勝利
「俺はもう暴走はしたくない、だから速攻でケリをつける」
言霊の演唱とともに、体が暖かさに包まれた。
特訓の時のように、100%の魔力を解放するのは暴走のリスクが大きい。なるべく魔力を抑えつつ戦わないと。
「…なんだよ…なんなんだよお前は!! 人間がなぜそんな魔力を持ってるんだよ!! それは俺たち悪魔だけの物だ。人間ごときが気安く使ってんじゃねぇぇぇぇぇ!!」
悪魔将軍カラビアは魔力を最大まで纏った状態で紅葉に突っ込む。
瞬間、カラビアの視界から紅葉が消えた。もちろん本当に消えたわけではない。超速度で移動した紅葉を目で追えなかっただけである。
なんなんだ今の速度は、速くなったなんてもんじゃない。速さの次元が違う。
「実際に魔力を解放した状態で戦うのは初めてだな、なんか不思議な感覚だ。体がまるで空気みたいだ!!」
紅葉が地面を蹴りつけ超快速で発進。まるで瞬間移動が如く一瞬でカラビアの懐に入り一撃。
その一撃は悪魔化したカラビアの巨体を、まるで重さなど感じさせない勢いで吹っ飛ばす。
紅葉は跳躍、飛ばされたカラビアに一瞬で追いつきその体を殴打殴打殴打、そして地面に蹴り落とす。カラビアの蹴り落とされた地面は地殻変動が起こりゴゴゴゴっと地響きをたてながら破壊される。
「ハア…ハア…ハア…ハア…どうだ…!!」
この魔力でも体への負担はかなり大きいな、体が圧倒的なスピードとパワーについていかない。
体力が減るにつれて魔力も一部黒く変化している。これ以上の戦闘は危険だ、これ以上は俺自身、俺の中の化け物を止められない。
「どうする…まだやるか!? もう体がボロボロだろう…」
ボロボロなのは俺も同じだ。これ以上戦えば暴走も免れない。
「…ああ…そうだな。降参するしかないだろうな…悔しいが勝てる気が全くしない…。それに俺も、お前に暴走されたら困るしな」
地面に仰向けに寝そべり、空を見上げてそう言うカラビア。魔装はもう解けていた。
「ハア…ハア…お前は本当に人間か? とても信じられねえグフ!…ゲホ!…ハアハア」
ダメージで咳き込むカラビア、体の臓器もかなりやられているようだ。
「当たり前だろ…ハア…ハア…、俺は生粋のジャパニーズだよ」
「ハハッそうだよな…ハア、だがな人間…死ぬ前に教えといてやるが…途中出てきた黒い魔力…あれは悪魔のもんだ、間違いない…それを覚えておけ…」
「クソッ、目がおかしくなったのか? 真っ暗で何も見えねえぞ………」
カラビアは目を閉じた、そしてその目が開くことはなかった。
「じゃあなカラビア、結構楽しかったぜ」
紅葉は息絶えたカラビアの横で仰向けになる。
あーあ…体動かねえわ。…少し休憩したらハルカたちと合流だな…。
…なんか天使が見えるぞ、背中に羽が生えてる小さい天使…。
あれ…なんか怒ってね? てかアレ…チルじゃね?
「葉隠さんのぉぉぉーーーーーバァァーーーカーーー!!」
耳がキーンとした。泣き目のチルが寝そべる俺の上にペタリと座り込む。
「さっき私のことブン投げましたよねえ!! すごく怖かったですぅ!!」
「…ああ…ごめん」
あれは戦いにまきこまないようにしたんだが…。
「本当に…すごく怖かったのですよ…葉隠さん。死んじゃうかと思って…ヒック…無事でよかったのですぅ…ヒクッ…ヒッコ」
必死に涙をこらえるチル、流れる涙を両手で拭う姿がすごく愛らしい。
「…ああ…ごめん。次から気をつける…」




