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第二十四話 尊厳

 午前十時二分五十一秒、ヒロたちは七階までついた。そこでサーガはふと立ち止まった。サーガの視界がとらえているのは政務局という看板とともにある扉だ。

「サーガ、早くいくぞ」

ヒロはサーガに言った。だがサーガは何も言わずただ立ち尽くしていた。

(奴がいるかもしれない‥‥)

「二人は先に行け」

サーガは二人にそういうとドアを開けて進んでいった。

(奴を殺れるのは今まで探がしてきて今このときしかない。やはり、俺はあいつを殺さなければ先へは進めない!)

 サーガは廊下を歩いていた。すると劇場のような場所へ出た。椅子が何百個も半円を描くように並んでいて、椅子の向いている先にはステージがある。そのステージにそいつはいた。サーガは刀を抜いた。そして椅子と椅子の合間にある道を進んでステージへ上った。軍の制服を身にまとい長髪で金色の髪をしている眼鏡をかけた男は手を後ろに組んで目を閉じていた。

__キラーファング

サーガはその男へと斬りかかった。だがその男はサーガの一太刀をさらっとよけ腹に一蹴り入れた。サーガはすぐに立ち上がり後ろに引いた。大戦士、名はソリエンド。彼の名はそういった。ソリエンドは目を開けサーガを見ると謝罪した。

「すみません、あのときちゃんと殺しておけばこんなことには」

「‥‥なぜ村のみんなを殺した」

本当は分かっている。あの男が軍の秘密を話したのをすべて聞いてしまったからだ。だから全員消された。なのに、どうしてまたこの質問をしたのだろう。

「そのほうが国にとって都合がよかった。いや、我々にとって都合がよかったからですね。民衆はみな盲目的でバカですから」

「‥‥‥」

「これはあくまで、私の考えですが自己犠牲という発想が、私には理解できない。安直で滑稽な自己満足にしか思えませんね」

「あなたの幼馴染のよう‥」

「もういい」

サーガの目にはソリエンドの姿以外何も見えなくなっていた。サーガの全身がソリエンドを殺すことだけに集中している。ソリエンドは床に置いてあった鉄の棒を持った。すると、その鉄の棒はやりへと姿を変形させた。ソリエンドの能力は変形。手で持っている物を別の形状に変化させることができる能力である。ただし銃や弓はできても弾や矢が生成できないため普段は変形させない。サーガは構えた。そして攻撃に出た。

__デスエアリー

サーガは突進しソリエンドへ突き技を繰り出した。ソリエンドはそれをやりではじきまたしても腹に蹴りを入れた。サーガはやりをつかんでソリエンドの右肩に刀を刺そうとした。するとやりが変形し今度は盾になった。キーンという音とともに刀の攻撃が防がれた。これ以上の攻撃は不可能と判断しサーガは身をひいた。

 今度はソリエンドからサーガへ向かって攻撃を仕掛けてきた。盾がレイピアへと変形した。ソリエンドの攻撃をサーガはひたすら受け流した。防戦一方だ。

(なんとかして反撃しないと!)

サーガはソリエンドの攻撃をかわすとステージを降り六列ある座席の三列目ソリエンドから見て右から入って身を隠した。

「そんなことをしても無駄ですよ」

ソリエンドは諭すように言うと、ステージの奥へ歩いていき大量の鉄の棒を取りだした。ソリエンドがそれをつかむとやりへと変化した。そしてサーガが隠れていた三列目の席を左から順番に一席ずつ貫いていった。

(まずい、このままいけば串刺しだ)

サーガは考えた。するとあることに気付いた。つらぬかれたやりの下の部分が、人が通れるくらいの空間になっていることに。サーガは刀をもってそこを這って進んだ。そして、何とか一番左の席まで移動できた。

(さて、ここからどうする)

サーガは勝つ方法を考えながら席の間からステージを見た。するとソリエンドがステージにいないことに気付いた。

(どこへ行った? どこへ‥‥‼)

背筋が震えるのを感じた。ソリエンドは後ろにいたのだ。

「私が意図的に作った空間をよくとおってくれました。では、串刺しにしてあげますね」

(まずい、死ぬ)

そう思ったとき、目の前にさぁぁぁぁと何かが流れてきた。

(これが走馬灯‥そうか、なぜおれがここまであいつを殺そうとしているのか思い出した)

 あの日、サーガは走った。それは自分の幼馴染であり、好きな人の無事を確認するために。だがその子の家も燃えていた。サーガはあきらめて戻ろうとした。すると家の中から声が聞こえた。その子の声だった。サーガは燃え盛る家屋に飛び込んだ。そして倒れているその子を発見した。おそらく少量の煙を吸ってしまったのだろう。

「ケリー、もう大丈夫だ! 今助けてやるから!」

「サーガ‥‥」

「あきらめるなよ!」

サーガはケリーをおんぶして玄関へと向かった。だが玄関にはソリエンドがいた。手には血のついたやりを持っている。サーガは迫りくる死の恐怖で体の支配権を失った。だが、ケリーが腕に力をいれたことで体の支配権を取り戻したサーガは反対方向の窓へと走った。ケリーはソリエンドのほうを見た。ソリエンドはやりをこっちへなげようとしていたのだ!

「サーガ! 危ない!」

ケリーがそういったまさにその時、二階がソリエンドと二人の間に焼け落ちた。二人は衝撃波で倒れた。サーガが身を起こしケリーのほうをみると、ケリーはお腹にやりが突き刺さっていた。ソリエンドのやりが飛んできたときにケリーはサーガを押して倒し自身のお腹に刺さったのだ。ケリーは涙を流していた。だが不思議と声を出さなかった。あまりの痛みに声が出せなかったのかもしれない。サーガはケリーのもとへ向かった。

「ケリー!」

「サーガ‥私‥‥‥なんでもない」

「なんでもないってなんだよ!」

「なんでもないの‥‥サーガは‥自分のために生きてね」

「‥っ」

サーガの目にも涙が浮かんだ。そのとき、ケリーは小さな手でサーガの手を握った。握られた手を見ると、いつも彼女がつけていたピンクのリボンがあった。炎のせいで七割ほど黒く焦げている。それを見たサーガが再びケリーの顔を見たとき、ケリーは眠っていた。サーガはケリーを抱きしめると静かに彼女を置いた。ケリーの腕を重ね、窓から外へ出た。サーガが外から出た数秒後、家は完全に崩壊した。そのあと、ゲントルと再会した俺はあの日いた丘ですっかり焼け野原になった村を眺めた。俺はゲントルに言った。すべて国が悪い、一緒にこの国の上の連中を倒そうと。

(そうだ。俺は、このときから復讐のために生きていた。ずっと、ただそれだけのために‥‥ごめんな、ケリー)

サーガは体をひねって座席に体をぶつけた。間一髪でよけられたサーガはそのまま前進して空間を抜けた。サーガは刀をソリエンドへ向けた。

(そうだ、単純なことだ。なにも斬らなくていい、ほんの少し傷ができればいい)

サーガは走って劇場を後にした。サーガは劇場から出ると倒れている戦士を見つけた。手にはナイフが握られている。

(これだ!)

劇場の出口を眺めていたソリエンドは地面に突き刺したやりを抜いてとぼとぼ歩きだした。廊下にでたソリエンドはドアの真横にいたサーガの攻撃をかわすとやりを突き刺した。サーガがよけるとまた刀を振るいあげた。それをやりで止めたときにサーガは刀から手を離した。ソリエンドは何が起きたか理解できなかった。

(なぜ刀を手放した‥‥)

すると、ソリエンドの右手首から血しぶきが上がった。サーガはナイフでソリエンドの右手首を切ったのだ。

__デスエアリー

ソリエンドの体が急激にしびれものの数秒で立てなくなった。傷口から血が滴り落ちていく。ソリエンドはサーガの後ろにいる倒れた戦士を見た。

「あいつからナイフを取り上げたのか」

サーガがソリエンドのほうへ歩いてきた。

「この技は通常の百倍の猛毒を出す技だが、今回はやさしめにしておいた」

ソリエンドは不思議に思った。

「なぜ‥殺さない‥‥」

「‥俺が自分の好きなように生きるためだ」

サーガはソリエンドの方を向い放った。

「お前には証言してもらう。村の住民を虐殺したことを含めた、国の悪事すべてを!」

サーガが復讐者という生き方をやめた瞬間だった。そしてこれからは自分のために生きると決めたのだ。あのとき、あの子が言ったように。

サーガはソリエンドに背中を向けて歩き始めた。

(馬鹿が! 今度こそ殺してやる!)

 ソリエンドはしびれ、痛む体をやっとの思いで起こしてそこにあった瓦礫を左手で持ち、やりに変えてサーガへ向け投げようとしたとき、一発の銃声と同時にソリエンドの頭から血が飛び散った。サーガが振り向くと、ソリエンドの死体と煙が上がっている銃を持った男がいた。

「お前は‥ウェズといったか」

「やぁ、ヒロのお仲間さん。危なかったね」

「ところでどうしてとどめを刺さなかった?」

「俺は、あえて刺さなかった」

「そうか。じゃ、俺は機械室に戻る。君ら全員を監視しておかなきゃいつやられるかわからんからな」

「ありがとう」

「おう」

そういってウェズは去って行った。


 ウェズは銃をホルスターに収め、廊下を歩いていた。すると目の前にイヴァイアが立っていた。

「おはよう、ウェズ上級戦士官」

「おはようございます。イヴァイア大戦士」

ウェズは手を後ろで組みながらイヴァイアの動向を伺った。イヴァイアはウェズの笑顔を横目に見ながら淡々と話し始めた。

「実はなぁ、反乱者どもがここに入ってくる前にセキリュティーが破られた」

「なっ それはまずいですね」

「あぁ。それでな、コンピューター室の監視カメラを調べたのだ」

(いや、監視カメラには何も映っていないはずだ。俺が全部書き換えたからな。ならなぜ‥‥)

「見たところなんの問題もなかった。だが、例えばこんなことはないか? 誰かが監視カメラなどの電子機器を操ったとしたら‥‥」

ウェズに衝撃が走った。

(うかつだった。俺の能力でできることを最初からわかっていて‥‥)

空を見ていたイヴァイアの視線がギロリとウェズに向いた。

「‥‥なぁ、ウェズ。お前じゃないよな」

ウェズはイヴァイアの手から水が出ているのを見た。とっさにホルスターから銃を抜き構えた。

__鉄砲水 てっぽうみず

ウェズは引き金を引く前に頸動脈を鋭い水の弾丸がかすった。ウェズは数歩後ろに下がったあと壁に背中がつき、倒れた。イヴァイアはウェズの銃を拾い、見下すような視線で歩いてきた。

「かわいそうに。今楽にしてやるよ」

「‥うっせぇ‥ばーか」

銃声が響いたのちイヴァイアが去った。午前十時十一分五秒。

そこには銃と頭から血を流した戦士官の遺体が放置されていた。

次回は1月16日21時に公開です。

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