16話-神導
「とはいえ……さしものナツメちゃんでも、目的の分からないタイプのクエストは難しくないかな」
「同行型なら大丈夫ですよ。問題があるとすれば、舞桜ちゃんに自覚がないタイプってところですかね」
「自覚」
「開発途中のイベントとNPCだとしたら舞桜ちゃんがイベントを進行するのに必要なフラグを持っていない可能性があります。というか、その可能性が高いです」
ナツメちゃんが言うことにゃ、このままイベントが進行するかは舞桜ちゃんのデータ次第だと。舞桜ちゃんの内部データの確認ができればいいけれど、如何せん今のぼくは管理権限にアクセスすることができない。それを見越したタイプの不具合だとしたら質が悪い。そうでないのならばぼくの運が著しく悪かったというだけだ。
「じゃあ今回はナツメちゃん主体で動くとして……リアさん、向こう側にあった社っていうのは?」
「簡易的なものだったね。三人が見つけた神社ほど立派ではなく、小さな神殿とでも言うべきか」
「神殿、ですか……」
ナツメちゃんが考え込むようにクルクルとお盆を手で回している。器用だ。
「舞桜ちゃん、その社にはわるーい妖が封印されている、ってことですよね」
「うんっ! 封印が、ガタガタってしてる!」
「なるほどなるほど……ひとまず見に行く方が早そうですね」
言うが早いか、ナツメちゃんは舞桜ちゃんの手を取ってその社に向かって歩き始める。ぼくたちも大人しくその後を続く。
「……そういえば、ナツメちゃんって今生きる伝説なの?」
「あー、それな。自他ともに認める系の伝説。ファンタジーエリアのエンドコンテンツ……最高難度のボスおるやん。それの歴代最速記録保持者」
「歴代最速ってことは……」
「おん、ねねんさん……ちゃうか、鴉の一分十四秒を更新してる」
「そ、それ、は……伝説だね……」
かつてねねんさんが樹立した最速討伐記録。それを遥かに上回った記録を叩き出したと。それは確かに伝説だ。しかも鴉は引退済みだが、ナツメちゃんは現役。生きる伝説と呼ばれるのも然もありなん。
「それでいてアイツ、あっちではギルド入ったりせんから余計に尾ひれ背びれついた噂が立ち回り……天狗になっとる」
「そんないつか足元すくわれそうな……」
「足元には注意しとるやろ、ナツメやぞ」
「……それもそうか」
しばらく歩くと件の社に辿り着いた。
建てられたばかりかのような真新しい神殿。しかし、一部のテクスチャが剥がれていたり色合いが不安定だったり……如何にも開発途中です、と言わんばかりだった。実際開発途中なのだから仕方ないが。
「おっ、クエスト更新来ましたね!」
「……『儀式を行う準備をしよう』……これまた漠然としたクエストやな」
「クエストのテキストなんてこれくらいでいいんですよ! さて、攻略班もいなければ前提クエストすら分からないので詰みの可能性もあるわけですが」
「前提クエスト?」
ゲーム好きなナツメちゃん、カルハスくん、ねねんさんには常識らしいがファンタジーエリアは管理用のデータしかないぼくとそもそもネットゲームに疎いリアさんはその前提クエストとやらの重要性が理解出来ていなかった。
「石井さん、そろそろファンタジーエリアの専用用語集アップデートしといてくださいね。……コホン、前提クエストっていうのはクエストに挑戦する上で必要となってくるものです。メインシナリオなら、前の章をクリアする必要があったり、サブクエならAのクエストをクリアしないとBのクエストに挑戦出来なかったり……とかそういうのです」
「つ、つまり、ね……このクエスト『桜散る、』がメインシナリオの、最初のクエストじゃ、なかった、ら……必要なアイテムとか、情報が前のメインシナリオに、用意されてるかも、だから……」
「必須アイテムを所持してなかったらここから先へは進めへん、っちゅーことやな」
「ご丁寧にどうも、ファンタジー組。……リアさん、着いてこれてます?」
「……も、もちろん、理解はしているとも」
「声裏返ってますよ」
つまり、下手したらここでこのメインシナリオは進行不可能になると。
「バグで発生した状態なのでそうなる可能性は十分にありそうですけど……儀式云々のデータが舞桜ちゃんにあれば……」
ナツメちゃんの視線が舞桜ちゃんに向かう。そこがNPCの定位置なのか、舞桜ちゃんは縄で縛られた大きな岩の前に佇んでいた。その横にはこれ見よがしに立てられた看板。
「これ、伝説の案内板だよ!」
「伝説の案内板……あ、伝承とか書かれてるやつですかね。なになに……『桜花の巫女、宝珠、舞、宣言』……こっから先テキストデータバグってるんですけど!!」
「蟆∝魂繧定ァ」縺剰エ??鬲ゅr闃ア鬚ィ縺ィ蜈ア縺ォ闊槭>雕翫i縺帙h縲?」
「石井今なんつった?」
「……蟆∝魂繧定ァ」縺剰エ??鬲ゅr闃ア鬚ィ縺ィ蜈ア縺ォ闊槭>雕翫i縺帙h縲?。あれ、ぼくの音声バグってる?」
「文字化けを声に出せることあるんだぁ……」
「ねねちゃん、感心するとこじゃないからね」
「……頼みの綱の石井さんすらバグってますね。つまり、この文章は読めないものとして進めるしかない、と」
ぼくとしてはちゃんと読み取れているし発声もしてるつもりだけど、どうやら管理AIの言語機能が一般プレイヤーの言語機能と一致しないらしい。まあ文字化けしてるのを読めないとエラー発してるコード読み取れなかったりするからね、仕方ないね。しかし、些か面倒なことになった。この文章が本当に正しいのなら、ナツメちゃんには酷なシナリオじゃなかろうか。
「桜花の巫女、ってのは舞桜ちゃんですかね」
「あ、うん! そうだよ! 桜浜神社の巫女だから!」
「あそこ桜浜神社って言う名称だったんだ」
「マップの名称も仮称やしな。……社神殿Aやぞ、ここなんか」
「開発途中、見れるの、楽しい、よねっ……」
「ねねちゃん、今注目すべきはそこじゃないからね」
「宝珠と舞っていうのは……アイテム持って舞えってこと?」
「じゃあ次の目的は宝珠探、し……これだぁ。すっごいこれだぁ……」
目線の先、狛犬の像の口にはめ込まれた緑色の玉。どう見ても、これだ。あまりにも雑に設置されている。
「……一箇所で簡潔に進められていい設計だね」
「いやこれ多分仮置きやろ。絶対本実装されたら歩き回されるやつや」
「よっ、と……。おっ、『伝説の宝珠』ゲットっとー」
「ぱち、ぱち……」
獲得しました、のポップアップを自慢げに見せつけるナツメちゃんと嬉しそうに拍手を送るねねんさんと舞桜ちゃん。すると、どこからかまた鈴の音。あの神社で聞いたものと同じ音だった。
「今の……クエスト進行したってことですかね」
「そうだろうね。……で、この文字化けしてる部分をどうにか読み取らないといけないわけか」
「ふむ……考えうる限りの最悪まで想定したら……ひとまず探索しますか! あの、これ見よがしの洞窟とか!」
ナツメちゃんが指さしたのは、見るからに危険そうなオーラを放った洞窟だった。




