3-7 店に残された手紙
【前回の振り返り】
誰も来ない遊園地を後にし、美月の身を案じて表札の消えたマンションへ走った一雄。
そこで管理人から告げられたのは「今日引っ越したよ」という非情な現実(夜逃げ)だった。
壊れそうな現実を前に、一雄は彼女の残像を追い、バイト先であるハンバーガーショップへと再び激走する――。
【作品紹介】
本作は、noteで「運命の人〜ストーリー〜」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
一人の男がバイト先のハンバーガーショップの店員(実は地下アイドル『UVA48』のセンター・美月)への純愛を暴走させ、周囲を巻き込む大騒動へと発展していく、切なくも狂気的な音楽連動型・現実世界恋愛小説です。
【公式連動楽曲】
iti視点ソング『運命の人〜暴走〜』の歌詞世界と完全シンクロ!!
一雄の脳内で運命の歯車が激しく回り出す瞬間を、ぜひメロディと共にお楽しみください!
【2作連動の仕掛け】
主人公「宇場一雄」は、別作品『フーデリオン』の主人公と同一人物です。あちらの作品に登場する「喉に傷があるバイク屋のオヤッサン」の正体とは? そして店に飾られた「一輪の赤い薔薇」の真相とは……?
二つの世界線が交錯する時、本当の『運命』が紡がれます。
【連動楽曲】
YouTube・noteにて順次公開!
①iti視点「運命の人〜暴走〜」
②UVA48視点「運命の人〜完全拒絶〜」
激しく狂おしい音楽の予感を胸にお楽しみください。
(リンクは後書きの下にあります)
【 3-7 本文】
一雄がハンバーガーショップに到着したとき、店内はすでに閉店間際だった。
自動ドアの前で、一雄は立ち止まった。
呼吸が乱れている。
遊園地から駅まで走った。
電車の中でも落ち着かず、最寄り駅からマンションまで走った。
そして、マンションから、またこの店まで走ってきた。
胸が苦しい。
左手には、白い紙に包まれた一輪の薔薇を握っている。
薔薇は、すっかり元気を失っていた。
それでも一雄は、手放さなかった。
美月に渡すまでは、捨てるわけにはいかなかった。
一雄は、自動ドアの前で深く息を吸った。
そして、店内へ入った。
「いらっしゃいませ」
店員の声が聞こえた。
しかし、そこに美月の姿はなかった。
カウンターの奥。
厨房の前。
客席。
どこを見ても、美月はいない。
一雄は、店内を見回しながらカウンターへ近づいた。
そのとき、ひとりの女性店員が一雄に気づいた。
UVA48のメンバー、桜井結衣だった。
結衣は、一雄の顔を見ると、ほんの少しだけ表情を変えた。
驚いたようにも見えた。
困ったようにも見えた。
しかし、それは一瞬のことだった。
すぐに、いつもの接客用の笑顔に戻る。
「……一雄さん」
結衣が、名前を呼んだ。
一雄の胸が跳ねた。
「美月さんは?」
結衣は答えなかった。
カウンターの下へ手を伸ばし、白い封筒を取り出した。
一雄は、封筒を見つめた。
差出人の名前はない。
封筒の表には、黒いペンで、短く書かれていた。
『一雄さんへ』
「これは……?」
「美月からです」
結衣は、封筒を一雄へ差し出した。
一雄は、すぐには受け取らなかった。
白い封筒。
見覚えのある文字。
美月が、自分のために書いた手紙。
そう思った瞬間、心臓の鼓動がまた速くなった。
「美月さんは、どこにいるんですか?」
結衣は、一雄の顔を見た。
その視線が、ほんの少しだけ揺れた。
「……私からは、何も言えません」
「何も?」
「この手紙を読んでください」
「美月さんが、ここに置いていったんですか?」
「はい」
「いつ?」
結衣は、少しだけ間を置いた。
「今日です」
今日。
その言葉を聞いて、一雄は封筒を見つめた。
美月は、今日この店に来ていた。
遊園地には来なかった。
しかし、この店には来ていた。
一雄の胸の奥で、何かがつながった。
美月は、遊園地へ来られなかったのではない。
来なかった理由を、この手紙に書いたのだ。
きっと、急な用事があった。
きっと、体調を崩してしまった。
きっと、自分に会えなかったことを謝っている。
そして、きっと――。
「美月さんは、僕に会いたがっているんですよね」
結衣の笑顔が、わずかに固まった。
「……手紙を読めば、分かると思います」
その言葉を聞いて、一雄はうなずいた。
結衣が何かを知っている。
それは間違いなかった。
美月に何かが起きた。
けれど、結衣はそれを隠している。
一雄は、そう考えた。
隠しているということは、きっと美月を守るためだ。
美月は、自分に会いたい。
しかし、何かの理由で会えない。
だから手紙を書いた。
一雄の中で、都合のいい答えが次々に組み立てられていった。
結衣が差し出した封筒を、一雄は両手で受け取った。
封筒は、驚くほど軽かった。
しかし、一雄には、その中に美月のすべてが詰まっているように感じられた。
「一雄さん」
結衣が呼び止めた。
「はい?」
「その手紙を読んだら……」
結衣は、そこで言葉を止めた。
何かを言おうとしている。
しかし、言ってはいけないことがあるようだった。
一雄は、結衣を見つめた。
「読んだら?」
結衣は、視線を落とした。
「……いえ。何でもありません」
一雄は、封筒を胸元に抱えた。
「美月さんに、よろしく伝えてください」
結衣は返事をしなかった。
ただ、静かに頭を下げた。
一雄は、店内をもう一度見回した。
美月がいつも立っていた場所。
美月が商品を手渡してくれたカウンター。
美月が、自分の名前を初めて呼んでくれた場所。
そこに、美月はいなかった。
それでも一雄は、絶望しなかった。
手紙がある。
美月が、自分に宛てて書いた手紙がある。
一雄は、白い封筒と一輪の薔薇を抱えたまま、店の外へ出た。
夜の空気が、頬に触れた。
封筒の中身を、すぐに確認したい。
しかし、ここで読む気にはなれなかった。
美月の手紙を読む場所は、ここではない。
二人が最初に出会った場所。
あの雨の日、運命が始まった場所。
一雄は、その場所を思い浮かべた。
「そこで読もう」
一雄は、そう決めた。
そして、封筒を胸に押し当てた。
美月からの手紙を抱え、一雄は夜の街へ歩き出した。
【3-8へ続く】
第14話をお読みいただきありがとうございました!
【次回の見どころ 毎日18時頃更新予定】
第15話 3-8「月の下の手紙」
手渡された白い封筒を抱え、一雄が向かったのは二人の運命の始まりの場所。
静まり返った月夜の下、震える指先で開かれた便箋――そこに並ぶ美月からの「本物の言葉」が、一雄のすべてを容赦なく打ち砕く。
萎れゆく一輪の薔薇を抱きしめ、おっさんが夜空の月に向かって号泣する、第三章・怒涛の最終回!
次回のグランドフィナーレ、絶対にお見逃しなく!
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【主題歌のお知らせ!!】
主題歌は2つ 別々の視点から作詞しました!
①iti「運命の人〜暴走〜」
②UVA48「運命の人〜完全拒絶〜」
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