勝つために
時は少しさかのぼり、リリムとワカバが共同宣言した10分前…
「いいかリリム、アレももちろん生き物だ。つまり、私の『酸素を操るスキル』は有効だ!」
「そこで、私にアレの足止めをしてほしい…と?」
「そうだ、私のスキルは演唱に時間がかかるからな。時間にして約2分、そのあいだ私にアレを近づけないでほしいのだ、できるかい?」
「もちろんスよ。2分間アイツはもちろん他の悪魔は一匹も近づけはしません!!」
リリムは、元気いっぱいに返事を返し笑顔を見せる。
(できるとは言ったものの、コイツを相手にするのは骨がいりそうッスね。魔装すればどうという事はないけど、そうもいかないしなあ。)
策を考えるリリムの横で、演唱を始めているワカバ。
そこへ遠慮もなしに襲い掛かるS級モンスターフェンリルと無数の下っ端悪魔。
(人間の姿のまま、最大まで魔力を練ればなんとかなるだろうか)
「よし、ここはひとつ派手にいきますかねえ!!」
リリムの剣は特殊である。
その素材はもちろん人間が知る鉱物ではない、その刀身は悪魔の魔力にだけ反応しチカラを発揮する。
リリムが剣に魔力を集中すると、刀身が光を帯びる。
刀身すべてが光で包まれると同時に、リリムはモンスターに飛びかかる。
(狙いは眼球、視力を奪えばこちらにも勝機はある)
全長が高層ビルほどもあるフェンリルの頭部まで跳ぶ事は普通できるものではない。
だが上級悪魔であるリリムの身体能力をもってすれば、人間の姿のままでも十分可能である。
リリムは大声をあげながら右目にライダーキックのようなものを炸裂させる。
「くーーーーーらーーーーーええええーーーー!!」
攻撃は成功、リリムのライダーキックは見事巨獣フェンリルの右目に命中した。
フェンリルは右目を潰された痛みでその巨体を揺らしている。
上空30メートルから地面に着地したリリムは、休むまもなく左目の攻撃へと移る。
この間わずかに20秒と経っていないが、とうのリリムにはそれが数分にも感じられた。
(ヤツは今の攻撃を受けて頭部への攻撃を今まで以上に警戒しているはず、さっきのように簡単にはいかないッスね)
リリムは先ほど潰した右目の方の背後から回り込み、左目を狙った。
右目側に回り込んだことにより巨獣の反応が一瞬遅れ、その一瞬をリリムは見逃さない。
リリムの放った斬撃は巨獣の左目のまぶたを切り裂き、巨獣の左目は封じられた。
(よし!! 両目を封じたぞ。これで時間が稼げる)
「やった…やったッスワカさん! これでもう大丈夫ッス!」
敵の両目を使えなくしたことによって、油断したのかもしれない。いや、少なからず気を緩めたのは事実だ。
リリムは不用意に正面から巨獣の心臓を一突きにしようとした。
しかし、目の見えないはずの巨獣はリリムの位置を的確に把握して攻撃をかわした。
不用意に飛び込んだリリムは、巨獣フェンリルの前脚で叩き落とされる。
『ウォォォォォォォォォォォォォォン!!!!』
巨獣は狼が如く遠吠えをして、地面に叩き落としたリリムを威嚇し臨戦態勢ととる。
「…そ、そうか…あんなに大きくても狼だから…臭いで…私の…場所を」
狼の嗅覚は犬よりもうえであり、そんな狼の化身であるフェンリルにとって目が見えなくても戦闘ではあまり関係ないのである。
演唱終了まで約30秒
(あともう少し…がんばらないと、ワカさんの演唱が終わるまでヤツの意識を私に向けないと)
リリムは魔力を剣に集中させ光る斬撃を飛ばし、大きな声を出す。
「おーい! こっちだデカブツ!! こっちを向くッス!!」
北風が吹いていた。
リリムはあえて北側に回り込み、巨獣の風上に立った。
(あれだけの嗅覚、風上にいれば今まで以上に私の居場所が鮮明に解かるはず。私の目的はあくまでアレに勝つこと、勝つためなら囮にだってなってやる)
「*******************…」
ワカバは必至の形相でリリムとフェンリルの戦いを見つめていた。
(早く演唱を終えて助けたい、早くしないとリリムが死んでしまうじゃないか。それでは何の意味もない、リリムが死んでしまってはアレが倒せたとしても何の意味もないんだ!!)
巨獣はリリムに右前脚をのせ、今にも食いつきそうな勢いで大きく口を開ける。
「そーこーおーどーけええええええ!! この化け物があああああ!!」
ワカバの一撃は、大口を開けるフェンリルの口元を大きく斬った。
「ワカさん! …演唱は?」
「心配いらない、スキルの発動は成功した。これで戦局は我らに傾いた!!」
ワカバとリリムは、万全の状態で巨獣フェンリルに立ち向かうのだった。




