人との距離わずか10㎝足らず、…いや近すぎるだろ。

「ちょ! お前ら、!! 近すぎるって、たのむから少し離れてくれ!!」

「「近い? …なにが?」」

なぜそこでハモる!? そしてなぜ、さらに顔を近づける!? ひょっとして、俺っていじめられてる!?

「どうしたのだ紅葉、顔が赤いぞ?」

そりゃ赤くもなるわ!!

「へ、あーえっと…大丈夫ですよ。心配なんて無用ですから…はい」

おもわず敬語になってしまった。それだけ、俺が精神的に追い詰められているということである。

「あの、さっきの質問ですけど、僕はお二人が戦っているのを拝見していないのでなんとも…」

一人称が『俺』から『僕』になった。もう俺が不良だったと誰が思うだろうか。

「うむ、それもそうか。それでは仕方ないな」



その場で待機していると、俺とリリムの師匠ことハルカがやってきた。

「無事だったかみんな!!」

「ああ、まあな。それよりお前、なんでそんなに血まみれなんだ?」

ハルカの体には血がべっとりとついていた。まるで落ち武者のようである。

「ああ、これは返り血だよ。たくさん殺したからね」

たくさん殺したって、そんなに返り血なんてつかないだろう。


「そんなことより、こんなところで休んでるなんて感心しないな」

ハルカが腕を組んで説教をしてくる、だがチビッ子赤髪ロリキャラのハルカがそんな事をしても貫録なんてかけらも無い。

「いいんだよ。俺は敵のボス倒したし、こっちの2人は巨獣(これ)を倒したんだ。ここでサボってもおつりがくるぐらいだぜ」

「え!? 先輩、カラビア倒したんですか!?」

「ん? ああ、まあな。結構楽しかったぜ」

…そういえば、こいつらに俺が戦ったのが『カラビア』だって言ったっけ? 俺はボスとしか…

「すごいッスねー先輩は…あんなヤツを倒しちゃうなんて、さすが先輩ッスね!!」

なにかひっかかる話し方だな…なんでだろう?


「まあそれなら良しとするかな。それに、この戦もいよいよ終焉のようだしね」

ハルカの目線に合わせ後ろを振り向くと、無駄にキンピカな鎧を纏った兵団が荒野を駆け抜ける姿が見えた。

「あれは憲兵軍ですね。南の国が誇る精鋭部隊ですぅ」

なんだか久しぶりにチルの解説を聞いたような気がする。

「まあカラビアの魔力が消えたのは、後退した悪魔たちも気づいてるだろうからな。この戦(いくさ)は、俺たちの勝利だ」

少し恰好つけすぎだったか、最後の台詞(せりふ)はちょっとくさかったな。



「よし! じゃあ残りの悪魔も片づけて城に戻ろうか。空腹で死にそうだ」

本当に高校生かと疑ってしまうほど、豪快に笑う紅葉…しかし。

豪快に笑う紅葉だったが、傷は完全に癒えておらず、フラりとよろけた。今にも倒れてしまいそうな紅葉を、3人プラス1匹の女性陣が咄嗟に支える。

「まったく…俺は演技が下手だな。どうやら俳優には向いてないらしい」

葉隠紅葉はそのまま意識を失った。


















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