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第三話 ヴェロヘラ 前編

 テロ組織ヴェロヘラは最近できた組織である。名乗りだしてから数か月は音沙汰なしだったが、一か月前に国軍の軍事基地の一つに襲撃をした。たくさんの死傷者をだした。生き残った者の証言によると、構成員はたったの二人だそうだ。あまりにも不名誉なのでイヴァイアはそのことを秘密にし、構成員は何人かわからないと報告書を書き換えた。つまり、ヒロたちは今からたった二人に戦いを挑もうとしている。

「あれか」

イアンは奥にある建物に指をさした。こぢんまりとした小屋が一つたっている。入り口は表裏に二つあるみたいだ。

「みんな、あそこに突入するぞ」

ヒロたちは二手に分かれてそれぞれ表口、裏口へと向かった。フブキとイアンが裏口につこうとしたとき、突然目の前に縄が浮かんできた。

(まずい)

イアンはそう直感したが時すでに遅く二人は手足を縛られてしまった。

「よぉ、国軍」

茂みの奥から低い声が聞こえる。すると、三十代ほどの男が一人出てきて、フブキとイアンの前に立った。何日も寝ていないのか目元にくまが濃くついている。イアンはなんとか脱出を試みて体をいろんな方向に動かしてみたが、結束が強かった。

(おそらく、この縄はこの男の能力だろう)

イアンはこの男の倒し方と縄の脱出方法を同時に考え始めた。フブキも同じだった。


 ヒロとファイは表口へ向けて進んでいた。

(イアンたちはもう着いただろうか)

そう考えていた矢先、裏口のほうから何か物音がした。

「誰かいたのか?」

「分からないけど…」

ヒロが言いかけたその時、後ろに誰かがいる気配がした。とっさに振り返ると刀が自分の腕に刺さろうとしていた。ヒロは慌てて刀を抜いて防御に徹した。ファイは相手をすぐに捕捉し攻撃を加えようと動いた。

__圧力 あつりょく

途端に相手は苦しそうな声を出し後ろを向けて逃げ出した。ファイが追撃しようとしたところをヒロが引き留めた。

「なぜ止める?」

明らかにファイは不機嫌だった。ヒロは刀が少しかすって出血した腕を押さえながら

「ほっとけ。それよりあそこに入ることのほうが先だ」

と諭した。ファイは舌打ちしつつヒロの説得に応じた。二人が再び進み始めたとき、ヒロは少し体の自由がきかないような気がした。

(なぜだろう、体が思うように動かなくなってきているような…気のせいか)

 二人が小屋に着いた時、またしても後ろに敵がいた。二人がそれぞれ臨戦態勢を取りつつ後ろを向く。そこには三十代半ばほどの男が立っていた。刀を肩に置いて左手を腰に当てている。

「あんたら、国軍だろ」

「そうだが、てめぇは何者だ」

ファイはいつでも攻撃できるようにしながら話した。まるで獲物を狙う狼のようである。ヒロはファイを見たがすぐに刀をその男へ向けた。ただ腕から次第に力が失われているかのような感覚に襲われ始めていた。

「俺はサーガ。ヴェロヘラのリーダーだ。以後よろしく」

「サーガね。気が向いたら覚えとくよ」

ファイが嘲笑しながら言った。ファイからのあからさまな煽りを無視したサーガは淡々と話し続けた。

「ところで、右の小僧。体の動きが鈍くなってきていないか?」

図星だった。

(さっきもこいつにやられたのか)

(もしもこの感覚がこいつにやられたものだとすると、これが相手の能力ということになる。ただ、今は平然を装おう)

「…なっていない」

「嘘をつけ。俺の刀はお前の腕をかすったぞ? 切れただろ?」

「どういう意味…」

言いかけた瞬間、ヒロの足から完全に力が抜けた。ヒロは倒れると口から血を吐いた。手から吐いた血が一滴、また一滴と滴り落ちていく。

「ほらな、効いているだろう?」

ファイは突然倒れ血を吐いたヒロを見ていた。彼からすれば敵と話していたヒロが突然血を吐いて倒れたのである。ファイは倒れたヒロへ寄った。

「ヒロ、どうした?」

「‥あいつの刀に気をつけろ。あの刀に触れるとおそらく、毒をくらう」

「毒、それがあいつの能力か」

「たぶん‥」

「近接戦闘禁止か。俺の性に合わんな」

ファイは立ち上がるとサーガのほうを向いた。

「お前の能力は毒だな」

間を開けてサーガは笑い始めた。ファイの主義はサーガにも通じるらしい。

「ご名答。俺の刀に触れてから三分の間に体中に毒が回る。それからは死へのカウントダウンの始まりだ」

「つまり、それに触れなければいいだけだな」

「はっ。やってみろ」

サーガは刀をファイに向けた。ファイはにやりと笑った後サーガにめがけて突進した。


 イアンとフブキは縄の拘束からの脱出方法を考えていた。フブキはイアンのほうを向いてイアンの刀を見ていた。イアンはなぜ彼女が自分の刀を見ているのかわからなかった。

「俺は、ゲントルだ」

「ゲントルね。よろしく」

皮肉交じりにフブキは言った。ゲントルはその反応に満足した様子で話し続けた。

「お前らには人質になってもらう」

「なんの?」

「お前らが知る必要はない。お前らは…」

フブキとゲントルが会話している間イアンは思考を巡らせていた。

(ゲントルがフブキと話し終わるまでになんとか脱出しなくては)

必死に考えているとき、ふと思い立った。

(だからフブキは僕の刀を見ていたのか)

イアンは刀を抜こうともがいた。その様子はゲントルにも視認できた。

「おい、お前何をしている」

「あんたの話がつまらなすぎて体でも伸ばしているのかしらね」

フブキは微笑を浮かべた。ゲントルはその微笑を快く思わなかった。その時、刀が少し抜けて刃が縄にあたった。

__炎羅 えんら

刃から炎がでて縄を溶かした。イアン自身も熱くて耐えられないほどだったが幸い重度のやけどになるまえに縄をとけた。

「てめぇ!」

ゲントルが手をイアンに向けた瞬間無数の縄がイアンに伸びていく。イアンは刀を持ち、ふるった。

__陽炎 かげろう

刀を振ったときに炎がイアンの周りをつつみたちまち縄をすべて燃やした。その時、フブキも自由になった。フブキはゲントルのほうへ手の平を向けた。フブキの能力は雪である。直接的な攻撃はできないが相手を混乱させたり行動を妨害したりできる。

__ホワイトアウト

ゲントルの視界が白い雪で覆われた。まるで吹雪のようであった。ゲントルはしばらくの間実質見えない状態で戦う羽目になった。その間もイアンの攻撃をかわさなければならない。ゲントルは圧倒的劣勢に追い込まれていった。だが、それはまだ勝敗を決するものではなかった。

__ファイアクロス

イアンがゲントルに向けて炎を十字に切った。ゲントルはそれをかろうじてさけた。熱い炎に加えゲントルは生まれつき肌の感覚がほかの人より優れていて炎の位置を温度だけで把握することができたのである。ちょうどその時、ゲントルから視覚が戻った。ホワイトアウトの限界がきたのだ。攻撃をかわされて隙ができたイアンの首にゲントルは縄を絞めた。フブキが手の平を向けようとした瞬間にフブキは手を後ろに回され両手とも拘束されてしまった。

「危なかったぜ」

ゲントルはゆっくりと立ち上がった。彼は少なからずやけどを負っていたが重度のものではなかった。

おれがしくじったとイアンは瞬間に思った。しかしそれだけでは今はいけない。何かまた次の一手を考えなければいけなかった。

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