第二十三話 刺客たち
午前九時三十五分四秒、ジゴロウはあらかたやってきた戦士たちを倒した。すると、紺色の髪色をした顔つきの言い好青年がすたすた歩いてきた。
「やぁ、初めまして。僕はエスト・ケイン」
エスト一等戦士は、自信過剰に加えコケにする男だ。ジゴロウは彼を一通り見た後、刀で斬りかかった。だがジゴロウの後ろへエストは回っていた。
「あれぇ? カンダさん、遅いねぇ?」
少しイラっときたジゴロウは相手の調子に合わせてしまった。
「うるせぇな、ガキ」
__直線 ちょくせん
エストはジゴロウのほうを向くと突然黒い線がジゴロウへ向かって飛んできた。ジゴロウは首を右に傾けると左側を黒い線が通って行った。そしてちょうど立ち上がった戦士の頭を貫通した。血が噴き出してその戦士は再び倒れた。ジゴロウはそれを見た後エストのほうを見た。
「カンダさんって、強かったですよねぇ昔は。でも今はたいしたことないですねぇ」
(いちいち煽ってくるめんどくさい相手だ)
ジゴロウは内心イラついていた。エストの能力はグラフ。直線などのグラフを具現化して攻撃する能力である。しかし操れるのは自身の出したものだけである。
__円 えん
その名の通り黒い円が回転しながらジゴロウへ飛んできた。ジゴロウは刀を突きの姿勢へと移行した。
__長実雛芥子 ナガミヒナゲシ
回転しているうちの四つを刺突された円は推進力を失い地面へ突き刺さった。ジゴロウは間合いを一気に詰めた。
__薔薇 ばら
炎に包まれた刀がエストに触れかけたそのとき
__線分 せんぶん
エストの手に短い黒い直線が現れジゴロウの刀を防いだ。そしてもう片方の黒い直線でジゴロウの左目を狙った。
__桜 さくら
ジゴロウとエストの距離はほぼゼロだったのでこの斬撃でエストをやれるだがエストは人間離れした体のひねりでそれをも回避した。
「お前本当に人間なのか?」
「人間だよ」
「どうも、才能にうぬぼれているらしいな」
エストの眉毛がピクリと動いた。
__楕円 だえん
エストの目の前に上半分の円が現れ、ジゴロウに向かって飛んできた。
__松毬薊 マツカサアザミ
灰色の壁が円を防ぎ、それを跳ね返した。エストはそれをひょいとよけた。
「もうそろそろいいか」
ジゴロウがそうつぶやくとエストは不思議がって首を傾げた。
「なにがそろそろいんだい? カンダ君?」
「もうそろそろお前の攻撃パターンは分かった」
「あっそ」
__向日葵 ひまわり
黄色の球体をエストに向け放ち、自身も突進した。
__極形式 きょくけいしき
エストの目の前に大量の線が現れやがてそれらが束になり壁になった。轟音とともに黄色の球体がぶつかったが壁にはとくに傷はなくそのまま消えた。すると、エストから見て五メートルほどの位置にジゴロウが走ってきていた。
__放物線 ほうぶつせん
エストは拾ったコンクリートの破片を何個かジゴロウに投げた。それらは通常ではありえないようなクネクネした軌道を描いてジゴロウに向かってきた。
__百合 ゆり
ジゴロウを囲むように現れた白いドームによりすべてのコンクリート破片はジゴロウにダメージを与えることはできなかった。エストは動揺した。
(今の回避技はなんだと、あれではこいつに攻撃を与えられないぞ、いや落ち着け。とりあえずこいつの攻撃を‥‥)
ジゴロウは薔薇を出すときと同じ構えをしていた。それを見たエストはさっきよけたときと同じ態勢で構えた。しかし、出された技は別のものだった。
__風信子 ヒヤシンス
突如ジゴロウがエストより低い姿勢になり、下を見たエストに向かって刀を振り上げた。すると、エストは下から上へ垂直に斬られ、加えて腹にも一直線に傷ができた。
エストは倒れた。ジゴロウは刀を鞘にしまった。
「な…ぜ」
「お前はわしの動きをよく見ている。それをありがたく利用させてもらっただけじゃ」
そういうとジゴロウはすたすた去ってしまった。エストは気を失う直前まで去り行くジゴロウの背中に手を伸ばしていた。
(‥俺は‥こんな年寄りに‥負けるような‥人間じゃ‥‥)
エストはそのまま気を失った。
午前九時三十五分二十八秒、エマリスは国軍指令省から少し離れたラジオ局で自身が国軍の大戦士に襲われたことやサーガの村の出来事などを告発していた。番組がいったんコマーシャルに入ったとき、エマリスは入り口付近にある自動販売機でホットココアを買い飲んでいた。そこへ軍服を着た男が入ってきた。エマリスはココアを飲み切ったときにその男を見た。エマリスは血相を変えた。そこにいたのはデミ・ナルゼブ一等戦士だった。エマリスとナルゼブはしばらくの間刑務所で共に働いていたのでお互い顔見知りだった。
「あなた、ナルゼブ? 生きていたのね」
「リリー・エマリスだな。われらの国にたてつくものには、死があるのみ」
するとナルゼブは手に持っているペットボトルをエマリスに投げた。当然エマリスはナルゼブの能力を知っているのですばやく防御に出た。
__モスド
強化ガラスがエマリスの前に現れ、ペットボトルを防いだ。ペットボトルが当たったとは思えないほどの重低音が響きそれは床に落ちた。ペットボトルは鋼鉄ほどの硬さになっていたのだ。
(投げている途中に硬度を変えたのね。でなければ投げられないはず)
エマリスは反撃にでた。
__ブロク
エマリスの前にあった強化ガラスが音を立てて割れた。
__ケピル
落ちていくガラスの破片が一斉に鋭い方を向けてナルゼブに向かった。ナルゼブは腕をクロスさせた。そして、自身をダイアモンドの硬度にかえた。つまり、ガラスの攻撃をすべてはじき防いだのだ。
「私の攻撃では通用しない‥」
エマリスは奥のほうにあるスタジオまで走って逃げようとした。だが足を上げ地面についた瞬間地面がへこんだ。ナルゼブが木の床を脆くしたのだ。それに足をとられエマリスは転んでしまった。倒れたエマリスが後ろを向くとナルゼブがガラスの破片をもってこちらへ歩いてきていた。エマリスは後ずさりした。騒ぎを聞きつけたラジオ番組のプロデューサーの男がスタジオのドアを開けてこちらを見た。
「おい、何かあったのか」
それに気づいたエマリスは彼に向かって叫んだ。
「逃げて!」
次の瞬間、ガラスの破片が男のわき腹に当たった。ガラス片は砲丸のような硬さになっていたため男はそこをえぐられた。男は倒れ、そのまま死んだ。
別の男がスタジオからこちらを覗き男の死体を発見した。男は恐怖で悲鳴を上げた。
「今すぐ扉を閉じなさい‼」
男はエマリスに言われるがまま慌てて扉を閉めた。
(今度こそ、殺される)
エマリスは死を覚悟した。ナルゼブは右手で再度ガラス片を拾い振り上げた。
そのとき銃の発砲音がしてナルゼブの右腕が壁に吹き飛んだ。エマリスは目を開け状況を把握した。
(今だ!)
__バース
__ブロク
ナルゼブの目の前にガラス板を出現さえ、それを割った。大量のガラス片がナルゼブに突き刺さった。ナルゼブは濁った悲鳴を上げた。かなりの激痛だろう。そのままナルゼブは倒れた。
エマリスは発砲音がしたほうを見た。そこにはスナイパーライフルを床に置いて構えていたミルがいた。ミルはスナイパーライフルを持ち上げて担ぎエマリスのほうへ歩いてきた。
「大丈夫か?」
「えぇ、ありがとう」
「国軍に対し告発しているラジオを聞いて来てみれば、どうやら本当らしいね」
ミルはエマリスに手を差し伸べた。エマリスはそれをつかみ、立ち上がった。二人は初対面だ。
「俺はミル。戦士官だ」
「私はエマ‥」
エマリスはミル後ろでナルゼブが立ち上がり、ガラス片を左手で持っているのを見た。ナルゼブの顔には無数のガラス片が刺さっている。エマリスがあぶないと言おうとした瞬間、ミルはソードオフのショットガンを抜いて自身の右肩に乗せた。そして左手で右耳をふさいだ。ミルはナルゼブの顔面にショットガンを撃った。ナルゼブは顔面血だらけになり倒れ、死亡した。
「さてと、それで君の名前は?」
ミルはショットガンをしまい、話を続けようとした。エマリスは唖然としていたがミルの質問に対し数秒遅れで答えた。ミルはエマリスからヒロたちが国軍指令省に乗り込んだことを聞いた。
「なるほど、だから指令省からの情報がないのか。ヒロ君たち暴れているな」
「ミル、ヒロたちの応援に行ってくれないかしら? 味方は多い方がいいと思うの」
「国軍指令省には行くが助けられるかはわからないよ」
「いいの」
「分かった。けど君の護衛はいいのかい」
「自分の身くらい守れるわ」
「ふーん、さっきやられかけていたように見えたけどね」
「うるさい」
エマリスは顔を赤くして頬を膨らませた。ミルはそれを見てすこしほほ笑んだ後入り口のほうへ歩き出した。
ミルはエマリスからもらった通信機でウェズに連絡をとった。
「こんにちは、ウェズ上級戦士官」
「この声はミル戦士官か」
ウェズとは暗殺の任務の際にターゲットの情報を聞くためによく会っていたので知り合いである。
「事情はエマリスから聞きました。俺もそっちへ向かいます」
「そりゃあ心強いな」
「ただし、俺は国軍側の人間を装います。でないと面倒ですからね」
「分かった」
「あと、ジゴロウさんはどこにいるか分かりますか?」
「あぁ。ジゴロウさんは今一階の東廊下で雑魚処理をしているな」
「ありがとうございます」
「おう」
ミルはウェズからの情報を聞いた後国軍指令省へ向けて歩き出した。
(国軍の闇か‥‥‥ジゴロウさんの過去、知りたくなってきたな)
しばらくしてラジオで国軍の男がラジオ局を襲撃し、局の人間を一人殺したことを放送した。このニュースが現国軍の信用を失う決定打となった。
次回は1月14日21時に公開です。




