2-4 天気の話
【今回の見どころ】
「もっとお話ししたいのはやまやまなんですが……」
美月が精一杯紡いだ拒絶のサインを、あまりにも都合よく「恋の証拠」へ変換してしまう一雄。
偶然と深読みが最悪の形で噛み合ったその夜、一雄は美月の言葉をきっかけに、1枚のラブレターを自宅の玄関ドアへと直接「配達」する。
届いてしまった歪んだ純愛。震える指先でそれを見つめる美月。
ついに一人の男の暴走が、少女たちによる前代未聞の「対策会議」の引き金を引く――! 第二章、堂々完結!
【作品紹介】
本作は、noteで「運命の人〜ストーリー〜」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
一人の男がバイト先のハンバーガーショップの店員(実は地下アイドル『UVA48』のセンター・美月)への純愛を暴走させ、周囲を巻き込む大騒動へと発展していく、切なくも狂気的な音楽連動型・現実世界恋愛小説です。
【公式連動楽曲】
iti視点ソング『運命の人〜暴走〜』の歌詞世界と完全シンクロ!!
一雄の脳内で運命の歯車が激しく回り出す瞬間を、ぜひメロディと共にお楽しみください!
【2作連動の仕掛け】
主人公「宇場一雄」は、別作品『フーデリオン』の主人公と同一人物です。あちらの作品に登場する「喉に傷があるバイク屋のオヤッサン」の正体とは? そして店に飾られた「一輪の赤い薔薇」の真相とは……?
二つの世界線が交錯する時、本当の『運命』が紡がれます。
【連動楽曲】
YouTube・noteにて順次公開!
①iti視点「運命の人〜暴走〜」
②UVA48視点「運命の人〜完全拒絶〜」
激しく狂おしい音楽の予感を胸にお楽しみください。
(リンクは後書きの下にあります)
【2-4 本文】
「今日は、晴れてますね!」
一雄は、練習してきた言葉を口にした。
美月は、少し驚いた顔をした。
「えっと……そうですね」
「晴れてますよね?」
「はい。晴れてますね」
一雄の胸が弾んだ。
会話が続いている。
天気の話が、きちんと成立している。
「明日は雨ですか?」
「どうでしょうね。ちょっと分かりません」
美月は、困ったように笑った。
一雄は、次の話題を探した。
しかし、頭の中で練習していた言葉が、うまく出てこない。その沈黙に耐えきれなくなったのか、美月が口を開いた。
「あの……もっとお話ししたいのはやまやまなんですが」
一雄の心臓が、大きく跳ねた。
「商品が冷めてしまいますので、そろそろ配達に行かれたほうが……」
美月は、できるだけ柔らかい声で続けた。
「そのほうが、お客様も待たずに済みますので」
美月にとっては、会話を終わらせるための言葉だった。
しかし、一雄には違って聞こえた。
「もっとお話ししたい」
その言葉だけが、頭の中で何度も繰り返される。
「私も、美月さんともっと話がしたいです!」
「えっ……」
美月の表情が固まった。
一雄は、嬉しそうに続ける。
「もっと話しましょう。僕も、そう思っていました」
美月は、言葉を失った。
ここまで言えば、さすがに意図が伝わると思っていた。
商品が冷める。
配達へ行ってほしい。
今は話を終わらせたい。
それを、できるだけ傷つけないように伝えたつもりだった。
しかし、一雄は、まったく別の意味に受け取っている。
「そうですね……」
美月は、かろうじて笑顔を作った。
けれど、その笑顔は、いつもの接客スマイルとは少し違っていた。戸惑いと、わずかな不安が混じっている。
一雄は、その変化に気づかなかった。
「それでは、配達に行ってきます!」
「はい……お願いします」
一雄は商品を抱え、店を出た。
バイクにまたがると、口元が自然にゆるんだ。
「こんなにも会話ができた」
そして、もう一つ。
「もっと話がしたいって言ってくれた……」
一雄の中で、何かが確かなものになった。
美月も、自分と同じ気持ちなのだ。
まだ、はっきり言葉にはしていないだけだ。
帰り道、一雄は何度もその会話を思い出した。
美月の声。
美月の笑顔。
美月の戸惑った表情。
それらすべてが、一雄には恋の証拠に見えた。
それからも、一雄は慎重に振る舞った。
美月を困らせないように、話しかける回数を減らした。話したい気持ちを抑え、必要最低限の会話だけにする。
それでも、どうしても我慢できない日には、天気の話をした。
「今日は暖かいですね」
「そうですね」
「雨ですね」
「そうですね」
美月は、いつも返事をしてくれる。
最後には笑顔も見せてくれる。
「なんて優しい人なんだ」
一雄は、そう思った。
その一方で、美月は少しずつ疲れ始めていた。
何を話しても、一雄は自分に都合のいいように受け取る。
笑顔を向ければ、好意があると思われる。
会話を終わらせようとすれば、もっと話したいと思われる。
美月は、どう接すればいいのか分からなくなっていた。
そんなある日。
美月は、店の奥で同僚たちと話をしていた。
「美月さんって、可愛いから学生時代にモテたんじゃないですか?」
「そんなことないですよ」
「またまた。ラブレターとか、たくさんもらったでしょ?」
美月は、少し照れたように笑った。
「ラブレターは、もらったことないです」
「えー、意外!」
「でも、ラブレターっていいですよね」
美月は、冗談めかして続けた。
「一回くらい、もらってみたかったなぁ」
その会話を、一雄は聞いていた。
商品を受け取るため、店内に立っていた。
美月の姿は見えなかったが、声は聞こえていた。
「ラブレター……」
一雄は、胸の中でその言葉を繰り返した。
美月は、ラブレターが欲しい。
美月は、自分の気持ちを伝えてほしい。
そして、自分からの手紙を待っている。
一雄は、そう解釈した。
配達を終えたあと、一雄はバイクを文具店へ向けた。
便箋を選ぶ。
封筒を選ぶ。
何度も書き直し、夜遅くまで手紙を書いた。
最後に、一雄は自分の連絡先を書き添えた。
そして、手紙を持って美月のマンションへ向かった。
建物の入り口を通り、エレベーターに乗る。
目的の階で降りる。
廊下には、誰もいなかった。
一雄は、美月の部屋の前に立った。
自分の心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
これを渡せば、二人の関係は大きく変わる。
美月は、きっと喜んでくれる。
驚いて、照れて、そして自分に連絡をくれる。
一雄は、そう信じていた。
手紙を、玄関ドアの郵便受けへ差し込む。
そして、誰にも見られていないことを確認すると、足早にその場を離れた。
部屋へ戻る途中、一雄は何度も振り返った。
美月がドアを開けるかもしれない。
手紙を見つけるかもしれない。
すぐに連絡が来るかもしれない。
一雄は、期待に胸を膨らませていた。
翌朝。
美月は、出勤するために自宅のドアを閉めようとしていた。
そのとき、玄関ドアの郵便受けに、白い封筒が挟まっていることに気づいた。
「……手紙?」
美月は、封筒を手に取った。
宛名には、こう書かれている。
「運命の人、美月さんへ」
美月の胸が、ざわついた。
集合ポストではない。
自宅の玄関ドアについている、小さな郵便受けに直接入れられている。
「どうして……?」
美月は、廊下を見回した。
誰もいない。
静まり返った廊下に、自分の呼吸だけが響いているように感じられた。
恐る恐る、封筒を開ける。
中には、一枚の便箋が入っていた。
『美月さんへ。
初めて美月さんに会ったときから、僕は運命を感じていました。
そして、あの夜、あなたの部屋の前で再会したことで、その運命は確信に変わりました。
夜空に浮かぶ月のように美しい美月さん。
僕は、あなたの運命の人です。
よかったら、こちらに連絡してください。
美月さんの運命の人、itiより』
美月の指先が、震え始めた。
あの夜のことを知っている。
自分の部屋番号を知っている。
そして今、自宅の玄関先まで来ている。
仕事で知った住所を、私的な目的で使っている。
美月の中で、何かが切り替わった。
今までは、少し変わった人だと思っていた。
目を合わせないのに、こちらを見ている人。
天気の話を繰り返す人。
自分の笑顔を、何か特別なものだと思っている人。
それでも、配達員としては何もしてこなかった。だから、考えすぎないようにしていた。
けれど、これは違う。
「……これは、ダメだ」
美月は、便箋を握りしめた。
「完全に無理……」
初めて、はっきりと言葉にした。
美月は急いでスマートフォンを取り出した。
連絡先の中から、UVA48のグループチャットを開く。
UVA48は、美月が所属する七人組のアイドルグループだ。普段はステージで歌い踊る仲間たちだが、今夜は違う。
美月にとって、彼女たちは同じハンバーガーショップで働く仲間であり、ステージをともにするメンバーでもあった。
困ったときには相談できる、大切な友人たちでもある。
そして、美月は短いメッセージを入力した。
『みんな、緊急相談があります』
送信すると、すぐに返信が届いた。
『どうしたの?』
『何かあった?』
『まさか、あの配達員?』
美月は、もう一度、手紙に目を落とした。
『美月さんの運命の人、itiより』
美月は小さく息を吸った。
『はい。あの人です』
その日の夜。
UVA48のメンバーが集まることになった。
画像
白いテーブルの上に、一雄からの手紙が置かれていた。美月は、その手紙から少し離れた場所に座っている。
もう、一人では抱えきれなかった。
「一雄さんを、どうすればいいと思う?」
美月がそう尋ねると、七人のメンバーが顔を見合わせた。
やがて、星野美咲がゆっくりと口を開いた。
「これは……対策会議が必要だね」
その言葉を聞いた高橋愛梨が、勢いよく手を挙げた。
「それなら、名前をつけようよ!」
「名前?」
美月が聞き返す。
「そう! プロジェクト名!」
愛梨は、テーブルの上にあったペンを手に取った。
そして、白い紙に大きく書いた。
「プロジェクト・完全拒絶!」
田中莉子が、すぐに突っ込んだ。
「名前が物騒すぎない?」
水野涼香は、手紙を見つめながら冷静に言った。「でも、必要な対策だと思う。美月が自宅の住所を知られている以上、曖昧な対応は危険かもしれない」
桜井結衣が、美月の肩にそっと手を置いた。
「美月、怖かったよね」
美月は小さくうなずいた。
「うん……。もう、あの人とは関わりたくない」
小林ひなたが、手紙を指差した。
「でも、この手紙の『運命の人』って、自分で書いてるんだよね?」
「そうなの」
「すごい自信だね……」
中村美月は、疲れたように息を吐いた。
テーブルの上に置かれた一枚の手紙。
それは一雄にとって、愛を伝えるための大切なラブレターだった。
しかし、美月にとっては、もう関わりたくない相手からの、恐怖の証拠だった。
星野美咲が、紙の中央にタイトルを書いた。
「宇場一雄・完全拒絶作戦会議」
その夜、UVA48の作戦会議が始まった。
【第二章 〜完〜】
【第三章 3-1へ続く】
第7話をお読みいただきありがとうございました!
明日の同じ時間に、第8話 第三章「3-1 一か月の距離」を投稿予定です。お楽しみに!
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【主題歌のお知らせ!!】
主題歌は2つ 別々の視点から作詞しました!
①iti「運命の人〜暴走〜」
②UVA48「運命の人〜完全拒絶〜」
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