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現理交合テスタメント  作者: いいさき禊
第1章―序論
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2話-凍結

「あー、そういえばこれオフレコでお願いしたいんだけどさ」

「藪から棒」

「この件、本局と警察側で取引したらしいんだよね」

「取引、ですか……」

 トールさんの言うことにゃ、運営本局と警察とで捜査の情報共有をすると。警察はこの件を自殺と断定して捜査本部なんて置いていないはずだ。お互いが捜査状況を共有するなんてしても仕方のないことじゃないのか。そうなると、本局はもしかして。

「自殺の件じゃなくて、外的要因(ハッキング)の件で警察に要請を出した、と?」

「そうなんじゃない? とはいえ、仮にそうだとしても証拠がないから公にはされないんだろうけどね。可能性があるから、ってことで。今となっちゃ、NoAは国内最大通り越して世界に羽ばたこうとする一大世界。NoA過激派なんかはNoAを独立国として認めさせようとかいうわけわかんない運動してたりする程度だし」

「加えてセキュリティは万全……。ああなるほど、万が一にハッキングなんかされたらNoA内部の警察の情報も危ういから、ってやつか」

「そゆこと。だからハッキングなんかされてない、っていう証拠が欲しいんだろうさ」

「面倒なことになってきた……」

「電探なんだから面倒なことには慣れてそうなもんだけど」

「小さな面倒ならともかく大きな面倒には慣れてませんよ。下手したら国が傾くでしょう、こんなの」

「それもそうだ」

 億が一、垓が一にもしもの確率でNoAが実際にハッキング被害に遭っていたとしたらどうなるか。世界最高峰のセキュリティが突破されていたという事実が明るみになれば、地球上全てのセキュリティを見直さなければ地球上全ての情報はそのハッキングを成功させた人間の手に渡ってしまう可能性が高い。だがしかし、NoAがハッキングされた事実がない証明自体は可能だ。

 証拠がないことが何よりの証拠。物は言いようシュレディンガー。一欠片の痕跡も残っていないのだから、その事実は存在しない。……しないはずだ。そんなことNoA運営本局が理解していないわけがない。

「……警察内部のNoAアンチの割合考えると妥当なとこですかね」

「つまり、取引もちかけたのは警察からだって?」

「おそらくは。……トールさん、NoAの普及によってこの国の犯罪率がどうなったか知ってますか?」

「その言い方だと右肩上がりと見た、けど減ってそうなものだよね? ほとんどの国民は現実を捨てたんだし」

「いえ、変(・)わ(・)ら(・)な(・)い(・)ん(・)で(・)す(・)。現実の世界への興味を失った人間が大半を占めるこの国において、確かに交通事故など生活に不要になったものから発生する事故や事件は減少しました。でもある問題が浮上したんですよ。NoAの致命的な欠陥、ログイン中の人間は現実に干渉できない、というね。それを利用した強盗傷害その他諸々。程度の差はあれどそう言った事件は増えてます。一般家庭程度のセキュリティ、ちょっとハッキングを齧った人間なら簡単に突破できますから。だから交通事故とかが減った分ネットワークに関する犯罪率は増加。結果的に、総合的な割合は変わらないんです。でも部分的な割合は減少しているし増加している。その辺の法改正もそのうち行われるかもしれないですね」

「ああなるほど……。一般家庭程度のセキュリティを突破するとかなら履歴もすぐ消せるし、ネット上の痕跡を消されたら洗い出すのにも時間かかるかぁ」

「そうです。だから犯罪の増加率とその後処理に対する作業が割に合わないんですよ。それとトールさん、ログインするのに(ここに来るのに)使ってる端末、どこの会社のものですか?」

「そりゃ……って、そっか、NoA運営はあくまでもサービスの運営をしているだけでログイン端末の生産は行ってない。ログイン端末への不正アクセスに関してNoAは介入できないんだ」

「そういうことです。警察としては急増するネットワーク関連の犯罪をNoAに結びつけて片付けてしまいたい。でもそれは現実的に考えて不可能だ。いくらNoAが国内一で、NoA内で仕事や学業に励んでいる人が多いからといっても仮想空間はNoAだけじゃない。だからNoAがとんでもない不祥事を起こしてくれたらいい。そうすれば世界から仮想空間はなくなる可能性だってある。世界最大の仮想空間が起こした不祥事。この世界から仮想空間をなくすにはもってこいのネタだから」

「……流石にそこまでいくと警察内部のNoAアンチ、って言葉で片付けられなくない?」

「はい。だからこれはあくまで憶測です。ぼくは別に警察内部に犯人がいるとは思ってませんし言ってませんよ」

「このログ漁られたら適当な罪でっちあげてでもしょっ引かれそうだけども」

「心優しい警察がそんなことするわけないでしょ」

 とはいえ、警察内部でNoAに不満を持つ人がいるのは確かだ。犯罪率についてもリアさんがある伝手から入手した確かなものだし、日々のニュースでも見ていればなんとなくわかるようなもの。だから決して警察がシロだとは言い難いのが現状。それこそ上層部の人間がNoAをよく思っていないことは嫌というほど知っているわけだし。

 早く解決した方がいいのはそういう理由もあるんだろう。警察がNoAに|切り込む糸口を見つける《礼状を突きつける》前に。人の命とぼくたちの世界。天秤にかけるようなものでないことは確かだが、その両方を守るためにも。

「い、石井く、ん……っ、お、終わった、よ……」

「ねねちゃんお疲れー。欲しいデータあった?」

「そ、それは、あった……。石井、くん……、ちょっとお願い、あって……」

「嫌な予感がしますけどねねんさんのためなら喜んで。どうしました?」

「えっと、えっとね……」


 囮、やってくれないかな。

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