3-8 月の下の手紙
【前回の振り返り】
もぬけの殻となった美月のマンションを後にし、閉店間際のハンバーガーショップへと滑り込んだ一雄。
しかしそこに彼女の姿はなく、代わりに手渡されたのは『一雄さんへ』と書かれた白い封筒。
パニックを起こす脳を必死に宥めながら、一雄は手紙を抱え、二人の運命が始まったあの場所へと向かう――。
【作品紹介】
本作は、noteで「運命の人〜ストーリー〜」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
一人の男がバイト先のハンバーガーショップの店員(実は地下アイドル『UVA48』のセンター・美月)への純愛を暴走させ、周囲を巻き込む大騒動へと発展していく、切なくも狂気的な音楽連動型・現実世界恋愛小説です。
【公式連動楽曲】
iti視点ソング『運命の人〜暴走〜』の歌詞世界と完全シンクロ!!
一雄の脳内で運命の歯車が激しく回り出す瞬間を、ぜひメロディと共にお楽しみください!
【2作連動の仕掛け】
主人公「宇場一雄」は、別作品『フーデリオン』の主人公と同一人物です。あちらの作品に登場する「喉に傷があるバイク屋のオヤッサン」の正体とは? そして店に飾られた「一輪の赤い薔薇」の真相とは……?
二つの世界線が交錯する時、本当の『運命』が紡がれます。
【連動楽曲】
YouTube・noteにて順次公開!
①iti視点「運命の人〜暴走〜」
②UVA48視点「運命の人〜完全拒絶〜」
激しく狂おしい音楽の予感を胸にお楽しみください。
(リンクは後書きの下にあります)
【3-8 本文】
一雄は、店を出た。
手には、美月から渡された白い封筒。
もう片方の手には、遊園地から持ち続けている一輪の薔薇。
薔薇は、すっかり元気を失っていた。
それでも、一雄は手放さなかった。
美月に渡すまでは、捨てるわけにはいかなかった。
店を出てからも、一雄はしばらく動けなかった。
美月は、もうこの店にいない。
先日、退職した。
住んでいた部屋からも、引っ越した。
そして、遊園地にも来なかった。
何が起きているのか、分からなかった。
手紙を受け取った。
美月が、自分に宛てて書いた手紙。
それだけは分かっている。
一雄は、封筒を見つめた。
今すぐ開けて読みたい。
しかし、指が動かなかった。
「……美月さん」
呟いても、返事はない。
店の中から、厨房の音が聞こえていた。
誰かの話し声も聞こえる。
けれど、一雄には、すべてが遠くに感じられた。
一雄は、ゆっくりと歩き始めた。
駅へ向かう。
走ることはできなかった。
足に力が入らない。
胸の奥が重く、何かを考えようとすると、頭の中が白くなった。
美月は、なぜいなくなったのか。
なぜ、今日の遊園地に来なかったのか。
なぜ、手紙を書いたのか。
考えようとしても、答えは何も浮かばなかった。
駅に着くまで、いつもの何倍も時間がかかった。
改札を抜け、ホームへ向かう。
電車が到着した。
一雄は、周囲の人の流れに押されるように車内へ入った。
座席が空いていた。
しかし、一雄は座らなかった。
ドアの近くに立ったまま、白い封筒を握りしめていた。
車内の明かりが、封筒を白く照らしている。
表には、短い文字が書かれていた。
『一雄さんへ』
その文字を見つめるたびに、胸が苦しくなった。
美月が、自分の名前を書いた。
それだけで、一雄は手紙の中に希望を探そうとした。
きっと、遊園地に来られなかった理由が書かれている。
きっと、急な用事があったのだ。
きっと、何か困ったことが起きたのだ。
きっと、美月は自分に会いたいと思っている。
一雄は、そう考えようとした。
しかし、その考えすら、どこか遠かった。
電車が駅に到着する。
一雄は、ゆっくりとホームへ降りた。
そこから、美月のマンションまでは歩いてすぐだった。
けれど、一雄の足取りは重かった。
何度も立ち止まりそうになりながら、マンションへ向かう。
やがて、見慣れた建物が見えてきた。
美月が住んでいたマンション。
一雄にとって、二人の運命が始まった場所。
あの雨の日。
一雄は、ここへ配達に来た。
そして、夜。
美月と再び出会った。
一雄は、その場所で運命を確信した。
マンションの前に着く。
辺りはすっかり暗くなっていた。
空には、月が浮かんでいる。
一雄は、建物を見上げた。
美月の部屋があった場所には、もう明かりがない。
表札もない。
郵便受けからも、美月の名前は消えている。
それでも、一雄はその場を離れなかった。
ここで読もう。
美月の手紙は、ここで読むべきだ。
二人の運命が始まった場所で。
一雄は、マンションの前に立ったまま、封筒を見つめた。
そして、ゆっくりと封を開けた。
中から、便箋を取り出す。
月明かりの下で、便箋を広げた。
美月の文字が並んでいる。
一雄は、黙って読み始めた。
一行目。
二行目。
その先へ。
読み進めるにつれて、一雄の表情が少しずつ変わっていった。
手紙を持つ指が震える。
何度も目を止める。
何度も、同じ行を読み返す。
それでも、一雄は最後まで読み続けた。
風が吹いた。
便箋の端が揺れる。
一雄は、両手で紙を押さえた。
その瞬間、視界がぼやけた。
涙がこぼれた。
一滴。
また一滴。
便箋の上に落ちた涙が、文字をにじませていく。
一雄は、手紙を胸に押し当てた。
「……美月さん」
声が震えた。
返事はない。
マンションの中からも、何の物音も聞こえない。
一雄は、手にしていた一輪の薔薇を見つめた。
花びらは、すっかり下を向いていた。
それでも、一雄は薔薇を捨てなかった。
手紙と薔薇を抱えたまま、ゆっくりと空を見上げる。
月が、静かに浮かんでいる。
人通りのある道だった。
車が通り過ぎる。
誰かの話し声も聞こえる。
それでも、一雄には何も届かなかった。
ただ、涙だけが頬を流れていく。
一雄は、月に向かって声を上げた。
「美月さん……!」
返事はなかった。
「美月さん……!」
もう一度、名前を呼ぶ。
それでも、返事はない。
一雄は、手紙と一輪の薔薇を抱えたまま、月を見上げて泣き続けた。
二人の運命が始まった場所で。
```
【第三章 完全拒絶 〜完〜】
【第四章 4-1へ続く】
第三章『完全拒絶』をお読みいただきありがとうございました!
これにて、一雄の歪んだ純愛の暴走編が一度幕を閉じます。
【次回の見どころ 毎日18時頃更新予定】
第17話 第四章「完全拒絶作戦」
4-1「7人の作戦会議」
物語は、あの絶望の夜から「一か月前」の過去へと巻き戻る――。
なぜ彼女は急に優しくなったのか? なぜ自分を遊園地へ誘ったのか?
ハンバーガーショップの閉店後、UVA48の少女七人が白いテーブルを囲んで冷酷に策定した、前代未聞の『完全拒絶作戦』の全貌。
新章・第四章、衝撃の開幕!絶対にお見逃しなく!
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【主題歌のお知らせ!!】
主題歌は2つ 別々の視点から作詞しました!
①iti「運命の人〜暴走〜」
②UVA48「運命の人〜完全拒絶〜」
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