引渡し
リリアンヌを連れて、セルイの家に入って行く。
リビングに着き、全員が落ち着くのを待って、用意したコーヒーを飲みながら、リリアンヌに聞く。
「さてと! どこから話しますか!」
リリアンヌは頷くと、ゆっくりと話始めた。
「私に起こった出来事でいいかしら?」
セルイと詩音は顔を見合わせ、頷く。
「そうね。私は、あの日、私と同じ世界から何者かが転移して来た事を知ったの。それで……私は……今の生活を守りたくて……ただそれだけで、あの男に会いに行ったわ。でも……そこで私は操り人形にされてしまった。とても長い間だったような……あっという間だったような」
そこで区切るリリアンヌに、詩音が聞く。
「元の世界に帰りたいとは思わなかったのか? それと、貴女は記憶はどうなのだ?」
「もう数百年も前になるんですもの。今更帰りたいなんて思わないわ。……それより、記憶って?」
首を傾げるリリアンヌに、セルイが言う。
「この子、詩音もとい閃光のブラックパールは、転移して来てから、元の世界の記憶が失われはじめてるんスよ。だから、オタクはどうかなって」
「そうなのね。私は……今でも元の世界の事は鮮明に覚えているわ」
「そうっスか。何が違うんスかね?」
顎に手を当て悩むセルイに、リリアンヌが、
「違い……ね。確かあの男も記憶が無くなるとか言っていたわね。おぼろげだけれど。何か共通点はないの?」
「そうっスね。南部聖司と詩音は同じ世界から来たっス。んで……元の世界との契約で本名を名乗れなくて……新しい名前を手に入れた!」
そこでセルイはハッ! とする。
「もしかして、リリアンヌ! オタクは元の世界と同じ名前を使ってるんじゃないスか!?」
「!!」
閃くセルイと驚く詩音に、リリアンヌは深く頷くと、
「ええ。私の名前は元の世界と同じ、本名よ。リリアンヌ・ゼル・ハロースゥイート・アイゼン」
「な!? 魔族は契約を結んでいないのか!?」
リリアンヌは頷く。
「ええ。私達魔族は……と言っても数百年前の時点の話だけれど、世界と契約はしていないわ。魔族が契約をするのは魔王様だけだもの」
「なるほどね。だからオタクは元の世界の事を覚えている。と。んで? オタクはそれからどうしたんスか?」
セルイの質問に、
「……この世界であの人と出会ってしまった。私は……愛を知ってしまったの。あの人と共に居たい。それだけで幸せだったわ」
そう言って懐かしそうに首に下げたペンダントを撫でる。
「つまり、オタクは愛する人と一緒にいたくてこの世界で生きて来たと。ん〜じゃあ尚更、南部聖司になんで会いに行ったんスか?」
頭をかきながら言うセルイに、
「なんだか嫌な予感を感じたのよ。……それは正解だったわ。彼は……裏からサクヤ議会と、そして光ちゃんを傀儡にしようとしたのだから」
リリアンヌの暴露に、詩音は絶句しセルイは険しい顔をする。
「……南部聖司はどうやら本気でこの街の主導権を握りたいみたいっスね」
「……だが、何故リリアンヌ殿を操り人形に?」
二人の言葉に、リリアンヌは一息ついて言う。
「詳しい事はわからないけれど、あの男はサクヤ議会を乗っ取るつもりみたいね? そのために、手駒が欲しかったみたい。……私は体のいい人形だった。それだけよ」
あっさりと言うリリアンヌに、
「そうっスか。それで? 人狼の長を襲ったのはなんでなんスか?」
鋭い視線を向けるセルイに、リリアンヌは顔を曇らせると、
「本当は私も攻撃したくなかったわ。でも命令には逆らえなかった……。どうして襲わされたのか……私にもわからないわ」
「……っスか。それじゃ、とりあえず! 人狼の長のところに行きますか!」
ソファから立ち上がり、三人分のカップを片付けると、リリアンヌを連れて二人あのシャッター街に向かった。
****
シャッター街に着くや否や、セルイは、
「おーい! 人狼の長の仇を連れて来たっスよー!」
「お、おい! そんな言い方をして、リリアンヌ殿に何か起こったらどうするんだ!!」
「あら? 私の心配をしてくれるのね? 優しいのね。貴女」
そんな三人の前に、いつも通りどこからともなくNが現れた。
「灰色の王。そちらのお方が、J様を襲った犯人ですかな?」
リリアンヌを指して言うNに、
「そうっス。でも、彼女は操り人形……ただの実行犯っス。指示した本当の犯人は……」
「南部聖司か!! クハハハ!! 俺様としたことが良いようにやられたぜ!!」
そう言って姿を現したのは、車椅子に乗ったJだった。
「J!! もう起きて大丈夫なんスか!?」
案ずるセルイに、
「ああ!! なんせ人狼だからな!! 回復は早いのさ!! それで、 そちらのマダム!! あの時は世話になったな!! この借りは返させてもらうぞ!!」
「ええ。ここに来るまでに覚悟は決めているわ。私に処罰を……」
そう言うと、リリアンヌはJに向かって頭を垂れた。
その様子に目を細めるとJは、
「それじゃ、俺様達が今やっているプロジェクトに参加してもらおうか!!」
「……わかったわ」
リリアンヌは頷くと、Jの元へ向かって行く。
「それで! 魔剣の件だが!!」
ギクリとするセルイと詩音。
「いやぁ実は……」
歯切れの悪いセルイにJは大笑いをしながら、
「クハハハ!! 南部に渡しちまったんだろ!! 全く! 面白くしてくれやがって!!」
「よくわかったっスね……いや、オタクらのサーチ能力ならこれくらいわかるの……か?」
妙な納得をすると、セルイが言う。
「犯人は連れて来たっス。……これでチャラって事になんないっスか?」
Jは笑うと、
「ああ!! 構わん!! 久しぶりに戦えたしな! 負けたが!! 俺様は無事だしな!!」
そう言うと、Jはリリアンヌを連れてどこかへと去って行った。
残されたセルイと詩音は、
「さてと。帰りますか」
「な、なあ。リリアンヌ殿を渡してよかったのか? 無事で居られるのか?」
リリアンヌの身を案ずる詩音に、
「大丈夫っしょ。連中は言った事は守るっス。リリアンヌにプロジェクトに参加しろって言ってたっしょ? 何かさせるとは思うっスけど」
大丈夫大丈夫! と言うと、セルイは歩き出した。それに続く詩音。
二人は夕暮れの街を背に帰って行った。




