12話-換装
NoAのファンタジーエリアはゾーンによって識別名が設けられている。例えばぼくらの溜まり場がある電脳エリアはサイバーミステリーゾーン。俗称として電脳エリアと呼称している。NoAの目玉と言っても過言ではないファンタジーエリアは元々そういうゲームとして売り出そうとしていた名残を受けて「ノアズ・オンライン」ゾーン。ただ一番有名なエリアということもあって、このゾーンをファンタジーエリアと呼称するのが一般的だ。
さて、改めてゾーン名称について話をしたということは。
「和風ファンタジーゾーン……識別名は「百鬼夜京ゾーン」ね」
目の前に広がっているのは石灯籠と鳥居が出迎えるこのゾーンのロビー。如何にも、な雰囲気がひしひしと伝わってくる。
「お、なんや石井が一番乗りか」
「まあそりゃ一番乗りではあるよね。……襷掛けは解釈一致だな」
「せやろか」
「せやで」
ぼーっと他のメンバーを待っていたらカルハスくんがやって来た。紺色の袴に同色の着物。着物は襷掛けされていてよく似合っていた。餅つきとかしてそう。
「デフォルトでええかおもて。動きにくいから襷掛けのやつにしたけど」
「まあプリセット使う方が早いよね」
「……まさかそれもプリセットか?」
「書生・苦学生……だったかな、アイテム名」
「しかも苦学生なんか……」
ぼくのアバターは俗に言う書生スタイル。深緑の着物に茶色の袴。学生帽とメガネ付き。プリセットにあったものをランダムで選んだ割にはまあ悪くはない。
ここまで来ればさすがに察する。女性陣はアバターの着せ替えをじっくりやってる。間違いない。ぼくとカルハスくんがプリセットで選ぶのに対して向こうは着せ替えの鬼ねねんさんがいる。のんびり待つのが正解だろう。二人で近くのベンチに腰掛けて残りの三人が来るのを待った。
「リアさんがどういうアバターか想像つかなくない?」
「ねねんさんは多分袴やろうし、ナツメは和メイドとか着てきそうやけど……確かにリアさん読めなさすぎるな」
「だよね。……お」
ログイン通知。名前はナツメ。
「お待たせしましたー! と言ってもまだ二人待ちですけど……どうですか?」
ログインの着地と共にくるりと一回転。ひらりとスカートが風に舞う。カルハスくんの予想通り和メイドだった。緑色を基調とした和服にミニスカート。よく見れば装備にお盆がある。もしかしたらあれで戦うのかもしれない。
「予想通りすぎてびっくりしたわ」
「和メイドかわいいでしょ〜」
「桜餅みたいだね」
「色だけでそう言ってますよね!?」
実際髪の色が淡いピンク色だし目の色も緑色だ。前々から桜っぽいな、とは思っていた。本人の気質的には向日葵の方が近いんだろうけど。
「ちなみに一番リアさんがすっごいです。石井さん腰抜かさないでくださいね」
「なんでぼく」
「予想だにしないからです。AIの予想も超えますよアレ」
「ハードル上がりすぎて天井刺さってるよ」
「ネットミーム駆使してくるAI嫌すぎん?」
やんややんや。わいのわいの。
ナツメちゃんとカルハスくんが揃うと途端に賑やかになる。二人とも手より口が動くタイプだからさもありなん。二人の会話を聞き流しながら適当に相槌を打って運営から送られてきたこのエリアの概要を確認しようとメニュー画面を開くとまたフレンドのログイン通知。ねねんさんとリアさんは二人揃ってのお越しらしい。
「やあやあ、待たせたね。ねねちゃんがなかなか納得してくれなくてね」
トン、と軽やかに着地したリアさんのアバターは青色を基調とした和洋折衷といった感じの着物だった。シルエットは和服のそれだけどコルセットに編み上げブーツ、とアレンジが巧みだった。そのアレンジを生み出した匠はその後ろでキョロキョロと辺りを見渡していた。ゴースト案件の時によく見るポニーテールに袴。同じように見えるけれどよく見ると柄や色合いが違う。いつもは暗めの色合いが多いねねんさんが今回は桜の意匠をあしらったピンクの着物に紺色の袴だった。ポニーテールをまとめている髪飾りも少しだけおしゃれだった。
「似合ってますね、ねねんさん」
「ふぇえ!? わ、私より……りぃちゃん、見て……」
「……いや正直予想の斜め上すぎて直視する余裕がないです」
「……、えっへん」
「なんでねねんさんが得意気なんですか」
確かにまあ、リアさんがシンプルな装いで来るとは思ってもいなかったから豪奢な着物を着ていたとしてもおかしくはない。予想できなかったのが悔しいだけで、決してナツメちゃんの言う通りAIの予想を超えてきた装いに心を奪われているわけではない。そもそもぼくに心はない。
「さて、お披露目も済んだところで今回のブリーフィングといこうか。まず、このエリアの概要についてはメイン広場についてから運営の担当者から説明があるから割愛。今回我々が受けた依頼は新エリアのデバッグとフィードバック」
依頼概要が資料用チャットに送られてきた。
先の会議で決定した新エリアの設立。元々そのうち実装予定だったらしく、設立自体は会議から一週間も経たないほどすぐだった。とはいえ、正式なリリースをするにはまだ検証が足りない。不具合の発生やモノたちの手が及ばないようなセキュリティが敷かれているか等々確認することは山のようにある。しかし運営は仕様を理解してしまっているため、純粋にこのエリアを楽しむユーザー目線で意見が欲しいという。つまりそういうことだ。ぼくたち電探は新エリアの先行体験を一ユーザーとして融通してもらった。もちろん、依頼という正式な形で。
「簡単な話、好きなように楽しんでくれということだね。その過程で不具合を発見したり、もしもモノたちの接触があるようなら即座に報告すること」
「このエリアを新設する理由が、モノたちの手が及んでいないエリアを作っておくためですしね」
「そういうこと。まあとにかく、メイン広場に行こうじゃないか」
そう言ってリアさんから順番にロビーから移動用ポータルを使ってメイン広場に向かう。
メイン広場に着いて一番最初に目に入ったのは巨大と言う言葉が似合う桜の木。大きいという言葉では足りないそれはこのゾーンのシンボルマークだろうか。そういやファンタジーエリアでもシンボルマークは巨大な木だった。確かに世界観に合わせたシンボルマークとしては機能しやすいか。
「めっちゃ和ですね」
「めっちゃ和やな」
「……あ、お団子屋さん」
「はいそこのゲーマー三人。探索はまだだよ」
パンパン、とリアさんが手を叩くとねねんさんたちは渋々目線をエリアのあちこちからリアさんに移す。見たい気持ちはわかる。ぼくも大まかな仕様書しk読んでないから実物をしっかりと拝めせてもらいたい。しかしまずは仕事だ。
「お。来たね、電探」
「……ハルルカンさんじゃないですか」
桜の木の下。複数置かれたベンチの一つに人影。ぴょこ、と狐の耳がこちらを向いた。
狐耳に尻尾。如何にもな狐巫女スタイルのアバターの女性はこちらに気づくと立ち上がって手を振っていた。
ハルルカン。運営のデザイン課チーフ。どうやら彼女が今回のナビゲーターらしい。




