第四話 窓のない部屋
カチリ。
重い電子錠の音で山田は目を覚ました。
この地下施設に来てから何日経ったのか分からない。
窓はない。
時計もない。
照明は常に同じ明るさで、朝なのか夜なのかすら判断できなかった。
唯一変化があるとすれば、一日に三度運ばれてくる食事だけだった。
「……またか。」
鉄扉がゆっくり開く。
食事を運んできたのは、いつもの若い女性士官だった。
年齢は二十代前半ほど。
軍服は着ているが、腰に拳銃はない。
初めて会った時から、一度も山田を睨んだことがなかった。
「食事です。」
短く言ってトレーを机へ置く。
今日の献立は黒パンとスープ。
それに見慣れない紫色の果物が一つ。
山田は苦笑した。
「異世界飯ってもっと豪華かと思ってた。」
女性士官は思わず吹き出しそうになったが、すぐ真顔へ戻る。
「食べないなら下げます。」
「食べます食べます!」
慌ててパンを掴む。
予想よりずっと固かった。
「かった……。」
女性士官の口元が少しだけ緩む。
「水に浸して食べるものです。」
「そういうの先に教えてくださいよ。」
少しだけ空気が和らいだ。、
山田はスープを飲みながら尋ねる。
「俺って、そんなに危ない人に見えます?」
女性士官は少し黙った。
「……命令ですから。」
「でも俺、本当に普通の高校生なんですよ?」
「高校生?」
女性士官は首を傾げた。
「学校です。」
「学生が勉強する場所。」
「……学院のようなものですか?」
「そんな感じです。」
彼女は小さく頷く。
「この国では十六歳になると多くが工場か軍へ配属されます。」
「え?」
「学校は基礎教育だけです。」
山田はパンを持つ手を止めた。
「みんな高校へ行かないの?」
「必要ありません。」
その一言が、妙に重かった。
山田は初めて実感する。
ここは本当に、自分の知る世界ではないのだと。
その頃、地下八階では別の会議が開かれていた。
「対象の扱いについて決定する。」
ヴォルコフ上級大将が資料を閉じる。
「処分は見送る。」
誰かが安堵の息をつく。
しかし次の言葉で空気が凍った。
「科学院へ移送する。」
「本格的な解析を開始する。」
「対象が何者であれ、国家に利用できるなら利用する。」
「利用できないなら……。」
その先は誰も言葉にしなかった。
同じ頃。
タメリカ合人国。
情報局本部。
「例の件は。」
「確認できました。」
「サピエス連合が第126開発区を完全封鎖しています。」
「……そうか。」
長官は静かに窓の外を見る。
「やはり始まったか。」
部下が尋ねる。
「何がです?」
長官は首を横に振った。
「いや。」
「独り言だ。」




