第二十八話 決闘
午前十一時〇分二十七秒、ヒロとフブキは最上階に来ていた。
「なんだか、ひらけていますね」
「そうだな‥」
「お前らが反逆者か」
「誰?」
ヒロは目の前にいる茶髪の若い男を見て言った。
「おれはワイド・アルト・チェック」
ヒロは刀を抜いた。
「そうか。やっぱりこうなるか」
上級戦士官、チェックはゆっくり歩き出した。ヒロはチェックめがけ走った。
__リプレース
(なにがおきた)
ヒロの前にいたチェックが消えた。そしてフブキの叫び声が聞こえた。振り向くと、チェックがナイフをフブキの首に当てている。フブキは突然の出来事に状況が理解できなかった。だがフブキは冷や汗をかきながらも考えた。フブキからすると走って行ったヒロが突然チェックに変わったように見えた。
(ヒロさんとこいつの位置が、入れ替わった)
「ヒロさん! こいつの能力は‥…」
するとフブキに当たっている刃に少しだけ力が入った。そのときフブキは自分が殺されかけていることを思い出した。
「フブキ!」
「おっと動くなよ」
ヒロは静止した。だが刀を持つ右手はわなわな震えている。
(本当なら今すぐにでも切ってしまいたいがもしそうすればフブキに当たるかもしれない。じいちゃんならともかく俺にはフブキを避けてあいつを切るのは不可能だ、そんなことは分かっている。ならどうすればいい‥‥)
そこへ一人の男が歩いてきた。そいつはヒロやフブキがよく知っている人物だ。
「やぁ、ヒロ」
「イヴァイア」
ヒロはがなりの入った声で言った。イヴァイアはこの状況を見渡した後突然腹を抱えて笑った。その声はこの静寂な空気をいとも簡単に切り裂いた。イヴァイアの目には涙さえ出てきていた。笑いが収まり始めたころ、イヴァイアはまた話し出した。
「はぁ。面白かった。おいヒロ、俺と闘え」
「は?」
「何度も言わせるな。俺と闘え」
イヴァイアはチェックに目配せした。チェックはにやりと笑った。どうやらイヴァイアの意図が読み取れたようだ。
「ヒロ、もしお前が大戦士を殺せたらこの小娘を解放してやる。だが、もしも殺されればあの世で再会だ」
チェックが悪人顔をしながら言った。ヒロは歯ぎしりした。この条件を飲むほか考えが思い浮かばなかったのだ。知恵をしぼりだしたヒロはまずチェックの能力を知ろうと試みた。
「だめだ。戦いの途中でお前が邪魔してくるかもしれないじゃないか」
「ならこいつから教えてもらえ。さぁ気付いているだろう? 話せ」
フブキはチェックを睨みながら説明を始めた。
「ヒロさん! こいつの能力は特定の相手と自分の位置を入れ替える力です」
(なるほど、だからさっきチェックが消えたように見えたのか。あいつが俺と位置を入れ替えたから‥つまり、こいつは入れ替えができないのだ。もしもヒロとイヴァイアの位置を入れ替えてもチェックとイヴァイアの位置を入れ替えても意味がない。そしてチェックとヒロの位置を入れ替えたら本末転倒だ。フブキを入れ替えるのも同じだ。要するにチェックが能力を使う可能性は極めて低い、か)
「さっさと決めろよ。受けるか、受けないか」
ヒロはイヴァイアをにらみながら話した。
「あぁやってやる。どのみちお前を殺そうと思っていたからな」
「あぁそうかい」
__高潮 たかしお
イヴァイアは初めてヒロと闘ったときと同じ技を出した。ヒロはそれを予想していた。イヴァイアの攻撃をしゃがんでよけ、イヴァイアの間合いへと走り出した。
__光天 こうてん
イヴァイアの足に刀を突き刺した。そこが光だしやがて小さな炎ができた。イヴァイアはヒロを蹴り、手から水を出し消火した。
「いってぇな、このやろう」
__渦潮 うずしお
波が渦を巻きヒロへ向かった。
__ブライト
ヒロは普通のジャンプ力の倍の高さまでと飛び上がった。
__ライトロード
ヒロからの一太刀をイヴァイアはよけた。だが右肩の部分から出血した。イヴァイアは舌打ちしヒロと距離を取った。だが、ヒロは着地しまた技を繰り出した。
__閃光 せんこう
ヒロはイヴァイアへ一瞬で近づきまた斬った。イヴァイアは右肺の部分から出血した。だがイヴァイアも負けてはいなかった。刀を振るったあとの一瞬の隙をつき攻撃した。
__高潮 たかしお
ヒロは波をくらい数メートル吹き飛ばされた。ヒロは吐血した。イヴァイアはよろめきながらも立ち上がった。イヴァイアが立つと同時にヒロもまた立ち上がった。互いに満身創痍である。イヴァイアはヒロに指鉄砲を向けた。
__鉄砲水 てっぽうみず
人差し指から発射される弾丸のような水が勢いよくヒロめがけ飛んで行った。
__光柱 こうちゅう
何本もの光の柱がヒロの前に出現し弾丸を受け止めた。ヒロはイヴァイアの左へ回り込んだ。
__ストロボ
光輝く斬撃がイヴァイアに向かっていくそれに続けあと二回同じ攻撃をした。イヴァイアは一つ目を後ろへのけぞってかわした。そのままバク転したあと残り二つを視認した。イヴァイアはそれを見るや否や不敵な笑みをうかべ、それはヒロに不気味さを与えた。
__野空千波 やくうせんば
イヴァイアを中心に全方位に小さな水の波が現れた。その数はおおよそ千に及ぶだろう。それらはヒロの繰り出した二つの斬撃をいとも簡単に引き裂きそのままヒロへと襲い掛かってきた。ヒロは青ざめた。光柱では到底防ぎきれない、正面のどこを見てもやってくる波を茫然と見ていた。
(やられる‥‥)
まさにそのとき
__ダイアモンドダスト
ヒロの前に巨大な雪の壁ができた。それに波が当たるとその波は雪にめり込みはしたが貫通することはなかった。ヒロはフブキのほうを見た。フブキが右手を伸ばしていて、チェックが状況を認識しナイフに力を籠めようとしていた。フブキは目を閉じた。きっと死を自覚したのだろう。
そのときチェックの背中から血が噴き出た。チェックは吐血したがそれでもまだナイフを握っていた。フブキはチェックを押しのけた。フブキの左手にナイフが当たり切れた。
__ウィンドスノア
チェックの全身に雪がまとわりついた。チェックは態勢を崩し体が倒れ始めた。
__リプレース
いつの間にかフブキの体に雪がまとわりついていた。
(ひぃぃ寒い)
フブキは能力を解除したと同時に倒れた。
「痛ぁ」
フブキが顔を上げるとフブキと位置を入れ替えたチェックがナイフを逆手にもって今にも目を突きそうになっていた。
__杉薔薇 シダーローズ
チェックがナイフをもっている右手がちぎれチェックの左側へと吹っ飛んでいった。チェックは円形の斬撃が飛んできた方向を見た。そこには、ジゴロウがいた。
「てめぇぇぇ‼」
チェックが叫びジゴロウに走って向かった。
__風信子 ヒヤシンス
ジゴロウはチェックを斬った。チェックは股から頭までの切り傷とみぞおち付近に一直線の切り傷を受けた。まるで体に十字架をつけられたようだった。チェックはそのまま前に倒れ、息絶えた。
一部始終を見ていたイヴァイアはさっきまで優位にたち笑みさえ浮かべていた表情が一気にこわばった。
(あいつには勝てない‥‥)
イヴァイアの頭の毛から足先の毛細血管まですべての細胞が震えあがった。イヴァイアはヒロやフブキたちに目もくれず一目散に逃げだした。それを見たヒロも走り出した。
「じゃまだどけぇ!」
__波流 はりゅう
イヴァイアから出る水が川のように流れヒロへと向かう。ヒロは刀を再度握り締めその波を切り刻んだ。
「逃がすかぁ!」
__光輝燦然 こうこうさんぜん
ヒロはまるで土星の輪のような一直線の光になった。その光はイヴァイア横を通り過ぎて行った。イヴァイアは走るのをやめた。ヒロはイヴァイアの目の前にいた。立ち上がったヒロは振り返ってイヴァイアを見た。イヴァイアの体のいたるところから血が噴き出し倒れた。イヴァイアの光のない目はコンクリートの天井をただ見つめていた。
次回は1月22日21時に公開です。




