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15話-拝命

「助けてください……って?」

「あ、えっと……私、舞桜(まお)って言います! この神社の巫女やってて……」

 舞桜と名乗った少女の話をまとめるとこうだ。

 この百鬼夜京に封印されている妖の封印が解けそうになっている。その封印が解かれてしまうと百鬼夜京はめちゃくちゃになってしまう。だからユーザーであるぼくたちに助けてほしい。なるほど、典型的なイベントの導入だ。

「……実装されていない、という一点を除けばおかしなところは何もないね」

「その一点が大問題やろ」

「進行すべきではありますよね。ゾーン全体に影響があるタイプのイベントってことはメインシナリオか大型レイド系のイベントですし」

「さすがナツメちゃん。解説助かるよ」

「えへへー」

 さて、どうしたものか。このままイベントを進行するのは確定として、そろそろリアさんたちと合流しないといけない時間だ。この舞桜ちゃんを連れ歩くことはできるのか。それともイベントシーンにしか登場しないのか。どちらかと言えば後者だろう。

 そこでふと視線に気づいた。舞桜ちゃんが不安そうにこちらを見ている。クエストを受注しますか、というポップアップも現れなければクエスト一覧にも更新がない。今この瞬間、舞桜ちゃんの存在はかなり宙ぶらりんの状態だ。

「舞桜ちゃん、わたした今日ここにやって来たばかりで街の探索もまだなんです。良かったら案内とかしてもらえますか?」

 どうしたものかと悩んでいると、ナツメちゃんが誰よりも早く動き出した。

 舞桜ちゃんを連れ歩く同行型と舞桜ちゃんが特定のシーンにのみ登場する進行型の見分け方としては確かにこれ以上ない質問だ。ここで着いてくるなら同行型。着いてこないなら進行型。前者なら舞桜ちゃんが案内係になってくれるから、イベントの進行はスムーズに進む。後者だった場合はぼくたちが自分でフラグを見つけないといけない。普通ならクエストマーカーで目的地なんかを教えてくれるはずだけど、クエスト一覧にない以上、その機能はあってないようなものだ。その機能は受注したクエストの進行を手助けするもので、受注したことになっていない今の状況では何の意味もない。

「街の案内? それなら任せて!」

 にぱっと明るい笑顔で舞桜ちゃんはナツメちゃんの手を引いて鳥居の方へ走って行った。どうやらぼくの心配も杞憂だったらしい。

「……なあ石井」

「なにかな、カルハスくん」

「今の、舞桜ってNPCおかしくあらへんか?」

 ナツメちゃんたちの後を追いかけながらカルハスくんが神妙な面持ちでそう切り出した。おおよそ、ぼくの考えていることと同じだろう。彼の勘はこういう時によ働く。

「人格が安定してない、って言いたいんだろ? 口調に表情……話すたびに変わってる」

「やっぱりか……。今はちょっとおとなしい女の子、って感じやな」

 少し前を歩く二人に目を向ける。さっきは明るく、大きく口を開いて笑っていた舞桜ちゃんが今は小さく笑っている。どのくらい違うかと言うとナツメちゃんとねねんさんくらい違う。

「制作段階のイベントが不具合で進行している、ってところだろうね」

「進行すなやそんなもん!」

「進行してるから不具合なんだよ」

 待ち合わせ場所。最初の集会所であるあの桜の木の下には既にリアさんとねねんさんが戻って来ていた。二人とも真剣にメニュー画面を見つめている。

「やあ、遅かったじゃないか」

「時間には間に合ってるでしょ。そっちは何かありましたか?」

「こちらより、そちらの成果を聞く方が先かな」

 リアさんの視線が舞桜ちゃんに向かう。その視線に驚いたのか、舞桜ちゃんはナツメちゃんの背中に隠れてしまった。少し怯えたような表情。また少しだけ、変化している。

「舞桜ちゃんっていう……NPCです」

 探索していたら神社を見つけたこと。そこでせっかくだからとたまたま手水舎を利用したらクエストが進行したらしいこと。おみくじを結んだら舞桜ちゃんが現れたこと。

 一通り説明していくと、リアさんはメモ帳に記録していた。いつ報告してもいいようにまとめているのだろうか。そういうところはさすがリーダーと言うべきか。

「ナツメちゃんと親しげに並んでいたところを見るに同行型のクエストでも始まったのかな?」

「察しが良すぎてぼくらのこと覗き見でもしてたんですかってくらいですね。そうっぽいです。……ただ」

「クエスト、一覧……更新、ない、ね……」

 ねねんさんが不思議そうにクエスト画面を開いては閉じている。更新ボタンを押さない辺りがねねんさんらしい。メニュー画面をタスクキルしても意味はない。当然だった。

「舞桜ちゃんによると、このゾーン……百鬼夜京に大型モンスター、妖が封印されていて、その封印が解けかかっているらしいです」

「……メインストーリー始まったかい?」

「やっぱりそう思いますよね」

 舞桜ちゃんはチラチラとナツメちゃんの背後からこちらの様子を伺っている。大丈夫ですよー、と気の抜けるようなナツメちゃんの声を聞きながらリアさんに指示を仰ぐ。

「ナツメちゃん、どう思う?」

「わたしですか? まあそうですねぇ、これがどういう形式であれイベントならクリアします。でも……それよりもまず、わたしたちは電探です。舞桜ちゃんが不具合なら調査して、助けて(解決して)あげないと!」

 ナツメちゃんの言葉に反応するように、ポップアップが表示される。

【百鬼奇譚——桜散る、を受注しました】

【クエストを開始します】

「……今のフラグなんですか?」

「絶対ちゃうやろ。……偶然にしては出来過ぎやな」

 ポップアップが消えた後にクエスト画面を開くと一覧に【主要任務】の項目が増えていた。どうやらこれでぼくたちはこの舞桜ちゃんを中心としたクエストを本格的に進められることになったらしい。ご丁寧にマップにもマーカーが表示されている。

「あっちの森の奥に、社があるの」

 舞桜ちゃんが今度は淡々とした口調で喋り出す。指差したのはリアさんとねねんさんが探索していた方角。

「社に神様がいて、その神様が妖を封印してるの」

「社……さっきの神社とは違うってこと?」

「……うん。神社は神様のお家だけど、社はあくまでも妖を封印するための場所。先に出来たのは社の方」

「つまり、その昔ここを荒らした妖を神様が封印してくれたからお礼に家建てたって感じか?」

「辻褄は合いますね……。でも……」

 ナツメちゃんは何か気になることでもあるのか。マップを何度もズームして確認している。

「ワタシたちの方で分かったことは、特にないよ。その社も見つかっていない」

「……未開発のエリア」

「そうだろうね。舞桜ちゃんと同じく開発段階のデータが表面化している。……管理画面はまだ覗けそうにないかな?」

「今見てます」

 管理画面にアクセスしようとしても相変わらず通信エラーで開きそうにない。というよりも、これは。

「アクセスがブロックされてますね」

「……やっぱ、り……ゴースト案件、だ、よね……?」

「そうやとしたら、だいぶ厄介やろ。このエリアに干渉しとるってことやんけ」

 カルハスくんの言う通りだ。このエリア、百鬼夜京はそもそもモノたちのようなゴーストに対抗するためまだ手の及んでいないエリアを新設しようという計画で作られた。そこに干渉するように通信エラーやログアウト不可という不具合を引き起こしたのであれば本末転倒。しかし、そうというにはあまりにも。

「……遊んでほしいんですかね」

 ナツメちゃんがポツリと呟いた。

「ゴースト案件だとしても、モノたちのAI案件じゃないかもしれません」

「その心は?」

「舞桜ちゃんが、います。重要NPCがそのままです。それも、開発段階の」

 グッと伸びをしたナツメちゃんは懐からさっき呉服屋で購入したお盆を取り出してくるりと一回転。メイドらしい所作で、舞桜ちゃんにお辞儀してみせる。舞桜ちゃんはきょとんとした表情でナツメちゃんを見つめている。

「任せてください! これがメインストーリーなら進行すればいいんですから! わたしが、現ファンタジーエリアの生きる伝説……ナツメがド派手に、ロールプレイもしっかりこなしてクリアしてみせます!」

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