スピンオフ 大戦から1年後
いつも読んでいただきありがとうございます。
月花大戦から1年。
あの戦いの舞台となった島の近くにある街で、月花の者たちは再び集まっていた。
全員が来たわけではない。
それでも、集まった者たちは互いの近況を話し合い――いつしか、それはただの宴会になっていた。
神は倒された。
月花大戦も終わった。
これからは、大戦のために力を磨く時代ではない。
誰かに決められた道でもなく、自分自身の力で生きていく。
皆、笑顔で食事と酒を楽しんでいた。
その中でも、相変わらずだったのが向日葵だった。
向日葵は鈴蘭と並び、テーブルに並んだスイーツを奪い合うように食べている。
弥生はその様子を見ながら苦笑した。
「相変わらずだな、向日葵」
「……あれでよく太らないな」
睦月が小さく呟く。
「……いや」
「見えない所が――」
そこまで言った瞬間。
向日葵の殺気に満ちた視線が、睦月を貫いた。
「……ッ!」
睦月は慌てて口を閉じる。
弥生はそんな睦月を見て笑った。
「相変わらず大変だな」
「……鈴蘭だって、少し太ったか?」
「……あー……」
弥生が少しだけ目を逸らす。
「うちは……子供が……」
「――え?」
睦月が飲んでいた酒を盛大に吹き出した。
「妊娠してるのか?!」
「ああ」
「連れて来ていいのか?」
「今は安定期だし、鈴蘭も来たいって言ったからな」
「そうか……それなら……」
睦月は笑顔になった。
「父親か……おめでとう!」
「ありがとう」
弥生は嬉しそうに笑った。
しかし、その表情には僅かな不安もあった。
「でも……不安で仕方ないよ」
「弥生」
睦月は真剣な顔になる。
「それは鈴蘭も同じだ」
「たぶん、弥生以上に不安だと思う」
「だから、弥生がしっかりしろ」
「分からないことは調べればいい」
「鈴蘭の前だけでも、堂々としてればいいんだ」
弥生は一瞬黙り――そして笑った。
「睦月……ありがとうな」
「ああ」
2人はグラスを合わせた。
その視線の先には――
師走と百合。
そして秋桜と金木犀。
百合は相変わらず師走のすぐ隣に座り、師走から離れる気配がない。
金木犀も秋桜の周囲を警戒するように座っている。
2組とも、少し近付き難い雰囲気だった。
弥生が笑う。
「でも……変わったんだな」
睦月が弥生を見る。
「師走の顔、引きつってない」
「心から笑ってる」
「金木犀も警戒してるけど、男にだけだ。女性には普通に話してる」
「言う通りだな」
睦月も2人を見る。
「バカップルと、付き添いのお姉ちゃんみたいだな」
「1年も経つと、皆変わるな」
「変わらない人もいるよ」
弥生の視線が移る。
そこには――4人の女性。
睦月も視線を向ける。
「……あ」
「いや……変わってるかもしれない」
その瞬間。
4人の視線が、睦月へ突き刺さった。
「…………」
睦月は何も見なかったことにして、そっと視線を逸らした。
その先にいたのは――3人。
薔薇が神無月に食って掛かり、それを彼岸花が止めている。
弥生が首を傾げる。
「あの3人は……揉めてるのか?」
「揉めるよな……」
睦月は苦笑する。
「複雑だからな」
「まあ……時間が解決してくれると思うよ」
そんな2人のもとへ、聞き慣れた声が近付いてきた。
「久しぶり~」
「宵うさぎさん!」
「お久しぶりです!」
弥生と睦月が声を揃える。
宵うさぎは笑顔で2人を見る。
「うん~、ちゃんと飲んでる~?」
「はい。また飲み比べしますか?」
睦月が笑う。
「やらないよ~」
宵うさぎは笑いながら首を振った。
「睦月、弱いから~」
「宵うさぎさんが強すぎるんです!」
「宵うさぎさんも楽しめてますか?」
「うん~」
宵うさぎは笑う。
「酒、飲めるからね~」
そう答えた。
けれど――
その笑顔の奥に、僅かな寂しさがあることを、2人は感じていた。
月狼。
1年経っても、その名を口にすることは少ない。
それでも――忘れたことなど、1度もなかった。
その時。
「ほいうさひはん!」
向日葵がスイーツを頬張ったまま、宵うさぎへ声を掛けた。
「向日葵……」
睦月が呆れる。
「食べながら話すな。ちゃんと『宵うさぎさん』と言え」
「相変わらずだね~」
宵うさぎが笑う。
向日葵は慌てて口の中のものを飲み込んだ。
そして――
「こっちで甘いの食べようよ!」
「え~?」
「いっぱいあるよ!」
向日葵に手を引かれ、宵うさぎはスイーツの並ぶテーブルへ連れて行かれていく。
しばらくすると、二人の間に鈴蘭も加わった。
3人で楽しそうにスイーツを食べ始める。
その光景を見ながら、弥生が静かに呟いた。
「……終わったんだな」
「ああ」
睦月も頷く。
「色々あったが……」
「後は、俺達の人生だ」
「……ああ」
弥生は笑った。
「精一杯、生きよう」
「もちろんだ」
2人は再びグラスを合わせた。
その夜――
宴は朝まで続いた。
戦いの時代は終わった。
そして今度は、それぞれが自分自身の人生を歩んでいく。
その先に何が待っているのか――
それを決めるのは、もう誰でもない。
彼ら自身だった。
今後もよろしくお願いします。




