第二十九話 火種
ラジオ局にいたエマリスは国軍司令省へと走っていた。エマリスもまた参戦する気でいたのだ。
(伝えるべきことは全部伝えたし、あとはみんなを守らないと!)
(どれくらい寝ていた‥数十分くらいか‥‥)
午前十一時二十八分四十六秒、ミルは目を覚まし立ち上がった。すると、隣にスナイパーライフルがあった。ミルが廊下を歩いていると前から軍服を着た男が現れた。
「エストか」
「ミル戦士官」
ミルとエストは昔任務で共に戦った仲である。ミルはぼろぼろなエストを見ておそらくジゴロウにやられたのだろうと推測した。
(とにかくジゴロウの仲間と知られないようにしなければ‥‥)
「お前もカンダにやられたのか」
「はい」
「そうか、俺もやられた」
「戦士官でも歯が立たないのですか」
「あいつに勝てる望みがあるのはメイレス大戦士くらいだよ」
「‥そうですか」
「とりあえず、奴らを追うぞ。ついてこい」
ミルは先行した。
(どこか人気がないところへ行ってエストを黙らせよう)
そのとき、ミルが歩いている途中自分の足音しかしていないことに気付いた。
__直線 ちょくせん
ミルは風の流れから何かが飛んでくると予想し右によけた。ミルはエストを見た。エストは完全に正気を失っているようだった。
「カンダは俺が殺す。そのためにはお前に死んでもらわなければならないミル戦士官。お前の首をもっていってカンダを動揺させた隙に殺すのだ!」
エストは悪役のように高笑いし始めた。ミルはため息をついた。
(‥仕方がない。殺すか)
ミルは拳銃を抜きエストが反応するより先に撃った。エストは左腕を撃たれた。苦痛の叫び声が上がり膝をついた。それでもなおエストは目の奥に宿る復讐の炎を消さなかった。歯ぎしりしながらゆっくりと立ち上がる。
__曲線 きょくせん
エストが放った二本の線がミルの左右に到達したとき突如曲がりミルの上半身に迫ってきた。ミルは拳銃をしまい後ろに素早く退いたが足を滑らせた。ミルは右側に倒れ始めた。するとスナイパーライフルを持ちミルの体が床へ到達する前に一発撃った。エストの右足に弾が命中した。エストの右膝が貫かれ態勢を崩しついに立っていられなくなった。
「エスト、もうやめておけ」
「断る! この世で一番強いのはおれなんだぁ!」
「幼稚園児か」
「だまれ‼」
エストはさらに攻撃を続けた。体中に送られたアドレナリンのせいか自身の怒りのせいかはともかくエストは痛みを感じなくなっていた。それはまさに極限状態に追い込まれた獣のようだった。だが、エストはちょうどアドレナリンが切れたのか痛みが突然こみあげてきた。想像を絶する痛みだ。その苦しみからさらに怒りが募る。エストはおぞましい奇声を発した。その声にさすがのミルもたじろいだ。
__双曲線 そうきょくせん
ミルはしゃがんでかわした。だがミルがしゃがんだところへ線が来ていた。
__線分 せんぶん
(まずいな)
ミルは瞬時に左へ避けたが右手を床についていたため右手だけが逃げ遅れた。
(右手を失う。うん、じゃあ左手で撃とう)
ミルは左手にリボルバーを持った。そのときミルの右手の前に強化ガラスが現れ、線を防いだ。
ミルは即座にリボルバーをしまい、エストへむけ走り出した。
__放物線 ほうぶつせん
__楕円 だえん
ミルは2つともさらりと避け、エストの目の前まで来た。ミルは拳銃を左手へ持ち替え右手でソードオフのショットガンを抜きエストの顔面へ向けた。渾身の攻撃をすべてよけられたエストは完全に戦意喪失し、顔面蒼白になっていた。ミルはその様子を見て言った。
「エスト、俺に近づかれる前に極形式で壁を作るべきだったな。お前は自分の能力を使いこなせなさすぎだ」
エストの目がギロリとミルを見た。
(俺は、お前なんかに負けるはずがない!!)
「死ね!! 下等生物!!」
そして手をミルへ向けた。まだ攻撃する気らしい。だがミルはそれよりも早くエストの頭を撃ちぬいた。エストの首から上の体が倒れた。ミルはショットガンと拳銃をしまった。
「ばか野郎」
ミルはぼそっと呟いた。
そのとき、一人の女性が堂々と歩いてきた。
「危なかったわねミル。これでおあいこよ!」
「エマリス」
エマリスは褒めてほしいと言わんばかりに腕を組んでまじまじとミルを見ている。
「そうだね。おかげで右手を失わずに済んだ。ありがとう」
それを聞いてエマリスはにっこり笑った。ミルがそれを見たとき、とっさにエマリスを抱き寄せた。銃声が響いた。
銃弾はエマリスの右側の首をかすった。
「エマリス、無事か」
「‥‥‥」
ミルはエマリスの傷を見た。幸い致命傷ではないようだ。ミルは弾丸が空気を裂く音を聞き取ったのだ。おそらく避けなければ首を貫通していただろう。ミルは足の軍服を破ってエマリスの首元を押さえた。そこへ何人もの戦士がきた。
「ミル、エマリス、お前らも裏切りものか!」
(まだ残っていたのか)
「‥‥エマリス、そこを押さえていろよ」
「‥うん」
「とりあえず、あいつらを全員気絶させる」
「‥‥私も‥あなたを‥守る」
「無茶するな。大丈夫だ。君は自分のことを考えろ」
ミルはエマリスをそっと寝かすと、拳銃を抜き戦士たちのほうへと向かった。
ミルは戦士たちを全員気絶させた。そして、エマリスの元へ戻った。
「傷は大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
「そうか。無理するなよ」
「俺はこれから上に行く」
「私も、行く」
「だめだ。ここで、じっとしてろ」
エマリスは首を振った。
「首を動かすな。‥‥わかった」
エマリスはミルの手を握り、立ち上がった。ミルはエマリスの左手を強く握り離さなかった。
時は少し遡り、午前十一時二十七分八秒、ヒロはフブキのところへ走った。
「フブキ、左手を‥‥」
「た、ただの切り傷です。気にしないでください」
フブキは微笑みながらヒロに言った次の瞬間二人の背筋が凍り付き、フブキの笑みが消えた。
(後ろに、誰かがいる)
ジゴロウはすでに刀を抜いていた。ヒロは手を刀の持ち手に置き振り返った。
そこにいたのはメイレスだった。そして、メイレスの左手にはある刀が握られていた。三人はそれを見て動揺と恐怖を覚えた。その恐怖とはメイレスに対してだけではない。
「お前、それは‥‥」
ヒロが震える右手でその刀を指さした。フブキは手で口を隠していた。三人は次にメイレスから発せられる言葉が自分たちを絶望という奈落に落とすことを悟った。
「これは、死んだイアンの刀だ」
それを聞いた刹那フブキの足から力が抜けた。フブキが崩れ落ちる音のほかに発する音はなにもなかった。
「‥‥イアンが‥死んだ‥」
ヒロはメイレスを見ていたがその情報は脳まで送られなかった。ヒロは動揺を抑えきれなかった。額から流れる汗が音もなく床へ落ちた。フブキは涙を流していた。その音さえヒロには聞こえなかった。ただ自身の心臓の高鳴りだけが聞こえていた。ヒロは刀を抜いた。ファイのときにはできなかったことが今この状況ではできるのだ。
(よくもイアンを!)
「復讐してやる、メイレス‼」
「よせ! 感情に流されるな!」
ジゴロウの静止を無視しヒロはメイレスめがけ足を踏み出した。
次回は1月24日21時に公開です。




