4-2 小さな変化
【前回の振り返り】
ハンバーガーショップの閉店後、スタッフルームに集まったUVA48の少女七人。
一雄の部屋の前へのラブレター投函に恐怖した美月を救うため、星野美咲の指揮のもと、前代未聞の『完全拒絶作戦(プロジェクト・完全拒絶)』が策定される。
一雄を確実にこの街から引き離して夜逃げを完了させるため、あえて一か月かけて彼を極限まで期待させるという、少女たちの冷酷な計画。
翌朝、ついに作戦の「第一段階」が幕を開ける――。
【作品紹介】
本作は、noteで「運命の人〜ストーリー〜」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
一人の男がバイト先のハンバーガーショップの店員(実は地下アイドル『UVA48』のセンター・美月)への純愛を暴走させ、周囲を巻き込む大騒動へと発展していく、切なくも狂気的な音楽連動型・現実世界恋愛小説です。
【公式連動楽曲】
iti視点ソング『運命の人〜暴走〜』の歌詞世界と完全シンクロ!!
一雄の脳内で運命の歯車が激しく回り出す瞬間を、ぜひメロディと共にお楽しみください!
【2作連動の仕掛け】
主人公「宇場一雄」は、別作品『フーデリオン』の主人公と同一人物です。あちらの作品に登場する「喉に傷があるバイク屋のオヤッサン」の正体とは? そして店に飾られた「一輪の赤い薔薇」の真相とは……?
二つの世界線が交錯する時、本当の『運命』が紡がれます。
【連動楽曲】
YouTube・noteにて順次公開!
①iti視点「運命の人〜暴走〜」
②UVA48視点「運命の人〜完全拒絶〜」
激しく狂おしい音楽の予感を胸にお楽しみください。
(リンクは後書きの下にあります)
【4-2 本文】
翌日。
美月は、いつもより少し早く店へ入った。
出勤すると、まず店内の様子を確認する。
カウンター。
厨房。
スタッフルーム。
一雄が配達に来る時間まで、まだ少し余裕があった。
美月は、スタッフルームのテーブルに置かれたメモを見つめた。
そこには、昨夜の作戦会議で決まった内容が書かれている。
・一雄さんの名前を呼ぶ
・笑顔で挨拶する
・会話を少しだけ長くする
・自分から質問をする
・急に親しくなりすぎない
美月は、最後の項目を指でなぞった。
「急に親しくなりすぎない……か」
「そう。最初から距離を詰めすぎると、不自然だからね」
背後から、美咲の声が聞こえた。
美月が振り返ると、スタッフルームの入口に美咲が立っていた。
その後ろから、メンバーたちも一人、また一人と入ってくる。
美咲は、手に新しいメモ用紙を持っていた。
「今日は、一雄さんが来たら名前を呼ぶ。それだけでいいと思う」
「それだけ?」
「うん。今まで名前を呼んでいなかったなら、それだけでも十分に特別な変化に見えるはず」
涼香が、メモ用紙をのぞき込みながら言った。
「一雄さんは、細かい変化を大きく受け取る傾向があるから」
「それって、かなり危ない傾向だよね」
莉子が、少し離れた場所から口を挟んだ。
「危ないけど、今回の作戦には利用できる」
愛梨が、真剣な顔でうなずく。
「名前を呼ぶだけで、そんなに変わるかな?」
「変わると思う」
結衣が答えた。
「一雄さんは、美月が少し笑っただけでも、特別な意味に受け取っていたから」
「じゃあ、笑顔も少し長めにする?」
愛梨が尋ねる。
「長すぎると、わざとらしくなる」
美咲が答えた。
「自然な笑顔を、ほんの少しだけ長くする。目を合わせる時間も、いつもより一秒だけ増やす」
ひなたが、首を傾げた。
「一秒で分かるの?」
「一雄さんなら、分かるんじゃない?」
莉子が答えた。
「というより、勝手に分かったことにすると思う」
七人の間に、苦笑が広がった。
美月は、メモ用紙を見つめながら息を吐いた。
「本当に、これでうまくいくのかな」
「うまくいかせるんだよ」
結衣が、優しく言った。
「美月が無理をしすぎない範囲で、少しずつね」
そのとき、店の入口に人影が見えた。
スイカ柄のヘルメット。
黒いサングラス。
大きな配達バッグ。
一雄が、店内へ入ってきた。
美月は、反射的に背筋を伸ばした。
心臓が速くなる。
手のひらに、少し汗がにじんだ。
一雄は、カウンターの前まで歩いてきた。
いつものように、注文内容を確認する。
美月は、メモに書かれた文字を思い出した。
名前を呼ぶ。
笑顔で挨拶する。
会話を少しだけ長くする。
美月は、一雄の顔を見た。
そして、いつもより少しだけ長く目を合わせた。
「一雄さん」
一雄の動きが止まった。
美月は、微笑んだ。
「おはようございます」
数秒間、一雄は返事をしなかった。
美月が、不思議そうに首を傾げる。
「……一雄さん?」
「はひっ!?」
一雄の声が、店内に響いた。
カウンターの奥で、愛梨が口元を押さえた。
莉子は、すぐに視線を逸らした。
結衣だけが、美月の様子を見守っている。
「だ、大丈夫です。おはようございます!」
一雄は、慌てて頭を下げた。
その顔は、耳まで赤くなっていた。
美月は、できるだけ自然に笑った。
「今日も配達、大変ですね」
「いえ! 全然、大丈夫です!」
「そうですか」
「はい!」
一雄は、何度も大きくうなずいた。
注文を受け取り、商品を袋に入れてもらう。
その間も、何度も美月の顔を見ようとしていた。
けれど、目が合うと、すぐに視線をそらす。
美月は、商品を手渡した。
「気をつけて行ってきてくださいね」
「はい! 行ってきます!」
一雄は、商品を抱えたまま、店を出ていった。
自動ドアが閉まる。
その直後、愛梨が小さな声を上げた。
「すごい……」
莉子が、愛梨を見る。
「何が?」
「名前を呼んだだけで、あんなに固まったよ」
涼香は、店の外へ出ていく一雄の背中を見ながら言った。
「効果はあったみたいだね」
美月は、無理に作っていた笑顔を消した。
「……これで、よかったのかな」
結衣が、美月の肩に手を置く。
「今日は、これだけで十分だよ」
美咲は、メモ用紙に新しい記録を書き込んだ。
『第一段階、成功』
愛梨が、その横からのぞき込む。
「次は何をするの?」
美咲は、ペンを持ったまま答えた。
「明日も、同じようにする」
「同じことを?」
「うん。ただし、毎日まったく同じでは駄目。少しずつ変化を加える」
涼香が続けた。
「名前を呼ぶ回数を増やす。天気や体調を気遣う。会話を一言だけ長くする」
「一言ずつ?」
ひなたが尋ねた。
「一雄さんは、その一言を何倍にも膨らませるから」
莉子が、ため息をついた。
「それ、本人にとっては一言じゃ済まないんだよね」
美月は、窓の外を見た。
一雄のバイクが、通りの向こうへ消えていく。
「一か月……」
美月が呟いた。
「一か月だけ、頑張ればいいんだよね」
結衣が、静かにうなずいた。
「うん。一か月だけ」
その頃、一雄はバイクを走らせながら、何度も同じ言葉を繰り返していた。
「一雄さん」
美月が、自分の名前を呼んだ。
それだけの出来事だった。
しかし、一雄にとっては、それだけではなかった。
名前を呼ばれた。
笑顔を見せてくれた。
気をつけて行ってくださいと言ってくれた。
一雄は、配達バッグの中の商品を確認しながら、口元を緩めた。
そして、スマートフォンを信号待ちの間に取り出した。
メモアプリを開く。
そこへ、今日の出来事を書き込んだ。
『美月さんが、初めて名前を呼んでくれた』
その下に、さらに一行を追加する。
『距離が、確実に近づいている』
一雄は、画面を見つめた。
そして、赤信号が青に変わるまで、何度もその文章を読み返していた。
【4-3へ続く】
第17話をお読みいただき、ありがとうございます。
【次回の見どころ 毎日18時頃更新予定】
第18話 4-3
申し訳ございません。まだ書き上げておりません。急ぎ準備してますのでお待ちください。
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【主題歌のお知らせ!!】
主題歌は2つ 別々の視点から作詞しました!
①iti「運命の人〜暴走〜」
②UVA48「運命の人〜完全拒絶〜」
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