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第十七話 しばしの休息

 午後七時三十分、周りはすでに夜になっていた。しばらく歩くと、二階建ての宿にたどり着いた。ジゴロウがその宿の中に入った。

「おーい。ミコト? いるかー?」

ジゴロウがそういうと、奥のほうから一人の薄い茶色の髪をした女性が出てきた髪を黒いヘアゴムで結んでいる。

「ジゴロウ! 久しぶりだね。顔、ニュースに出ていたよ? 派手にやったね~」

ミコトはジゴロウを見るとにこやかにわたって言った。

「わしを含め六人いるのだが止めてくれないか?」

「いいさ、たいして人もいないからね」

「ありがとう」

ジゴロウはあとの五人を中へ入れた。

「こいつはハライミコト。わしの幼馴染じゃ」

「こいつとはなんだ、こいつとは」

ミコトはジゴロウの腕を肩でついた。ヒロはジゴロウと対等に話せる稀有な人物をまじまじと見ていた。

「やだ、そんな見つめても何も出ないよ」

ミコトは手を頬において照れている。

「その、じいちゃんとこんな打ち解けている人がいるとは思わず」

(おばあちゃん以外)

「じいちゃん! あんた、じいちゃんって呼ばれているの?」

ミコトは腹を抱えて笑った。自分と同年代で昔からの顔見知りが年寄り扱いされているのがとても面白かったらしい。

「そうか、あたしらも年寄り扱いされる日が来るとは。ついこの前まで高校生だったのになぁ」

「からかうのやめろ」

「なに? だめ? それとも年を認めたくないの?」

うまく反論できず黙り込んだジゴロウを見てミコトはさらに笑った。なんだか、暖かいところだなとヒロは思った。一方、蚊帳の外に置かれている四人はただただ会話が終わることを待つしかなかった。

 そのとき、一人の少女がヒロたちの前に現れた。ファイはその子を見て陽気に話しかけた。

「お前、ユリか」

「あ、あのときの!」

ファイはサーガと戦ったときの話をミコトにした。ユリは誇らしげに笑った。

「かわいい!」

フブキは少し飛び跳ねてユリの頭を撫でた。

「ユリ、一つお願いがあるのだが」

ヒロがユリに言った。

「な~に?」

「ファイ、イアンの怪我を治してほしいのだ」

「いいよ! どんなけが?」

「火傷だ」

「やけど! すぐしないと大変なことになるね」

ユリは手を一人ずつ体に向けた。

__リムーブ

ファイとイアンの火傷が完治した。通常残るはずの火傷の痕さえなかった。イアンはユリの能力に驚きを隠せなかった。フブキはにこにこしながらまたユリの頭を撫で始めた。すると今度はユリがフブキの頭を撫でた。二人は既に仲良しらしい。

 幸い六人は各自の部屋で寝ることができた。サーガは二階にある自分の部屋に入ると真っ先にベッドに横たわった。まさか、自分の嫌いな国軍と一緒に闘うことになるとは‥ゲントルは承知するだろうか。そのことを念頭に置きながら天井を眺めていた。シャンデリアが静かに光をともしていた。やがて、夕食の時間になった。サーガは一階に下りた。食堂へ行くとほかの五人はすでに椅子に座っていた。その中でもファイは一段と腹をすかしているのかはたまた新しい環境に慣れないのかずっと小刻みに体を揺らしていた。ミコトが皿をもってきた。皿を六人の目の前に置いた。不満げな顔をしているファイを見ながらミコトは笑って言った。

「何が食べたい?」

ファイはそっぽを向いて答えた。

「なんでもいいから腹がふくれるやつを頼むぜ」

「はいよ」

ミコトがそう返事をしたとき、皿の上にカレーライスが盛られていた。ファイはスパイスのにおいがしたので皿の方を向いた。とてもおいしそうなカレーをみて思わずよだれが垂れている。ファイはミコトが持ってきたスプーンを思い切り取るとすぐさま口にかきこんだ。ミコトの能力は料理。出したい料理を想像するだけでその料理を顕現させることができる能力だ。この能力が便利すぎるせいでミコト自身の調理技術は皆無である。ジゴロウは高校生のとき、ミコトが自身で作った料理を食べたことがあるが、そのときジゴロウは生涯で初めて気絶した。


ヒロはシチュー、フブキはカルボナーラ、イアンはボルシチ、サーガはとんかつ定食、ジゴロウはさんまの塩焼きをそれぞれ頼んだ。全員が食事とお風呂を終え、各部屋に戻った時にはすでに九時を回っていた。ようやく眠りにつける。フブキは部屋に戻ると化粧を落としてお風呂に入り、髪をとかした。そしてベッドに入った瞬間突如として疲労が襲い掛かりあっという間に眠ってしまった。


ジゴロウはロビーでミコトと座っていた。

「昔は楽しかったな」

ジゴロウは突拍子もなくミコトにそういった。

「何? 未練?」

「いや、違うぞ」

「‥まぁ確かに楽しかったよ」

ミコトは天井を見て思い出しながら笑った。

「ほんとに昔はよく無茶やったね」

「まったくだ」

しばしの沈黙の末、ジゴロウはミコトの方を向き話した。

「ミコト、なぜわしらをすんなり‥‥」

「おばあちゃん、おやすみ」

「おやすみ」

ユリがいきなり現れミコトにそういって去っていった。ジゴロウはユリが去っていくのを見たあと、質問を変えた。

「ミコト、お前結婚していたのか」

「違うよ」

「じゃあ、あの子は一体」

「あの子は養子だよ」

ミコトはユリのことについて話し始めた。ミコトによるとユリの両親は一年前国軍によるテロリスト殲滅作戦に巻き込まれて死んだそうだ。ユリ自身テロリストに捕まっていたが目を離した隙に逃げ出したそうだ。それから丸一日飲まず食わずで気を失いかけていたところをミコトが偶然発見したらしい。

「あと少しで衰弱死していただろうね。危なかった」

「そんなことがあったのか」

「あの子は親のことはそれしか言わないのだ。そして泣き言もいったことがない」

「あたしはてっきり受け入れたのかと思っていたよ。でも、ある日の晩、あたしはトイレに行こうと思って起きたとき、あの子は寝言で言ったのだ。『ママ、どこ?』って」

「あたしは思った。あぁ、どうしてこの子は一人にならなければならいのかってね。それからあたしはこの子を育てることを決めたのさ」

ミコトはため息をはきながら言った。

「‥子供が寂しい思いをするのは耐えられないよ」

「‥‥ところでミコト、お前もおばあちゃんって言われているのか」

ジゴロウはミコトを茶化すように言った。

「それは、あの子にとって母親は一人だし、あたしはもうこんな成りだからね。そういわせているだけだよ」

「そうか、お互い年をとったな」

「だね」

ジゴロウとミコトは笑いあった。

次回は1月2日21時に公開です。

よいお年を!

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