第二話 孤独
午後一時、三人は国軍指令省をでて、ヴェロヘラの潜伏先へ軍用車で向かった。フブキはまだ慣れないようで座り方がぎこちない。礼儀正しく座りながらこぶしを握り締めている。イアンはなにか考え事をしているのかずっと床を見ている。ヒロは辛気くさい空気をどうにかしようと話し始めた。
「みんなは、どうして軍に入った?」
「わ、わたしは子供のころに国のために働く軍人を見て、かっこいいなと思ったからです。その、ヒロさんは?」
「俺は小さいとき、強盗に襲われた。父は真っ先に殺され、母は俺を守って死んだ。もうだめだと思ったその時、じいちゃんに助けてもらったのだ。」
「じいちゃんって誰ですか?」
「カンダジゴロウ元上級戦士官だよ」
ヒロがその名を口にした途端、車内に沈黙が流れた。まるで冬のように空気が凍り付いていた。
「カンダジゴロウって」
イアンは驚嘆を隠せていない異様だった。もしも車でなかったらきっとひっくりかえっていただろう。
「あぁ。そのあとすぐ、じいちゃんは指名手配犯になった」
「確か同僚を何人も斬りつけた、でしたよね?」
「あぁ、たしか復讐のためだとかの噂があるな」
「彼はやっていないと思う。じいちゃんは俺を命がけで守ってくれた。そんなことするわけがない」
「確かに、かつて革命の裏の功労者といわれた方が復讐とかそういうに取りつかれるわけないですよね」
「私は復讐なんてばかばかしいと思います。そのためだけにすべてを捨てるなんて」
「‥‥そうか」
「イアンは? なぜ国軍に?」
「誰かを助けたいと思ったからだ。だけど、現実はそんな甘くないよな」
「いや、これから俺たちはヴェロヘラとかいうテロ組織を倒しに行く。それは、見知らぬだれかの命を救えることだと思う。だから、もし成功したらイアンも誰かを救えたことになるさきっと」
イアンは信じられないと言わんばかりの目でヒロを見た。
車が停止し、ヒロたち三人は廃屋の前に並んだ。
(ここに敵がいるのか、だが情報は確かなはずだ)
三人は中へ入ろうとしたとき、突然三人は後ろに引っ張られた。
「何!」
フブキが叫んだ瞬間、三人は壁にたたきつけられた。
「くっみんな無事か?」
イアンが立ち上がり二人を探す。ヒロはもう立ち上がっていて、フブキはお腹を片手で押さえながらも立ち上がった。
「気をつけろ! 敵は近くにいるぞ!」
三人がお互い背中を向けあって敵を探す。ヒロが動く何かを見つけた。
「あそこに誰か‥」
ヒロが言った瞬間
無数の雷が地面を走りヒロにあたる。ヒロは体をぶるぶると震わせ、やがて倒れた。
イアンは腰についている柄から剣を取り出した。
__炎羅 えんら
剣に炎がぐるぐると巻き付いた。彼の能力の一つは火。火を使った技を放つことができるのである。
(どこだ、どこに敵が…)
「あそこ!」
フブキが指をさすところには、ヒロと背丈が同じくらいの男性がいた。
「お前が俺たちに攻撃をしているのか?」
イアンがそう問いかけると、その男性は笑いながら答えた。
「ははは。そうだよ」
「お前はヴェロヘラの仲間か?」
「ヴェロヘラ? サーカス団か?」
イアンは少し混乱したがすぐに冷静さを取り戻し、再度会話を試みた。
「お前はなぜ僕たちを狙う?」
「単純なことさ。俺は強い奴と戦いたいだけだ」
こいつは戦闘馬鹿だとイアンは確信した。それと同時に無害であることも瞬時に理解した。そのとき
「おもしろいじゃねぇか」
ヒロがよろよろ立ち上がりながらそういった。腰にある刀を抜きながらヒロは自己紹介した。
「俺はヒロだ。よろしく」
「ほう。俺はファイだ。それと、お前は俺に勝てない」
「やってみなきゃわかんねぇよ!」
ヒロはそういうと刀を上に掲げた。ヒロの能力は光だ。
__フラッシュ
刀の先からまばゆい光が辺りをつつんだ。
「まぶしっ」
フブキも思わず目を閉じて腕で目を隠した。次にファイが目を開けたとき、そこにヒロの姿はなかった。
(どこへいった?)
ファイは周囲を見渡すがどこにもいない。その時、ファイは後ろの空気が揺れ動くのを感じた。
(後ろか!)
すかさずファイはしゃがみこみ、こぶしを地面につけた。
__磁力 じりょく
二人はたがいに退け合う磁石のように吹き飛ばされた。
「いってぇ。やるな」
「へっ、そっちこそ」
(おそらく、こいつの能力はなにかしらの力を増幅しているのだ。さっきは磁場を、そして雷は空と近くにあるイオンを増幅して生み出したのか!)
(ならば!)
ヒロは体を前のめりにした。
__ブライト
この技はヒロの身体能力を一時的に上げる能力である。それゆえヒロはさっきよりも速くファイの後ろについた。
「何!?」
ファイが後ろを向くより早く首に刀が当たった。刀はそこで止まった。死を覚悟したファイは生きている自覚と疑問が同時に脳裏をよぎった。
「なぜ殺さない?」
「俺たちの目的はヴェロヘラの壊滅だ。君が関係ないなら、殺す理由はない」
「いつか、お前やこいつらがやられるかもしれないぞ」
「そうはならない。なぜなら、俺が守るからだ!」
あまりに根拠のない話にイアンはつい頭を抱えてしまった。
(なにを無茶苦茶なことを…)
「そうだファイといったな、お前、俺たちの仲間になれ」
「…は?」
突然の提案にファイは思わず声がもれた。彼は自分が仲間になればチームとしての戦力が今よりも上がるので仲間になってほしいと言ってきたのだ。
フブキとイアンは互いに目をやって、ファイとヒロの両方を交互に見た。ファイは腕を組んで少し考えこんだ後、言った。
「信用できない。人間はそうやって俺をだました」
「どういうことだ?」
ヒロは首をかしげて尋ねた。ファイはのびのびしているヒロにいらついていたが自分の生い立ちについて話し始めた。
ファイは母親にとっては望まない妊娠だった。だが、殺す度胸は母親にはなかった。結局そのまま出産した。母親はファイが憎たらしかった。名前すらつけなかった。ファイは母親に毎日毎日暴言を吐かれていた。乳児が少年になったころ、母親はどこかへ消えた。男と駆け落ちしたらしい。ファイは一人になった。その時、ある青年が道端で彼を拾った。その青年は彼にファイという名前を付けた。ファイは青年を尊敬していた。いや、むしろ崇拝といってもいいぐらいだった。
ところが、その青年はファイを銀行に行かせた。銃とバッグを持たせて‥‥
ファイは捕まった。だが、その青年は捕まらなかった。ファイは刑務所を脱獄し、その青年を殺そうとした。しかし時すでに遅く、青年は半グレ組織に集団リンチに遭っていた。そのニュースを見たとき、ファイはほっくそえんだ。
それから数年、彼は盗みをして生きていた。
ファイが話し終えたとき、フブキは口元を押さえ肩を震わせていた。思った以上に涙もろい性格らしい。イアンはその様子を見て、そっとしておこうと決めた。
「…そうか。それは大変だったな」
「大変なんて言葉で片付けられるわけがないだろ!」
「そうだな。ごめん。だけど、みんながみんなそんな人間じゃない」
「……」
「それは、わかっているだろう? 少なくとも、俺たちはそんな人間じゃない。約束する」
「お前はラッキーだ。俺たちに出会えたからな! 大丈夫だ。お前はこれから絶対明るくなれる!」
説得できていないように感じる言葉だったが、怒りと憎しみに満ちていたはずのファイは不思議といてもいいなという気持ちが生まれていた。それはファイ自身も自覚できた。
「‥‥分かった。お前らについていこう」
ファイは彼らとついていくと決めた。それが幸運なのか不幸なのか、今はまだ分からない。
「なんかイライラしてきたぜ。もう奇襲はしねぇ。正々堂々やってあらぁ」
ファイは自分のこぶしを握り締めた。
ヒロはイアンとフブキをファイに紹介しながら敵の本拠地へと向かった。
次回からは二日に一回二十一時更新で行っていきます。すでに予約してあります。




