1-3 深夜の配達
【今回の見どころ】
深夜一時、コンビニからの1件の配達依頼。
向かった先は、月を意味する名の美しいマンション。
そこで一雄を待っていたのは、彼の世界を永遠に変えてしまう「無防備な素顔」だった――。
【作品紹介】
本作は、noteで「運命の人〜ストーリー〜」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
一人の男がバイト先のハンバーガーショップの店員(実は地下アイドル『UVA48』のセンター・美月)への純愛を暴走させ、周囲を巻き込む大騒動へと発展していく、切なくも狂気的な音楽連動型・現実世界恋愛小説です。
【公式連動楽曲】
iti視点ソング『運命の人〜暴走〜』の歌詞世界と完全シンクロ!!
一雄の脳内で運命の歯車が激しく回り出す瞬間を、ぜひメロディと共にお楽しみください!
【2作連動の仕掛け】
主人公「宇場一雄」は、別作品『フーデリオン』の主人公と同一人物です。あちらの作品に登場する「喉に傷があるバイク屋のオヤッサン」の正体とは? そして店に飾られた「一輪の赤い薔薇」の真相とは……?
二つの世界線が交錯する時、本当の『運命』が紡がれます。
【連動楽曲】
YouTube・noteにて順次公開!
①iti視点「運命の人〜暴走〜」
②UVA48視点「運命の人〜完全拒絶〜」
激しく狂おしい音楽の予感を胸にお楽しみください。
(リンクは後書きの下にあります)
【1-3 本文】
その日の夜も、一雄は稼働を続けた。
時刻は、深夜一時を過ぎている。
注文は少なくなっていたが、もう少しだけ売上を伸ばしたかった。
売上目標まで、あと数千円。
この一件を終えたら帰ろう。
そう思いながら、一雄は大通りから少し外れた路地にバイクを停めた。
配達員の間では、注文を待ちながらその場に留まることを「地蔵」と呼ぶ。
何もせず、ただ注文が入るのを待つ。
まさに、地蔵のように。
一雄はバイクにまたがったまま、タバコに火をつけた。夜の空気は冷たかった。
吐き出した煙が、街灯の明かりの中でゆっくりと消えていく。
スマートフォンには、動画サイトの画面が表示されていた。そこには、先日投稿した自分の歌の再生数が出ている。一雄は数字を確認した。
再生回数、三百二十七回。
悪くない。
悪くはないが、決して多くもない。
「いつか、一万人くらい聴いてくれないかな……」呟いてから、一雄は自分で苦笑した。
たった三百回程度で一喜一憂している自分が、少し情けなく思えた。
歌っている時は、自分が世界の中心にいるような気分になれる。
なのに歌い終わると、再生数やコメントのひとつひとつに振り回される。
注目されたい。
けれど、注目されるのは怖い。
その矛盾を抱えたまま、一雄はタバコの灰を落とした。
その時、スマートフォンが震えた。
新しい注文が入った。
「よし……」
一雄は画面を確認し受諾した。
注文先は、近くのコンビニエンスストア。
深夜の注文としては珍しくない。
商品欄には、洗顔料や化粧水など、女性が使うことの多い商品が並んでいた。
注文者の名前は男性名になっている。
女性客が、安全のために男性名を使っているのかもしれない。
一雄は、そう考えた。
バイクのエンジンをかける。
夜の街を走り、コンビニへ向かった。
商品を受け取った一雄は、ナビを起動した。
目的地までは約三キロ。
完成して間もない、綺麗なワンルームマンションだった。初めて行く場所だったので、一雄はマンション名を声に出して確認した。
「グラン・ルーナ……」
月を意味する名前だった。
夜空には、ちょうど大きな月が浮かんでいる。
偶然にしては、妙に印象的だった。
マンションの前に到着すると、一雄はバイクを停めた。エントランスにはオートロックがあり、部屋番号を入力して呼び出すタイプだった。
一雄はインターフォンを押した。
返事はない。
もう一度押す。
やはり返事はなかった。
しばらく待っていると、突然、自動ドアのロックが解除された。無言のまま、ドアが開く。
「……あれ?」
一雄は少し驚いた。
しかし、深夜の配達では珍しいことではない。
相手が寝間着姿だったり、顔を合わせたくなかったり、いろいろな事情がある。
危機管理のひとつなのだろう。
そう考え、一雄はエレベーターへ向かった。
指定された階で降り、部屋の前に立つ。
一雄は小さく息を吐いた。
できることなら、置き配で済ませたかった。
だが、今回は現金払いだった。
対面する必要がある。女性だろうか。
それとも、同棲している男性が出てくるだろうか。そんなことを考えながら、一雄はインターフォンを押した。
数秒後。
ドアの向こうから、かすかな足音が聞こえた。
そして、鍵が外れる音。
ドアがゆっくりと開いた。
現れたのは、小柄な女性だった。
薄い色の寝間着を着て、長い髪を無造作に下ろしている。
一雄は、いつものように相手の顔を見ないように、視線を少し下げた。
女性が口を開いた。
「すみません。一万円札なんですけど、大丈夫ですか?」
その声を聞いた瞬間だった。
一雄の身体が、反射的に動いた。
顔を上げる。
目の前の女性と視線が重なる。
一雄の頭の中が、真っ白になった。
「……え?」
女性も、目を見開いた。
「……あっ」
二人の間に、数秒の沈黙が落ちる。
月明かりに照らされた、寝間着姿の女性。
その顔を、一雄は毎日のように見ていた。
ハンバーガーショップのカウンターで、いつも笑顔を向けてくれる女性。
中村美月。
その本人が、今、自分の目の前に立っている。
自宅のドアを開けて。
寝間着姿で。
「配達員……さん?」
美月の声には、驚きと戸惑いが混じっていた。
一雄の脳内では、数え切れないほどの言葉が駆け巡っていた。
どうしてここにいるのか。
なぜ美月が注文したのか。
これは偶然なのか。
それとも――。
運命なのか。
「あ……えっと……」
一雄は、何か言わなければと思った。
しかし、口から出てきたのは、情けない声だった。
「あの……その……」
「大丈夫ですか?」
美月が心配そうに、少し顔を覗き込む。
その瞬間、一雄の心臓は、さらに大きく跳ねた。
「はひっ!」
「……はい?」
「大丈夫です! 一万円、大歓迎ですっ!」
言ってしまってから、一雄自身も意味が分からなかった。
美月は、ぽかんとした。
そして次の瞬間、吹き出した。
「大歓迎ですか?」
「はいっ! 大歓迎です!」
「ふふっ……ありがとうございます」
美月が笑った。
店員として作られた笑顔ではない。
驚きと戸惑いが混ざった、自然な笑いだった。
その笑顔を見た瞬間、一雄の中で何かが変わった。今まで抱いていた淡い好意が、急に形を持った。
胸の奥に、強く刻まれる。
――運命だ。
それは、疑いようのない確信だった。
宇場一雄が我に返った時、彼はマンションの外にいた。
配達を終えた記憶が、ほとんどない。
気づけば、バイクの前に立っていた。
冷たい夜風が頬を撫でる。
一雄は、空を見上げた。
大きな月が、マンションの上に浮かんでいる。
その月に、美月の笑顔が重なった。
「……運命だ」
今度は、声に出していた。
誰もいない夜道で、一雄は笑った。
口元が緩み、胸の奥が熱くなる。
心臓の鼓動が、いつまでも収まらない。
中村美月。
いつも会う店員。
今日、自宅へ配達した女性。
そして、自分に自然な笑顔を見せてくれた女性。
ただの偶然が、三つ重なった。
三つ重なれば、それはもう偶然ではない。
それは――。
「運命だ……」
一雄はもう一度、月に向かって呟いた。
その夜から、彼の中で美月は、ただの店員ではなくなった。
運命の人になった。
第一章 〜完〜
【2-1へ続く】
第3話をお読みいただきありがとうございました!
明日の同じ時間に、第二章「2-1 運命の人」を投稿予定です。お楽しみに!
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【主題歌のお知らせ!!】
主題歌は2つ 別々の視点から作詞しました!
①iti「運命の人〜暴走〜」
②UVA48「運命の人〜完全拒絶〜」
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