スピンオフ 弥生・鈴蘭
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月花大戦が終わり、2人は名家へ戻らず、共に歩む道を選んだ。
弥生は空を見上げながら、小さく呟く。
「……戻らなくても大丈夫なのか?」
鈴蘭は穏やかに微笑む。
「私は大丈夫……。弥生は戻るの?」
弥生は首を横に振った。
「戻らないよ。優勝もできなかったし、戻っても俺には何もないと思う。」
鈴蘭は少しだけ頬を膨らませた。
「弥生って優しいよね……。」
「私が食べたいものを食べさせてくれて、行きたい場所にも連れて行ってくれる。」
弥生は何も言わず、鈴蘭の言葉に耳を傾ける。
「でもね……。」
「弥生はどうしたいの?」
「私は弥生の気持ちが知りたい。」
「私の気持ちはいいの。私は弥生が好きだから。」
「だから……弥生の気持ちを教えて。」
弥生は真っ直ぐ鈴蘭を見つめた。
「鈴蘭が好きだ。」
「ずっと一緒にいたい。」
「付き合ってくれ、鈴蘭。」
その言葉を聞いた鈴蘭の頬は真っ赤に染まり、何も言わず弥生へ抱きついた。
それから2人は名家とは関わりのない土地へ移り住み、やがて結婚した。
穏やかな日々が流れるある日。
弥生は鈴蘭を見ながら首を傾げる。
「鈴蘭、最近食欲すごくないか?」
鈴蘭は困ったように笑う。
「うーん……お腹空くんだよね。」
弥生は思わず口を開く。
「鈴蘭……最近太っ――」
その瞬間、鈴蘭が慌てて弥生の口を塞いだ。
「それを言うな!」
鋭い視線に、弥生は口を塞がれたまま何度も頷く。
数日後。
不安になった鈴蘭は1人で病院を訪れた。
検査を終えた医師は穏やかに言う。
「次は、ご家族と一緒に来ていただけますか?」
鈴蘭は驚いた。
「えっ……家族もですか?」
「できればお願いします。」
その言葉だけを胸に帰宅した鈴蘭は、弥生へ事情を話す。
部屋には重い空気が流れた。
弥生は何も言わず、鈴蘭を優しく抱き締めた。
そして2人は手を繋ぎ、再び病院を訪れる。
診察室。
「ご家族の方ですね。」
弥生は頷いた。
「はい。夫です。」
「妻は……鈴蘭は、何の病気なんですか?」
医師は微笑んだ。
「妊娠、おめでとうございます。」
「えっ!?」
2人の声が重なる。
医師は優しく説明した。
「最近は、1人で結果を聞いて、そのまま逃げてしまったり、産まない選択をされる方も少なくありません。」
「そのため、できる限りご家族と一緒にお伝えするようにしているんです。」
診察室を出た2人は、しばらく顔を見合わせたままだった。
やがて鈴蘭が小さく笑う。
「名前、どうしようね。」
弥生も優しく笑い返した。
「男の子かな。」
鈴蘭は首を傾げる。
「女の子かもしれないよ?」
弥生は静かに答えた。
「どっちでもいい。」
「俺たちの子だから。」
鈴蘭は嬉しそうに微笑み、そっと弥生の肩へ頭を預けた。
窓の外には、どこまでも続く青空。
2人ではなく――3人の未来が、今、静かに始まろうとしていた。
今後もよろしくお願い致します。




