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第四話 ヴェロヘラ 後編

 サーガはファイに刀を向けてまさに斬らんとしていた。

__キラーファング

サーガの刀身に紫色の煙が広がる。ファイはこぶしを握った。だが、それはサーガへ向けられず、サーガの真下の地面へ向けられていた。

__垂直抗力 すいちょくこうりょく

とてつもない轟音が地面をつたって両者の耳に響いた。途端、サーガはファイの真上へ飛ばされていた。ファイは飛び上がり、サーガの背中にこぶしを叩きこもうとした。

__腕力 わんりょく

腕の筋肉が一気に増幅した。この打撃を加えられれば普通の人間ならば骨折は免れないだろう。だが、サーガは空中で体を反転させ、刀で防いだ。二人はそのまま地におちた。

(くらってしまった)

ファイは思った。右腕を見ると刀で斬られた傷から血がでている。

(この出血量からすると、三分以内に決着をつけるしかない‥‥)

「きっちいなぁおい」

ファイは心の中で舌打ちしながらもサーガの位置を探る。

(奴はどこだ…まさか)

ファイはヒロのほうを見た。案の定サーガはヒロを殺そうと刃を向けていた。いや、サーガはヒロを人質にしようとしているのかもしれない。ファイはこぶしを地につけた。

__磁力 じりょく

一瞬にしてヒロとサーガはお互いしりぞけあって距離が生まれた。ファイはすかさずサーガのほうへ向かった。サーガはヒロのことをあきらめ、刀をファイに向け、先にファイを殺すことを決めた。ファイとサーガが正面に向き合ったとき、互いに技を決めた。

__キラーファング

__腕力 わんりょく

激しい砂埃がこの場一帯を包んだ。ヒロはせきをした後二人のほうを見た。するとサーガは腹を押さえている。こぶしをよけたときに少しかすったらしい。その衝撃か痛みかはわからないが、サーガは気絶していた。一方、ファイは右下腹部から左上にかけて切り傷があった。そこから出血している。

(今すぐ助けなければ、ファイが死ぬ!) 

慌ててファイのもとへ行こうとしたヒロだったが上半身にも毒がめぐっていてついに体が動かなくなっていた。

(まずい、ファイが‥‥)

ヒロがファイのところへ再び目を向けたとき、一人の薄い茶色の短い髪をした少女が、ファイに手をかざしていた。

(あの少女はいったい何者だ)

__リペア

ファイの体に緑色の光る粉が降った直後、ファイは飛び上がった。

「傷が、治っている。これはいったい‥‥」

「私がしたの」

「お前は、誰だ?」

少女の茶色の目はファイの瞳を見てほほ笑んだ後、子供らしい高い声で答えた。

「私はユリ」

「‥俺はファイだ。それより、お前の能力はもしや」

「うん。私の能力は治癒。どんな怪我でもその人が死んでさえいなければ治せるよ」

「すげぇ。医者いらずじゃねぇか」

その時、ファイは気付いた。

「そうだ! 感心している場合じゃねぇ」

ファイはヒロのほうへ指を向けて言った。

「あいつを助けてくれ。毒にやられている!」

少女はヒロのほうへ歩いて行った。そして、手をかざした。

__デトックス

またしても緑色の光る粉が今度はヒロの体へ降った。その瞬間、さっきまでみじんも動かなかった手足が軽々と動くようになった。ヒロは起き上がると少女のほうを見た。

「ありがとう、助かった。君は俺の命の恩人だ」

ヒロはやさしく語りかけた。少女はほほ笑んだ後、立ち上がった。

「私、もう行くね。おばあちゃんに怒られちゃう」

「そうか。ところでなんでこんなところに?」

「もうちょっと行ったら市場があるの。そこへおつかいを頼まれていて、向かっていたら偶然あなたたちをみかけたの」

「そうか。邪魔して悪かったね」

少女は目をつむってヒロに笑って、そのまま背を向けて歩きだした。

ファイはヒロのほうへ歩いていって、隣にあぐらをかいて座った。

「どうやら、俺らは運に助けられたらしいな」

「あぁ」

「ところで、あいつ殺すか?」

ファイは気絶しているサーガを見て言った。ヒロも視線を向けた後なだめるように言った。

「いや、俺たちはヴェロヘラの壊滅のために派遣されただけで、殺しにきたわけじゃない。逮捕しておこう」

ファイは不満そうにサーガを見つめた。だが、にらみつけてはいなかった。いや、にらみつけられなかった。なぜなら、サーガはファイを斬ったとき、二回とも毒をあたえなかったのである。

 なぜサーガはファイに毒を注入しなかったのか、もしかしたらサーガ自身もわからなかったのかもしれない。

(なんにせよ、俺は正々堂々の戦いができなかった。相手が手を抜いたからだ)

ファイはそう考えをまとめた。ファイはやはり不満だった。

「そろそろ、意識が遠くなってきたか?」

ゲントルはイアンをあざ笑うように言った。イアン本人もそろそろ限界が来ていた。

(何か…考えなければ)

イアンの顔は次第に血の気が引いていっている。フブキも手を縛られたままでは能力が使えない。

「さぁ、仕上げといこうか」

ゲントルはイアンの首に絡まっている紐をさらにきつく締めた。その時、イアンは刀を落とした。

(勝負あったな)

ゲントルは価値を確信した。しかし、それが彼の最大の誤算だった。

__マグマ

地に突き刺さった刀から炎がでてゲントルとイアンをつないでいる縄を燃やしたのだ。引っ張られている縄はすぐさま気を失うように力が抜けていった。イアンはせき込んだ。そして、刀をもって攻撃に出た。ゲントルは縄をすぐさまイアンに向けたが、同じ手はくわない。

__陽炎 かげろう

炎が渦を巻いて縄の目の前に次々と現れた。それらはことごとく縄を燃やし縄は塵と化した。イアンの刀はゲントルのほうへ向かった。ゲントルはへその部分に一直線に切り傷を入れられた。炎の熱で瞬く間に止血され死には至らなかった。だが、かなりのやけどを負った。

ゲントルは濁った叫び声をあげた。しばらくしてそれは収まった。イアンはフブキの縄を解いて代わりにゲントルの手に付けた。

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