14話-神行
「連絡が取れない……ログアウトも不可能。……デスゲームもの始まりました?」
「なんで石井はそない余裕やねん」
「想定されているんだよ。不具合の一つとして」
コンソールディスプレイを表示して管理者画面に切り替えると操作不能のエラー画面。
「管理権限も通用しないっぽいです。リアさん、どうします?」
ログアウトができないとなると現実側から強制ログアウトをしてもらうという手もあるけれど、それが上手く作用するかわからない。逆に、NoAと現実のリンクが切断されることで意識が肉体に戻らないということもありえる。その可能性を現実側の人間が気づいてくれるのか。そもそもこの異常に気づいている人間がいるのか。運営は認知しているのか。このエリア限定なのか。それすらも不明だった。
「ひとまずは探索するしかないだろうね。これがどういった不具合なのかは置いておいて、不具合であるならワタシたち電探が調査しないと」
マップを開いていたリアさんは、いつものブリーフィングの時のように真剣な眼差しを向けてくる。
まずはこの百鬼夜京全体の調査を手分けして行う。チャットが使えない今、連絡が取り合えないということで時間を設けて探索することにした。規定の時間に集合場所に戻ってこなければ調査していた場所に向かうという方針。
「組み合わせは……今回は事態が事態だ。ワタシとねねちゃん、石井くんとカルハスくんとなっちゃんのチーム分けでいこうか」
「妥当ですね。じゃあ、ぼくたちは西側を。一時間後にこの桜の木の下に集合で、移動を考慮して十五分待っても来なかったら探しに行くということで」
「異論ないよ。くれぐれも無茶はしないように。管理権限の行使もできない異常事態だ。何が起きるか分からないからね」
じゃあ、解散。
リアさんの言葉を合図に、ぼくはナツメちゃんとカルハスくんを連れてゾーンの西側——ダンジョンが待ち構える森の方角へ足を向ける。どうやらエリア移動ポータルも使えないらしく一つのゾーンの中でも移動に時間を取られるらしい。
「ファストトラベル封じとか……姑息な手使ってきますね、今回のゴースト」
「まずゴースト案件かどうかはまだ分からんやろ」
「いや、さっきナツメちゃんが見たっていう女の子の影が本物なら十中八九ゴースト案件だろうね。それも多分、タチが悪いタイプだ」
会話を続けながら森を歩いていると、整備された道が見えた。クエスト用に整えられたのか、はたまた。ぼくたちはしばらくその道とその反対側を見比べて整備された道を進むことにした。しばらく歩けば鳥居と石造りの階段が出迎える。神社のスポット。事前に配られていたゾーンの資料と照らし合わせてみてもこんなスポットは存在しない。
「緊急実装されたんですかね。ログアウトできないのも緊急実装の影響とか」
「さすがに事前に連絡の一つや二つくれると思うよ」
「ってことは……罠か?」
「……そんな単純なものだったらいいけどね」
警戒は怠らないまま、ぼくを先頭にして鳥居を潜る。後ろにナツメちゃん、殿がカルハスくん。
階段の長さはそれほどでもなく、二分もしないうちに頂上についた。緑に囲まれた静かな神社。当然だけど人の気配はない。
「手水舎まであんのか……」
「あっちには社務所ありますよ。あ、おみくじできる」
「ナツメちゃん、勝手に動かない」
「はーい」
辺りを見渡しながら歩くと砂利を踏む音だけが虚しく響く。ぼくたち3人分だけの足音が響いているだけだ。ここ神社スポットして設定されているなら、本実装された時は人がよく集まることだろう。
「神社というよりも、大社ですかね、この広さ」
「正月イベントとかに使えそうやな」
「正月イベントね……。じゃあせっかくだし、慣習に従ってみようか」
手水舎に向かい、手順通りに手を洗い口を濯ぐ。すると、どこかで鈴の音。イベントの進行条件を満たしたような、軽快なクリアアラートのような響きだった。
「クエスト完了、ってことやろな」
「実装されていないはずのイベントが進行してるってことですよね?」
「そういうことだね。いくらデバッグ用にぼくらを呼んだとしてもまだチュートリアル用のクエストしか用意してないはずだし、クエスト画面にも神社に行こうなんてものないし」
メニュー画面を開いて、クエストを確認すると最初に説明を受けたチュートリアル用クエストしかない。達成済みに『呉服屋に行こう!』といクエストがあるくらいで、他は進行中の未達成のものしかない。
「これ以上の進行は危険だろうけど……、進まないと調査にもならないしね。手水舎の次は……」
「お詣りやな。二拝二拍手一拝、やっけ」
山道を歩いた先。これまた立派な拝殿だった。賽銭箱の前に立つと、自動でポップアップが開いた。
【賽銭箱に入れるcrt.の金額を設定してください】
「……やっぱり、こういうのは5がいいのかな」
「イベントの進行に関わるなら調査のために全員違う金額入れません? 誰がフラグ踏むか分かりませんし」
そう言いながらジャンケンする気満々のナツメちゃん。賽銭箱の前でやるにはいささか失礼すぎる会話な気もするが致し方ない。
「金額だけ決めようか。5と100と1000で」
「了解です。カルハスくんもそれでいいですか?」
「おう」
ジャーンケン。パー。
カルハスくんがグー。ナツメちゃんがパー。
「とりあえずカルハスくんが1000かな」
「しゃあない……」
「カルハスくん、お金のことになると弱いですよね」
「うっさい」
二回戦。結果、勝者はナツメちゃん。ということでナツメちゃんが5crt.、ぼくが100crt.、カルハスくんが1000cr.。それぞれ賽銭箱に投入した。そのあとしっかり二拝二拍手一拝の手順でお詣りをすると手水舎と同じように軽快な鈴の音。
「……神社ってこのあとどうするんだっけ」
「普通に帰りません? 強いて言うならおみくじ引くとか?」
「おあつらえ向きにあるしな、おみくじ」
数秒ほど顔を見合わせてぼくたちはおみくじを引くことにした。何が進行条件かわからない以上、やれることは全てやってしまおうの精神。デバッグという名目なら間違ってはない。
「大吉」
「末吉です!」
「……大凶」
「カルハスくん、本当に一回お祓い行く?」
「本気で憐れむのやめろや……!」
カルハスくんとナツメちゃんはおみくじ掛けにおみくじを結びに行った。そこでまた鈴の音。おみくじを引いたからか、結んだからかは定かではない。でも音の鳴ったタイミング的に後者だろうか。
「……石井さん」
「うん、見えてる」
ナツメちゃんがキュッとぼくの服を掴んで一点を見つめる。
ぼくたちが入ってきた鳥居とは別の方角。境内の奥にある森の入り口に、見知らぬ少女が立っている。これがホラーゲームなら瞬きの間に近づいてくるだろうが、その少女は焦ったような表情でぼくたちに駆け寄ってきた。雰囲気と走り方からして、間違いなくNPC。だけど、NPCだとしたらおかしい。明らかに、イベントの導入のように動いている。
「あ、あの……! 助けてください!」
切実。その言葉が似合うような表情で、少女は叫んだ。




