第十二話 脱獄 前編
午前十一時頃、ヒロたちは刑務所の目の前にある茂みに身を隠していた。刑務所の正門には二人の警備兵がいる。イアンは二人を警戒しながらあいつらの裏をかいて侵入しようと提案した。だがヒロはまったく別の考えを持っていた。
「いや、じいちゃんにあそこで暴れてもらおう。その隙に侵入する」
ジゴロウは目を丸くして自信満々な様子のヒロを見た。
「刑務所内はまだまだ刑務官がいるぞ。それを一人で‥‥」
イアンの消極的な発言にジゴロウの眉が動いた。
「任せておけ。わしが全員相手してやるわ!」
「じいちゃん、危険がない場合はくれぐれも殺さないように」
ヒロがそう注意したあとジゴロウは茂みから飛び出して行った。俺も行きてぇと飛び出そうとするファイをフブキがだめといなし、ジゴロウが暴れまわるのを待った。ジゴロウは刀を抜き目の前の警備兵二人を瞬きする間に倒し刑務所内に入った。ジゴロウが入って五秒後には轟音とともに刑務官と思われる人の叫び声がして、煙が立ち込めていた。
フブキとイアンは目が点になっていた。ヒロはそれみたことかと言いたげな様子で眺めていて、ファイはひたすら口をあんぐり開けていた。
「よし、行くか」
ヒロはイアンたちと一緒に悠々と刑務所内に入った。
「正門から敵襲です!」
刑務官の一人が刑務所内あわただしく走りながら叫んでいる。先刻、別の人間の拷問という名の処刑を終えたばかりのハームは休憩室でコーヒーを飲んでいるときにその報を聞いた。ハームは慌てることなくコーヒーを飲み干し、手を拭き終えすたすた歩きだした。
__桜 さくら
桜色の斬撃がジゴロウを中心に全方位に飛んでいく。当たった刑務官たちは全員後ろに吹き飛ばされた。少なからず怪我はしていたが死ぬほどではない。ちょうどそこへハームは到着した。
「やぁ。僕はハーム・ヘル・ぺ‥‥」
「うるさい」
ジゴロウはハームの自己紹介を遮り、刀を振るった。すると、正面にいたハームはジゴロウの右のほうへ一瞬で移動した。
「まだ自己紹介がすんでいないだろう」
「悪いが、あんたのことはどうでもいいからさっさとのびてほしい」
「ふっ、面白い奴だ」
ハームはジゴロウのほうへ手を向けた。
__ボディフォール
__百合 ゆり
ジゴロウの周りに白いドームが出現した。ハームは目を疑った。確実に体全体に激しい痛みを加えているにも関わらず、ジゴロウは平然としているのだ。ハームはすぐさま心臓一点に攻撃を集中させた。それでもなおジゴロウは動じず立っている。百合の能力はハームの攻撃さえも受け流す最強の防御なのだ。ジゴロウはついに耳掃除まで始めあくびをした。ハームは頭にきていた。
「こうなったら、これで決めてやるよ。あんたが立っていられるのも今だけだ!」
__マインド……
「遅い」
ジゴロウはハームの目の前に現れると、刀の持ち手の部分でハームの首を叩いた。たちまちハームは倒れこんでしまった。
「なんだ、こいつは。いちいち偉そうに」
倒れたハームを見ながらジゴロウはぶつぶつ独り言を吐いた。
「久しぶりだな、カンダ元上級戦士官」
ジゴロウが後ろを見ると軍服を着たサングラスをおでこに着けている紺色の髪をした男が腕を組んで仁王立ちしていた。
「大戦士、エカム・マッサー」
ジゴロウは相手の名をつぶやいた。それを聞いたエカムはにやりと笑い答えた。
「いかにも。あなたとは昔手合わせして以来ですな」
「そうか、覚えとらん」
「あの時は負けたが、今回は勝たせてもらおう」
「あぁそうかい」
ジゴロウは刀を向けた。エカムは手のひらを地面に向けた。エカムの能力は氷。氷の使っていろんな攻撃を行える力だ。
「今回は手合わせじゃなくて、殺し合いだな、カンダ!」
__躍氷 やくひょう
エカムの両手に氷でできた手裏剣が出現した。エカムはまず右手それから左手を動かしてジゴロウにそれを投げた。手裏剣は回転しながらジゴロウに左右から飛んできた。
__蓬 よもぎ
ジゴロウは右から飛んできた手裏剣をよけ、左から飛んできた手裏剣を突き刺した。するとついたところから緑色のオーラがでた瞬間手裏剣は遠くに吹き飛ばされた。交わされた手裏剣が後ろを狙ってきたときジゴロウはしゃがんでかわし上を通過する手裏剣に突き刺してエカムめがけて飛ばした。エカムはそれをキャッチすると
__氷柱 つらら
エカムの後ろに無数のつららが出現し一斉にジゴロウに襲い掛かった。
__向日葵 ひまわり
ジゴロウの刀の先に黄色い球体ができ、それを飛ばした。無数にあったつららはすべて黄色い球体にあたって消えた。エカムはそれをよけた。後ろにあった刑務所の入り口が吹き飛んでしまい、入り口がかなり広くなった。
「よくも壊してくれたな。修理代結構高いぞ、ありゃ」
エカムはゲントルに突撃した。エカムとジゴロウはお互いに素早く交戦した。
ヒロたちはまず所長室へ向かった。そこに犯罪者がどこにとらわれているかわかるはずだと考えたのだ。発案者はフブキだ。四人は所長室へ入った。目の前には窓と机があり、左のほうに本棚があった。イアンがそこに受刑者リストと書かれた本を見つけた。四人が探していると
「おい、こいつじゃねぇか」
とファイが開かれたページを指さした。
「742982番 サーガ 742983番 ホーヴ・ゲントル。これだ。場所は、235のA地区だ。行こう」
ヒロはそういって所長室を出た。すると
「どこ行くの?」
左に軍服を着た。やけに大人びた金髪でロングヘアの女性が腕を組み、足をクロスさせながら壁に寄り掛かっていた。
「私はリリー・エマリス、戦士官よ」
「あなたたち、もしかして正門で暴れている老人の仲間かしら? 目的は? 誰かを探しているの?」
エマリスはヒロたちのほうへゆっくり歩きながらヒロたちを質問攻めにした。
「みんな、先に行け。こいつは俺が」
「私も残ります。二人で行って」
フブキがヒロの横に立って行った。ファイとイアンは二人に任せてヒロたちと反対方向へ走り出した。
「あら? 当たりかしら。なら、お仕置きしないとね」
エマリスは組んでいた腕をおろして壁から離れ二人を見つめた。エマリスの能力はガラス。ガラスを生み出しそれをもって攻撃する力である。
__バース
エマリスの前に大きな窓が現れた。だが、現れただけで何も起こらない。
(何もしてこない、ならば先手必勝!)
ヒロはエマリスめがけ走った。
「ヒロさん、待って!」
__ライトロード
ヒロが窓に刀を振り下ろそうとした瞬間
__ブロク
突然窓が割れガラスの破片が飛び散った。ヒロは立ち止って回避しようとした。
__ダイアモンドダスト
ヒロの目の前に雪の壁ができてガラスの破片を防いだ。フブキがヒロのもとへ走る。
「大丈夫ですか? あんまり無茶しないでください」
フブキはしゃがんでヒロ見て言った。ヒロはいつの間にかしりもちをついていた。ヒロは呆然としていたがすぐに自我を取り戻した。
「フブキ、ありがとう。助かった」
「ど、どういたしまして」
フブキは顔を真っ赤にして床を見ながら小さく返答した。すると
__ケピル
二人のほうへガラスの破片が飛んできた。ヒロは立ち上がってフブキを立たせた。
__ストロボ
刀から飛んで行った光の斬撃がガラスの破片を切り裂いた。
ヒロは再び刀を構えた。
「エマリスの能力は、ガラスの破片を操る能力か」
「はい‥‥たぶん」
(どうすれば対処できる?)
ヒロはすぐに攻撃できるように体制を整えつつ考えた。
「ヒロさん」
フブキがヒロの服の裾をちょんちょんと引っ張った。
「私がエマリスを狙います。ヒロさんはエマリスの注意をひいてください」
ヒロは力の入ったフブキの目を見てうなずいた。そして、二人は雪の壁からでてエマリスの前に立った。
「やっと冬眠から出てきたの? 小さなリスちゃんたち」
「お前のほうが小さいだろ」
ヒロはエマリスのあからさまな煽りを一蹴した。エマリスは笑顔を崩さないまま技を出した。
__モルド
「あれは、強化ガラス」
エマリスは強化ガラスをそのままフブキのほうへ飛ばした。フブキは顔を腕で覆ったがヒロが前に現れ
__光柱 こうちゅう
光の柱がヒロたちの目の前に出現し強化ガラスを受け止めた。ヒロはフブキに目を閉じろと小声で話し、刀を掲げた。
__フラッシュ
すさまじい光でエマリスは目を覆った。フブキはその様子を確認すると、エマリスのほうへ両手を広げた。
__ウィンドスノア
大量の雪がエマリスの体にまつわりついた。光が収まったとき、エマリスは自身の体が雪で動けなくなっているのを目の当たりにした。
「何、これ!」
必死に動こうとしたがなかなか抜け出せない。そして
「エマリスさん、感じる? だんだんと体温が奪われていく感触を」
フブキはエマリスを見てにっこり笑った。フブキは直接的には攻撃できないが相手の体温を奪って間接的に殺すことができるのだ。
「冬眠しなさい、かわいいリスちゃん」
フブキはエマリスを見ながらまた不敵に笑った。
「フブキ、殺すなよ‥‥」
フブキの意外な一面を見たヒロは若干引き気味に言った。
「わ、分かっていますよ」
フブキはばれないていどに顔を赤らめながら言った。エマリスはすでに意識を失っていたのでフブキは技を解いた。二人はその場を後にした。
次回は12月23日21時に公開です。




