13話-前兆
異世界エリアに新ゾーン設立!?
蒼月と桜花が見守る夜の都。妖蔓延る都から人々を守りぬくために立ち上がるプレイヤー。各ギルドは自警団として都の治安を守るため日々妖を狩るために都の人々から寄せられる依頼をこなしていくことになる。
専用のアバターアイテムを販売する呉服屋や専用のアイテムを販売する甘味処に雑貨屋。
新ゾーン・百鬼夜京まもなく開設!
* * *
「……と、ざっとした紹介文はこんな感じだね。なにか質問あるかな?」
「……、……はい」
「はい、カルくん」
「なんでお前がここにおんねん姉貴!」
「デザインチーフだからじゃないかな」
「お前は黙っとれ石井」
カルハスくんに制止されきゅっと口を閉じた。当の本人、NoA運営デザイン課チーフのハルルカンさんは何食わぬ顔で資料を広げている。
「石井くんの言うとおり、わたしはただデザインチーフとしてこの百鬼夜京の統括プロデューサーを任されてるからね。今回電探への案内係を買って出たってわけ」
「……本音は」
「カルくんが慌てふためく姿が見たかったから」
「お前ほんまええ加減にせえよ……」
カルハスくんが項垂れている。まあ仕方ない。カルハスくんがこの世で唯一逆らえないのが実姉であるハルルカンさんなのだから。
デザイン課チーフ、ハルルカンさん。カルハスくんの実姉であり、彼も通っている芸術大学の非常勤講師。先日のゴースト案件で単位がどうのとカルハスくんが嘆いていたためどうにか提出物の期限を伸ばせないかぼくが打診した結果、カルハスくんの緊急参戦が可能になったという裏話。こう見えて弟に甘いのだ、ハルルカンさんは。職権濫用とも言う。それはそう。
「さて、まず簡単なゾーンの説明をするね。ここが中央広場。ロビーから移動してくるのは基本ここ。百鬼夜京の真のスタート地点だね」
「待ち合わせには最適ですね、この桜の木」
「石井くんいいところに目をつけたね。ナツメちゃんには慣れたもんだろうけど、異世界エリアはランドマークとして大樹を設置してる。和風のエリアなら当然桜だよね、ってことで」
「……で、これがクエスト案内板ですか? 立札なのいい味出してますね!」
「さすがナツメちゃん、早いね。そ、それをタッチして画面を開くと……」
ハルルカンさんに促されナツメちゃんが立札にタッチすると、クエストのポップアップが表示される。これはファンタジーエリアと同じ仕様らしい。向こうは確か掲示板だったか。
お試し依頼、と表された依頼が複数個。どうやらデバッグ用にいくつか用意されているらしい。
「まずはこのゾーンを体験してもらうためにチュートリアル用のクエストをクリアしてもらう仕様になってるよ。これは百鬼夜京に初めてログインしたユーザー全員必須」
「これ、全部……?」
「妖退治に都散策……一通り楽しめる仕様か」
ねねんさんとリアさんが並んで依頼の内容を確認している。どうやら今回はグループクエストとして電探全員でこれをクリアしないといけないらしい。
「現在完成しているエリア全部に足を運べるようにしてあるから、もし気になることがあれば都度報告してね。……じゃ、わたしはこの辺で。カルくん、延長してあげたんだからちゃんと課題も提出するんだよ」
言い残してハルルカンさんはログアウトしていった。
残されたぼくたちは早速、どのクエストから消化していくかの会議に移る。この桜の木の下が集会所代わりになっているらしく、机と椅子はいくつかある。そのうちの一つに座って中央に浮かぶディスプレイを全員で確認する。
「『妖狐10体討伐』、『アサギ草10個採取』この辺は冒険系クエストですね。難易度も優しめだけど……」
「いやそれより『呉服屋で買い物をしよう!』に目線が固定されたまま動かないねねんさん見てくださいよ石井さん」
「……そういナツメちゃんも『甘味処で休憩を』から目を逸らしてないよね。ガン開きだよね、目が」
とりあえずの方針としては探索系クエストを先に消化するということになった。まあ確かに今までと毛色が違いすぎるこの都を見て回りたいという気持ちは分からないでもない。
「グループクエストは全員がクリアしないと先に進めないタイプだね。それじゃあまずは……」
「呉服屋。呉服屋行こう。ね、りぃちゃん、いいよね、ね?」
「ねねちゃんは一度落ち着こうか、分かったから」
珍しくリアさんがたじろいだ。ガチャの鬼兼着せ替えの鬼の見せ所というところだろうか。いつになく饒舌なねねんさんだった。
「……で、さっきからだんまりのカルハスくんはお狐スタイルのハルルカンさんのことでも考えてるのかな」
きゃっきゃっと呉服屋に向かい始めた女性陣の数歩後ろを歩きながら、饒舌なねねんさんとは対照的に静かなカルハスくんに声をかける。
図星だったのか、一瞬だけ恨みがましそうに睨んできた。分かりやすいなこういう人間。
「初めて見るアバターやなって思ってただけやけどな?」
「声裏返ってるよ、シスコンくん」
「せめて名前の原型留めとけや! 文字数しか合っとらんわ!」
「でも事実だろ」
「……おん」
「素直か」
カルハスくんが言うことにゃ、あんな格好で人前に出たら声をかけられまくるだろう、という心配が優っているらしい。アバターだけ見れば確かにデザイン課権限で特注アバターだから目を引くだろうけど、どうやらそいうことではないらしい。
「つかナツメもあんな格好で……」
何故そこでナツメちゃんの名前が、と思ったところで記憶領域に引っかかった。そういえばカルハスくんとナツメちゃんは家が近所の幼馴染みだった。ライトノベルもびっくりの主人公とヒロイン適正だった。しまいには主人公の姉まで出てくる。よくある展開といえばそれはそう。
「でも、過保護な幼馴染みは負けフラグだよ、この間読んだラノベがそうだった」
「そんなん学習すんな管理AI!」
「てへぺろ」
「……わかったお前の学習メモリ一回見せろリセットしたる」
「おいばかやめろ」
そうやってぼくたちが戯れていると、女性陣は呉服屋に着いていたらしく店の前で楽しそうにショップ画面を眺めている。今回はデバッグということで好きなアイテムを選ばせてもらえるらしい。もちろん、デバッグが終わればこのアイテムは返却することになっているけれど。
「おー、いいのあったか」
「あ、見てくださいカルハスくんこれ! お盆をデコれます!」
「それ武器ちゃうんか」
「アイテムですよ!?」
楽しそうな二人を横目にねねんさんとリアさんに歩み寄るとどうやら二人はお揃いの髪飾りを選んだらしい。色違いで。なんともまあ女子らしいチョイスだ。
「じゃあぼくはこの眼鏡にでもしようかな」
「……苦学生感が増したね」
「やかましいですよ」
呉服屋でのアイテム購入を終えるとクエストクリアの通知。どうやら全員購入を終えたらしい。そのまま流れで甘味処へ向かう。次のクエストは回復アイテムの購入。その道中、ナツメちゃんが不意に足を止めた。
「ナツメちゃん?」
「……今、そこの路地に、女の子が……」
「……、……は?」
おかしい。それはおかしい。今このゾーンは一般公開されていないし、NPCだってクエスト用のエネミーだけでユーザーはここにいいる五人だけ。他のユーザーもNPCもいるはずがない。明らかな異常だった。
「……ゴーストか」
「あるいは……。いや、どちらにしろ、運営に報告する必要があるね。……ねねちゃん?」
報告用のチャットを開いていたねねんさんの顔がいつにも増して青い。さっきまでの快活さはどこにもなかった。
「チャット……オフライン、で……繋がら、ない……」
送信できません。その文字だけがチャット画面に表示されていた。




