回想
東の国を出発する前のことである。
「いいかい紅葉くん、君に一番基礎の能力を教えるからしっかり聞いてくれよ」
闘技場に呼び出したから何かと思えば。
「能力というのは言霊を唱えることによって発現するチカラだ。少し違うけど、まあわかりやすく言えば魔法みたいものだね」
うんうんと首を縦に振ることしかできない、自分の無知を思い知らされる。
「スキルを無限には使えない、言霊を唱えるのはすごく集中力がいるし魔力を多く消費する。強力なスキルほど集中力がいるし魔力を使う、だから多用するには向いていないんだ」
「紅葉くんに一つ質問しよう、君の一番の武器はなんだと思う?」
いきなりすぎる質問に、少し考え込んでしまった。
「…自分で言うのもなんだけど、俺の身体能力はずば抜けていると思うぜ。現実世界にいた時からその自負はあったし、異世界に来てからもそれは十分通用したしな」
「なるほど…だがその答えは半分正解であり半分は不正解だ」
まったくもってリアクションに困る返答だ、正直意味がわからない。
「…どういうことだよ」
「確かに紅葉くんの腕力や脚力といった身体能力は圧巻の一言だ、それだけでも十分上級悪魔と戦える。…だがそれも戦えるだけで『勝つ』ことはできない、だから半分正解で半分不正解なんだ」
「じゃあもう残り半分の答えは?」
「それは紅葉くんの『魔力』だ」
魔力? 魔力についてはさっき説明されたけど…
「魔力はこの世界においてすべてのチカラの源だ。魔力が強ければ強いほど強いスキルも出せるし、腕力や脚力、治癒力までも強くなる、悪魔が圧倒的な強さを誇っているのはそこにあるんだ」
「悪魔の魔力は一般的に我々人間の倍以上、上級悪魔にいたってはランク7以上の勇者の10倍以上にもなるんだ」
「質問するけど、その上級悪魔ってのは何のことだ?」
「紅葉くんは、道中アスタロトに会ったと言っていたね。あれが上級悪魔だ。上級悪魔は日ごろ人間に限りなく近い姿で生活している、並の悪魔じゃそんなことは到底できない、悪魔の中でも選ばれた者にのみ許された特権とでも言おうかな」
「なるほどな、並の人間じゃ勝ち目が無いってことか」
「その通りだ。だがな紅葉くん、きみの魔力はそんな無敵とも思える上級悪魔の魔力に匹敵するんだ」
「きみはまだコチラに来たばかりで魔力の総量の2割ほどしか扱えていない、それに関してはこれから訓練が必要だ」
魔力の『マ』の字もわからない俺にとってますます話がわからなくなってきた。
魔力の扱い、そのための訓練、なんのことだかさっぱりだ!?
「きみが魔力を100%使いこなせれば、今までの何倍もチカラが強くなるし、速く動くこともできる。生身で上級悪魔とだって十分渡り合える…まあそれができないから、これからスキルを教えるんだけどね」
…知らなかった、俺ってそんなにすごい逸材だったのか、そりゃ救世主って呼ばれるわけだな。
「きみにはまず、『魔力を最大限まで引き上げるスキル』を覚えてもらう。言霊の意味は知らなくても平気だから僕に続いてリピートしてくれ…わかったかい?」
「ん、ああ…おうわかった」
まいったな…俺古文とか、ああいう意味わからんない言葉って苦手なんだよ。
英語なら、アメリカ生まれの母さんに何度か教えてもらったけど。
「『*********…』、はい言ってみて」
「いやちょっと待て…もう一回言ってくれないか、てか何今の…人間ってあんな感じで喋れたりするの?」
「きみは僕が人間じゃないと言いたいのかい?」
「いやそういうわけではないけど…何か…スイマセン」
「だいたいこのスキルは初歩中の初歩なんだから、これくらい本を読みながらでも言えるようにしないとダメだよ」
そんな事言われても、あんな難解な言葉無理だって。
「…じゃあ、もう一回だけだからね…『*********…』」
「…『**…***…***…*…』」
…シュールだな、シュールすぎるぞ。
ただひたすら意味の解からない言葉を永遠に解かるまでリピート…中二病か俺は!!
「今の最後のところはもうちょっとキーを上げたほうがいいと思うよ、あと咬まずにね」
10分経過…
「*********…!!」
体が軽くなった気がする、体の奥からチカラがみなぎってくるような感じも…。
というか何か体が少し光ってるぞ! なんかスーパーサ〇ヤ人になった気分だな…空とか飛べるのか?
「成功成功大成功だね。今はまだ魔力の50%くらいだけど、まああとは慣れだね」
慣れでいけるもんなのかこれは。
次の日
紅葉とハルカは森の中でスキルの特訓をしていた。
「なあ…なんで森の中なんだ? 昨日みたいに闘技場でやれば」
そんなことを言う紅葉に喝を入れるハルカ。
「特訓といえば『山籠もり』と相場が決まっているだろう!! 家の中で特訓なんてナンセンスだよ紅葉くん!」
ビシッと紅葉をドヤ顔で指さすハルカ、どうやら知能はあまり高くないようだ。
「…というかここはそもそも山じゃないからな、『森』だからな」
「そ、そんなの、こ、籠ってしまえばかわらないじゃないか!!」
してやったり、みたいな顔をするハルカ、そして呆れて言葉が出ない紅葉。
「…ああわかった、もういろいろわかったから、これ以上ボロが出る前に特訓に取り掛かろう」
「よっしゃあ!! だんだんわかってきたぞ」
昨日よりさらに強い光が、体を包みこんでいる。
少し暖かいような、感じがする。
「これが100%かな、目視できるほどの魔力とは恐れ入るよ。さあ、もうやめていいよ、きみもそろそろ疲れただろう」
確かに少し疲れたな、お言葉に甘えるとするか。
「そうだな、スキル停止…解除」
…どういうことだろうか、光が消えない…それどころかどんどん強くなっていく。
「スキル停止…解除! 解除! 解除! スキル停止…解除!!」
なんでだ!? なんで反応しないんだ? 昨日ならこれでスキルが解除できたのに。
体が熱い!? 体の奥が沸騰しているように熱い!
体を包む光が黒くなっているのが見えた…。
ハルカがこちらに剣を向けている…何やってんだよ…逃げろよバカが!!
あれから何が起こってどうなったか全く覚えていない。
辺りはすっかり暗くなっていた。
俺は『何もない』、そう何もない土肌むき出しの大地にハルカと寝てしまっていた。
あーあ…なんか頭が痛いな、それになんでワイシャツが赤いんだ?
そもそもなんでこんな所に? 俺とハルカは森で特訓してたはず…
急に隣のハルカが心配になった、理由は辺りいったいに飛び散った『血痕』である。
「ハルカ…おい大丈夫かハルカ!!」
うつ伏せのハルカを抱きかかえる、ハルカの服には大量の血で赤く染まっていた。
そうか…俺がやったのか、俺はハルカを襲ったのか…。
「おい…起きろよハルカ、こんなところで寝たら風邪ひくだろ…」
だめだ…声なんてかけるな、本当に目を開けなかったらどうするんだよ。
「グ~…ス~…ス~…ス~…」
いびきが聞こえる、どうやらハルカは寝ているだけだったらしい。
…なんかスゲー恥ずかしいんだけど、シリアス台無し感がすごく恥ずかしい。
「ふあ…おはよう紅葉くん、よく眠れたかい?」
「ああ…そうだな…4時間くらい…じゃなくて!」
首をかしげるハルカ、それが俺には妙に痛々しい。
「その血…俺がやったのか? 何がどうなってんだよ」
「これかい? 大丈夫だよ、傷は回復スキルで回復してるし…もちろん紅葉くんのもね」
歯がゆい…とにかく歯がゆすぎてイライラする。
「そういうことじゃねえ、俺は特訓してたよな…しかも森で。あの後どうなったんだ? 俺が黒い光に包まれた後…」
「紅葉くんは自分の魔力にのまれて『暴走』したんだ…でも紅葉くんのせいじゃないよ、普通人間があんな魔力に耐えられるはずがない、僕も気づくべきだったよ」
「それでも俺は…お前を攻撃したんだろ? その事実は変わらない」
・・・・・・・・・・・・・・
あーあ、どうすんのこの空気、自分で重くしといてなんだけど…すごくやりずらいんだけど。
「きみは何生意気にも心配してるんだ! 僕はきみの師匠だぞ!! 弟子の暴走なんてなんのそのだよ」
この血の量でわかる、なんのそのじゃないだろ。
「弟子を止めるのは師匠である僕の仕事だ、もしきみがまた暴走したら、また全力で鎮圧してやるから大船に乗ったつもりでドーンときなさい!!」
ドーンと、とはほど遠いちんまりとした胸をはって師匠の貫録(?)を見せようとするハルカ。
「プフ…じゃあ、また暴走したらよろしく頼むぜ師匠」
全く、頼りになるんだかならないんだかとことんわからないヤツだなw
「うむ、まかせておきなさい!!」
帰路…
「ところで森はどこいったんだ?」
「何言ってるんだ、きみが吹っ飛ばしたんじゃないか」
「吹っ飛ばしたの!? 森を?」
「うん…それはもうあっという間に…」
なんか…リアルにドラ〇ンボールみたいになってきたなww




