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今宵月 月花大戦 スピンオフ  作者: アル治


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3/8

スピンオフ  百合・師走

いつも読んでいただきありがとうございます。

島を脱出した後、百合と師走は師走の名家へ向かった。

師走は静かに襖を開け、深く頭を下げる。

「ただいま戻りました。」

部屋の奥に座る老人が、冷たい視線を向ける。

「此度の戦い……死者一名。」

「家名を汚しおって。」

師走は畳へ額が付くほど深く頭を下げた。

「……申し訳ありません。」

老人はさらに声を荒げる。

「しかも優勝も出来ず、どれだけ家名を貶めれば気が済む!」

師走は何も言い返さない。

その姿を見ていた百合が、一歩前へ出た。

「少し、よろしいかしら?」

老人は鋭く睨み付ける。

「なんだ貴様は!」

「我らの話に割って入るとは!」

「百合!」

師走が慌てて止めようとする。

しかし百合は振り返りもせず叫んだ。

「黙りなさい!」

その一言に、老人も師走も言葉を失う。

百合は真っ直ぐ老人を見据えた。

「神の陰謀を止め、命懸けで戦い、霜月まで止めた。」

「それのどこが家名を汚したとおっしゃるのですか!」

老人は顔を真っ赤にする。

「この小娘が……!」

その瞬間――

「もうよい。」

静かな老婆の声が部屋に響いた。

場の空気が一変する。

老婆は穏やかな笑みを浮かべ、師走を見る。

「師走。」

「此度の戦い、ご苦労であった。」

少し間を置き、優しく続ける。

「今後も家名のために働くつもりは……ないな?」

師走は目を見開いた。

老婆は百合へ視線を向ける。

「その娘を、幸せにせい。」

師走が何か言おうとした瞬間。

百合が胸を張った。

「もちろんですわ!」

「わたくしは幸せになります!」

「当然ですわ!」

老婆は楽しそうに笑う。

「ふふ……良き女子を見付けましたね。」

そして静かに告げた。

「もう、この家の敷居を跨ぐでない。」

「以上だ。」

師走は深く頭を下げる。

家の者たちは納得していない様子だったが、誰一人逆らうことは出来なかった。

屋敷を出た二人は、近くのカフェへ入った。

席に着くなり百合が笑顔で言う。

「わたくしたち、もう夫婦ですわね!」

師走は苦笑した。

「いや……まだ籍入れてないし。」

百合は首を傾げる。

「師走は、わたくしでは不満なのですか?」

「いや、そうじゃなくて……」

百合は嬉しそうに身を乗り出す。

「夫婦ですわ!」

「新婚旅行は世界一周ですわ!」

「新居はどうしましょう?」

「海外も素敵ですわね!」

師走は頭を抱えた。

任務ばかりの人生。

恋愛も家庭も考えたことがない。

しばらく黙ったあと、小さく口を開く。

「百合。」

「ちょっと、いいか。」

百合は笑顔のまま頷く。

「俺……どうしたらいいか分からないんだ。」

「金もない。」

「普通の生活なんて、したこともない。」

百合の笑顔が静かに消える。

「師走。」

「わたくしは貴方が好きです。」

「では……師走は、わたくしをどう思っていますの?」

師走は俯いた。

「分からない。」

「でも……。」

「百合には感謝してる。」

「何度も助けられた。」

その言葉を聞いた百合は、静かに席を立つ。

何も言わず店を出て行った。

「百合!」

師走は慌てて追い掛ける。

ようやく追い付き肩へ手を置く。

振り向いた百合は、涙を流していた。

「失礼いたしました。」

「わたくしの独りよがりだったようですわ。」

「師走も、わたくしを好きでいてくださると勝手に思い込んでおりました。」

「申し訳ありません。」

百合は師走の手を優しく払い、歩き出す。

師走は立ち尽くした。

そして――人生で一番、自分の心と向き合った。

失いたくない。

そう思った瞬間、答えはもう決まっていた。

街中に響くほど大きな声で叫ぶ。

「百合!!」

「俺と結婚してください!」

「俺は百合が好きです!!」

街中の視線が二人へ集まる。

百合は振り返る。

涙を流したまま、満面の笑みで答えた。

「はい!!」

周囲から自然と拍手が起こる。

誰もが二人を祝福していた。

落ち着いたあと、二人は並んで歩く。

百合は早速未来の話を始める。

「結婚式は和風も洋風もしますわ!」

「新婚旅行は世界一周ですわ!」

「新居は海外も素敵ですわね!」

「旦那様、わたくし幸せですわ!」

師走は苦笑する。

「いや、まだ旦那じゃないって。」

百合は不思議そうに首を傾げる。

「プロポーズしましたわよね?」

「……した。」

「結婚してください、とおっしゃいましたわよね?」

「……言った。」

百合は満足そうに微笑んだ。

「でしたら、もう旦那様ですわ」

師走は反論しようとして口を開く。

しかし、何一つ言い返せなかった。

「……そういう理屈かよ。」

百合は誇らしげに笑う。

「そういう理屈ですわ」

百合は未来の話を楽しそうに続ける。

師走はその隣を歩きながら静かに笑っていた。

悩みは、きっとこれからも尽きない。

百合に振り回される日々も続くだろう。

もしかしたら、財布の中身まで振り回される日が来るかもしれない。

それでも――。

そんな毎日を、少し楽しみにしている自分がいた。

戦場では決して見せることのなかった穏やかな笑顔を浮かべながら、師走は百合の隣を歩いていく。

二人の未来は、今日ここから始まるのだった。

今後もよろしくお願いいたします。

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