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第八話 反乱

 国軍指令省の周りは近代都市になっている。あちこちにビルが立ち並び、住宅、商店街、会社、工場が立ち並んでいる。人々は車や公衆電話を使って生活している。それと反対に街から離れると辺り一面田んぼに囲まれ、家も数件しかなく一週間に一度か二度車が通る程度だ。つまり貧富の差が激しいのだ。街に住んでいる人々は生活に何も不自由がないが、そこから離れるにつれ貧乏になっていく。子供に飯を食わせるのに精いっぱいな家庭だってある。さらにそこから離れると、そこの覇権を握っているのは人間ではなく動物だ。鹿やウサギが熊などに狩られる弱肉強食の世界だ。そんな世界にふたりの人間が足を踏み入れていた。ジゴロウはヒロをおぶっていつ何が出てくるかわからない森の中を歩いて行った。やがてジゴロウは自分で建てた木の家にヒロを入れた。

 ジゴロウはヒロを寝かせた後、台所に行きなにやら料理を始めた。鍋が体を震わせながら踊っている。中にはいくつかの野菜と今朝ジゴロウが狩ってきた熊の肉が入れられていた。ジゴロウは鍋が煮詰まる間椅子に座り老眼鏡をかけて本を読んでいた。この国がいかにして出来上がり、現在に至るかについて筆者の経験を混ぜながら書かれた本である。ジゴロウは机に置いてあるコップにはいった水を口に含み、時々ヒロのほうを見ながら本のページをめくった。しばらくしてから老眼鏡を外し、本を閉じ、鍋が煮詰まるのを確認しそれを二つの皿に盛りつけた。醤油のにおいが香る熊の肉の煮込みである。その匂いに呼ばれるようにヒロは目を覚ました。ヒロはあたりを見渡した。

(さっきまで国軍指令省にいたのにここは一体‥‥)

ヒロは自分の記憶をたどった。イヴァイアにゲントルの話の真偽を問いたいと具申したところ、イヴァイアの攻撃を受け、ビルから落下しイヴァイアと戦闘を繰り広げた。そして正門の向こうに吹き飛ばされて‥ヒロの記憶はそこで止まっている。気絶したのだ。ヒロはことの顛末をやっと理解した。そして次の段階へと移る。

(ここはどこだ)

「お、目覚めたな」

ヒロは声のするほうへ目を向けた。最初鋭かった目がまるくなり、警戒から安堵へと変わっていくのがわかった。

「じいちゃん!」

「おいヒロ。まだそれでよんどるのか」

ジゴロウは苦笑しながら料理が入った皿を机に置いた。ヒロはじいちゃんの作った料理をまじまじと見つめている。

「まぁ、食え。話はそれからだ」

ヒロは小さくうなずき、椅子に座り料理を食べ始めた。ヒロが肉を食べたときあまりに固く噛み切れながったがジゴロウは難なく食べている。やはりずっと山で過ごしている人は違うなとヒロは感心した。


 ヒロが八歳の時、彼とその両親は平和に暮らしていた。当時、ヒロの近隣の家に強盗が入る事件が横行していた。ある日の夜、二階で寝ているヒロが一階で物音に気付いて起きた。両親を起こして下へ降りると前を歩いていた父は突然床に倒れた。少年の目に腹から複数血を流している父の姿が焼き付いた。後になって気付いたが、その強盗は複数の刃を体から生成し攻撃するまさに殺すためだけの能力だったのだ。強盗は続けてヒロを狙った。すると、ヒロは突然後ろに引っ張られた。母がヒロの首も音の裾を引っ張ったのだ。母の背中から何本もの刃物が貫通している。母の右目は最後までヒロを見ていたが、次の瞬間その目から光が失われた。とうとう一人になり死を覚悟したヒロは目を閉じた。だがしばらくして目を開けると強盗の体は上半身と下半身で泣き別れになっていた。そして、その後ろに軍服を着た刀を持った人がいた。これがジゴロウとヒロの出会いだった。

強盗に襲われ、父母を殺された少年はじいちゃんの家に居候した。このころはまだジゴロウは町に住んでいた。両親が死んでから数週間、ヒロは部屋に閉じこもって泣いていた。そして部屋の前に置かれた食事を食べて生活していた。少年はジゴロウとジゴロウの妻に大切に育てられた。やがて、彼は軍人になることを決めた。同じような人をもうこれ以上増やさないために。そして、士官学校に入った翌年、ジゴロウと妻は家をおいてどこかへ消えた。ヒロは彼らの行方を捜したが結局見つからなかった。やがてヒロは卒業し戦士になった。八歳のときに誓ったことがやっと果たせるようになった。そして、国軍は自分と同じことを信じて戦っていると思っていた。だが、実際は違った。ヒロの信じていた軍は自分たちのために権力を使い、それがバレそうになった途端守るべき国民を抹殺したのだ!

 ヒロは深い絶望の淵にいた。これからどうやって生きていけばいいのだろうか‥‥何を信じて生きていけばいいのだろうか‥‥


 食後、ヒロはジゴロウにすべて伝えた。ヴェロヘラのこと、彼らの過去のこと、そして自分が国軍に裏切られたこと。次第にヒロは怒りに満ちた。イヴァイアに対し明確な殺意が湧いていた。

「そうか」

ジゴロウは空になった食器を洗いながらそうつぶやいた。ヒロは悔しさをこらえきれず泣いている。食器をあらかた片付けた後、お茶をもってジゴロウはヒロの向かい側に座った。

「大変だったな。だが怒りに身を任せてはならん」

ジゴロウはやさしく語りかけた。

「うん。分かっているよ」

「で、これからどうする? お前は追われる身になるぞ」

ヒロもそのことはわかっていた。ヒロはずっと考えていた。

「ヒロ、お前には大事な人はいないのか?」

「‥‥じいちゃんたち」

「ほかには」

「ほかには……ウェズ先輩、フブキ、イアン、ファイ。この前一緒に戦った仲間だ」

(そうだ。俺には仲間がいる。あいつらなら、俺のことを信じてくれるはずだ。そしてなにより、この国は制裁を受けなければならない!)

ヒロは奮い立った。

「じいちゃん。俺、国と戦うよ」

「‥‥そうか。わしとある意味同じだな」

その言葉に疑問を抱いたヒロは長年聞きたかったことと共にジゴロウに質問した。

「じいちゃん、じいちゃんの奥さんはどこだ? そして、なんであの時行方くらませた? そして、わしと同じってどういうことだ?」

ジゴロウは目をつむって腕を組み深く深呼吸したあと、目を開いて話し始めた。

「いずれ話すさ‥‥ヒロ、お前は自分の選んだ道を行け」

ジゴロウはそのまま上の階へ行った。ヒロは机につっぷした。しばらくたったあとヒロは立ち上がって水を飲んだ。それだけ体内から水分が出たのだろう。ヒロはまた椅子に座り考え始めた。国を変えるには、まずなにをすればいいのか‥‥

翌朝、ヒロは机から起き上がった。いつの間にか寝ていたらしい。後ろを向くと、ジゴロウが階段から降りてきた。ジゴロウはヒロに聞いた。

「ヒロ、本当にやるのか」

「死んでもいい。俺はやる」

ジゴロウはヒロの目を見た。迷いのない覚悟の決まった目だった。ジゴロウはため息をつくと、台所へ行き朝ごはんの用意を始めた。

「次死んでもいいと言ったら、お前を殴る」


 ヒロは出発の支度を終え、家を出ようとしていた。すると後ろから刀を腰に差すジゴロウがいた。

「じいちゃん、なんで」

「わしはもう永くはないからな。最後の任務に行く気力があるうちにやり遂げたい」

「そうか。頼もしいな!」

ヒロは笑った。それはジゴロウがいつか死ぬという悲しみを隠すための偽の笑顔だったかもしれない。ヒロとジゴロウは家をでた。ジゴロウは振り返って自分の家を見た。

(我ながらよく建てたな、こんな立派な家を)

感傷に浸っているジゴロウをしり目にヒロはすたすた歩いて行った。

次回は12月15日21時に公開です。

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