第七話 謎
ヴォルコフは机の上の資料を閉じた。
「通常の尋問では埒が明かん。」
部屋の空気が一変する。
「第二段階へ移行する。」
研究員たちは無言で頷き、山田の拘束具をさらに固定した。
金属音が部屋に響く。
「や、やめてください……!」
「俺、本当に何も知らないんです!」
返事はない。
尋問官の一人が冷静な声で告げる。
「対象は高度な訓練を受けた工作員である可能性がある。」
「自覚なく偽装記憶を植え付けられている例も過去に存在する。」
「その可能性を排除する。」
山田は必死に首を振る。
「違う!」
「本当に高校生なんです!」
「昨日まで学校にいて……!」
ヴォルコフは静かに立ち上がる。
「もし君が本当に何も知らないのであれば、それは証明される。」
「しかし、国家の安全は一人の証言だけでは守れん。」
研究員が再び薬剤を準備する。
今度は意識を鈍らせるものではない。
精神反応を測定するための薬剤だった。
「投与。」
「了解。」
山田の腕に薬剤が注入される。
鼓動が速くなる。
視界が揺れる。
部屋の照明が妙に眩しい。
「質問を続ける。」
「Y-001とは何だ。」
「知らない……。」
「誰がお前を送り込んだ。」
「分からない……。」
「タメリカの目的は。」
「知らない!」
「魔人国家との関係は。」
「ない!」
記録係が静かに呟く。
「反応は自然です。」
「演技には見えません。」
ヴォルコフは眉一つ動かさない。
「続行。」
時間だけが過ぎていく。
質問。
否定。
確認。
また質問。
山田の声は次第にかすれていった。
それでも答えは変わらない。
「知りません。」
「分かりません。」
「俺は高校生です。」
部屋には重苦しい沈黙が落ちた。
その時だった。
施設全体を揺らすような衝撃が走る。
ゴォォン!!
照明が激しく明滅した。
「なっ……!」
「爆発だ!」
警報が地下施設中に鳴り響く。
『警報。警報。第六区画で大規模爆発を確認。全警備員は戦闘配置へ。』
赤い非常灯が回転し始める。
通信兵が勢いよく部屋へ飛び込んできた。
「局長!」
「第六区画が爆破されました!」
「侵入者か!?」
「現在確認中です!」
「収容区でも火災が発生!」
「複数の隔壁が破壊されています!」
ヴォルコフは即座に命令を飛ばす。
「対象を移送しろ!」
「ここは危険だ!」
兵士が山田の拘束具を外そうとした、その瞬間――。
ドォォォン!!
今度は尋問室のすぐ近くで爆発が起こった。
壁が大きく揺れ、天井からコンクリート片が降り注ぐ。
照明が消えた。
非常灯だけが赤黒く部屋を照らす。
煙が一気に流れ込み、視界はほとんど利かない。
「ぐっ……!」
「局長! こちらは危険です!」
「退避しろ!」
怒号が飛び交う。
銃声が遠くから響いた。
そして、誰にも聞こえないほど小さな電子音が、煙の奥で鳴った。
カチ。
『計画進行率 二十七・一パーセント』
その声は、誰の耳にも届かなかった。




