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今宵月 月花大戦 スピンオフ  作者: アル治


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5/8

スピンオフ  神無月・薔薇

いつも読んでいただきありがとうございます。

月花大戦を終え、薔薇は神無月を連れて家へ戻った。


屋敷の扉が開く。


執事とメイドたちが一斉に頭を下げる。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


神無月は思わず目を見開いた。


(……本当に、お嬢様なのか……?)


その視線に気付いた薔薇が、横目で神無月を見る。


(わたくしが嘘をついていると思っていたの?)


鋭い視線が神無月に突き刺さる。


神無月は慌てて目を逸らした。


執事が神無月へ視線を向ける。


「お嬢様、そちらの方は?」


薔薇は胸を張った。


「わたくし専属の執事です」


「何も知らないので、教えてあげてくださる?」


「かしこまりました」


執事は深々と頭を下げた。


「それと……お父様とお母様は?」


「お2人とも、お待ちです」


薔薇は頷くと、神無月を連れて屋敷の奥へ向かった。


父母の前に立った神無月は、緊張で身体が固まっていた。


一方、薔薇はいつも通りだった。


「お父様、お母様。薔薇、ただいま戻りました」


父親が優しく微笑む。


「薔薇、よく戻った。お前の活躍は見ていたぞ」


その隣で、母親は何も言わず薔薇を抱き締めた。


薔薇は少し頬を赤らめながらも、母親を抱き締め返す。


「お母様……わたくしは、ちゃんと戻って参りましたよ」


「うん……うん……」


「どうして、あんな大戦に出たの……。心配したんだから……」


薔薇は優しい表情で母親を見つめた。


やがて父親が神無月へ視線を向ける。


「薔薇、何故、神無月さんを?」


「記憶が戻られたと聞いているが……?」


薔薇は堂々と答えた。


「わたくしの専属執事です」


両親の声が重なる。


「えっ!? 執事?」


薔薇は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


そして――神無月の執事修行が始まった。


身だしなみ。


言葉遣い。


礼儀作法。


お茶の淹れ方。


掃除の仕方。


覚えることは山ほどあった。


神無月は、これまで戦場で幾度となく死線を潜り抜けてきた男だった。


しかし今――


最大の敵は、目の前の「お嬢様」だった。


3ヶ月後。


神無月は薔薇の前に紅茶を置く。


「お嬢様、お茶をどうぞ」


薔薇は一口飲み、少し考える。


「うーん……72点ね」


「最初に比べれば、随分と良くなったわ」


神無月は深々と頭を下げた。


「お褒めいただき、ありがとうございます」


薔薇は小さく笑った。


そんな穏やかな日々が続いていた――その時。


屋敷にチャイムが鳴り響いた。


薔薇が顔を上げる。


「神無月」


「かしこまりました」


神無月が玄関へ向かい、扉を開ける。


そこに立っていたのは――彼岸花だった。


神無月の顔色が変わる。


彼岸花は神無月をじっと見つめた。


「……何をしてるの?」


神無月は黙って俯く。


「思い出したのよね?」


「お姉ちゃんのお墓にも、まだ行ってないよね?」


「何がしたいの?」


「……約束は?」


神無月は苦しそうに答えた。


「……すまない」


「こちらの約束を果たしてから行こうかと思っていた」


彼岸花は鋭い目で神無月を見つめる。


その時――


「何をしているの? お客様の対応も出来な……」


薔薇が玄関へやって来る。


そして彼岸花を見て、言葉を失った。


「……彼岸花!」


彼岸花は少し微笑んだ。


「お久しぶりです!」


「神無月を迎えに来ました!」


薔薇の表情が険しくなる。


「何を言っているの!」


「神無月は、わたくしの執事です!」


彼岸花は静かに口を開いた。


「薔薇……神無月は、お姉ちゃんと……」


「判っています!」


薔薇が言葉を遮る。


「判っていますわ!」


「でも……わたくしは……!」


神無月は薔薇を見る。


「薔薇……すまない」


「一度、帰る」


薔薇の顔が強張る。


「なりません!」


「帰ったら……帰って来ないでしょう?」


神無月は何も言えなかった。


薔薇の声が震える。


「帰って来るって言いなさいよ!」


「わたくしの執事になるって……約束したんでしょう!?」


神無月は俯いた。


「……すまない」


「帰る」


「短い時間だったが……執事をやって、楽しかったよ」


神無月はそのまま屋敷を出ていった。


薔薇は、その背中を見つめ続ける。


彼岸花が小さく頭を下げる。


「薔薇……ごめんね」


「筋は通させたい」


薔薇は涙を堪えながら彼岸花を睨む。


「……わたくしは諦めませんからね!」


彼岸花は少し驚いたように目を見開き、それから優しく笑った。


「ありがとう」


「お兄ちゃんを好きになってくれて」


薔薇は顔を背ける。


「貴女に言われても、嬉しくありませんわ!」


そう言って、薔薇は屋敷の奥へ戻っていった。


その背中を見送りながら、彼岸花は小さく呟く。


「薔薇……本当にありがとう」


「今は……待ってて」


薔薇には聞こえないほど、小さな声だった。


そして――


神無月と彼岸花は、故郷へ帰っていった。


薔薇がその後、何を思ったのか。


神無月が故郷で何を選ぶのか。


彼岸花が2人をどう見ているのか。


その答えを知る者は、まだいない。


ただ1つだけ確かなのは――


3人それぞれの物語は、まだ終わっていないということだった。


End

今後もよろしくお願いします。

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