11話-開拓
「さて、事件解決おめでとうと言いたいところだけど……」
「報酬めっちゃ引かれてますね!?」
「ナッちゃん正解。ということで、今回我々電探に支払われた報酬は当初の半分以下になったわけだ」
翌日になって改めて溜まり場に電探メンバー大集合。今日は今回の事件の総括と報酬の支払いについての話し合いで集められた。
リアさんの音頭で依頼報告書を見てみれば確かに最初に提示されていたうちの三割程度にまで減らされていた。
「あくまでバグの修正分のみ、と言ったところだね。苦情がある人はいるかな?」
「苦情しかないです!」
「はいナッちゃん」
「カルハスくんより少ないのは納得いきません! っていうか石井さんの一割貰ってこれなんですか!?」
「ナッちゃんは弄った個所が多かったからね」
「同意したのは私だけど納得いかない~!!」
なるほど。デフォルトでまず半分に減らされて、そこからナツメちゃんへの移譲された分とアカウントを不正に利用した件で差し引かれた、と。
「ペナルティ重くないですか。特例承認降りたのに」
「その特例承認に不正な操作が見受けられたそうだよ。それとペナルティ、と言うよりこれはモノたちを取り逃がした分、だね」
「あぁ……」
ナツメちゃんではないが納得はした。バグの修正自体は確かに成功している。だけどその大本を絶ったわけでもないし、そもそもゴーストはモノたちが連れ去ったことで結果的に捕獲に失敗している。加えて時間が惜しい、とアカウントの不正な操作を施したのも事実。そうなれば報酬が差し引かれるのも無理はない。無理はない、が……。
「ねねんさんが死にそうな顔してます、リアさん」
「今回の個別報酬、全カットだからね。ねねちゃんにとってそれが一番キツイだろうさ」
マットレスにうつ伏せで倒れているねねんさんに目を向ける。電探というサークルに配られる全体報酬は分配された上で少ないとナツメちゃんは嘆いている。それに加えて個人が望む形で配られる個別報酬があるわけだが、その個別報酬にこそ重きを置いているのは電探においてねねんさんしかいなかった。
「カルハスくん、今回の個別報酬何にしたの?」
「焼肉無料券」
「健全男子学生すぎるだろ……。ナツメちゃんは?」
「次イベントの先行体験です! せっかく権利貰えると思ったのに~!」
思い思いに望むものは違う。それが人間だ。さて、ここまでくれば察しはつくがねねんさんの個別報酬と言うのが――
「ガチャ何百連の権利だったんですか?」
「……四天井分」
「欲張ったなぁ……」
案の定、ガチャだった。しかも今ハマっていて、課金額も結構な額にいっていると語っていたゲームの。どうやら推しの限定ガチャだったらしい。
リアさんは聞くまでもないからスルーしておく。ちなみにぼくの個人報酬は今回一番頑張った人の願いごとを叶えてもらう、だったのでこれがカットされなければねねんさんのお願いを叶えてもらう予定だった。出番的にも、ねねんさんが一番頑張っていたのは明白だったわけだし。
そんなこんなで一応報酬の支払いについての話はまとまった。次の議題は事件の総括だった。
「ゴーストの確保は結果的に失敗。モノたち管理AIの宣戦布告。素晴らしい急展開に陥ったけれど、みんなの感想を聞こうかな。カルハスくん」
「俺か。……まあ俺最後しかおらんかったしなんとも言われへんけど、ちょっと今後の身の振り方に気をつけなあかんかと思ったかな」
「その心は?」
「……それが露呈した時、石井の立場が危うくなるやろ。石井のことなんか運営と俺らしか知らんとは言え、そこを利用される可能性かてあるわけやし」
「私もルハくんに同意ですかね。石井さんの正体をバラすくらいするでしょ、アレは」
カルハスくんに続いてナツメちゃんが手を上げる。確かに二人の言う通りだ。管理AIが反乱を企てている。その事実が露呈した時、彼女たちはきっとぼくについて話すくらいはするだろう。それが、運営と密接に繋がっているサークルに所属しているともなれば猶更だ。
「そう、ならない、ために……考えてる、って、なずちゃん言ってた、よ……?」
もぞもぞ、とうつ伏せのまま顔だけ上げたねねんさんがそう言えば、リアさんもその通り、と頷いた。
「そ。ねねちゃんの言う通り今回のこの事件を受けて運営は一つ、ある案を思いついたらしい。詳しい話は明日運営会議があるからそこで話を聞いてくるよ。出席はワタシと石井くん」
「ま、いつもの二人やな。お土産頼むわ」
「カルハスくんはそろそろ運営を観光地だと思うのやめた方がいいと思うよ」
いつもの軽口の中。話の広がりはないと思ったのか、ログアウトしようとしたカルハスくんをナツメちゃんが制止した。質問があるのだからまだ終わらない、と言うように。
「で、運営の思いついた案ってなんですか」
「詳しいことは決まってないから明日以降にしようと思ったけれど聞かれたからには今決まっていることだけ教えておこうか」
NoAに新エリアを作るらしいんだ。
その言葉にナツメちゃんの叫び声がノータイムでネットカフェ中に響き渡った。
「ナツメ、うるさいで……」
「だ、だだだだって新エリアですよ!? コミュニティエリアじゃないですよね!? ファンタジーエリア内に新設されるんですよね!?」
今にも掴みかかりそうな勢いでナツメちゃんはリアさんに詰め寄った。尋常じゃないほど目が輝いている、というのは比喩ではなく物理だ。あれは俗に言うしいたけ目というやつだ。アバターの感情表現の豊かさに思わず感心する。
なずなさんから送られてきた会議の案内メッセージには確かにこう書かれていた。『新エリア設置案についての運営会議』と。
リアさんの言う通り詳しいことはまだ未定でぼくたちも詳しいこと――いくら管理AIのぼくとは言え運営に関しては丸投げしているので知らないことは知らない――は知らないから額面から受け取れる情報で推察することしかできない。
「既存エリアはモノがどれだけ手を伸ばしてるか分からない。ゴーストだってもっと発生するかもしれない。今回の件も過去の不具合を再発させたものだし。だから既存のものとは全く別のソースコードを用いて新しいエリアを作る、って感じでしょうね」
「まあ十中八九そうだろうね。それが手っ取り早いという話だ」
「そ、そのエリアって、どんなのに、なるの、かな……?」
「洋風ファンタジーはデフォだし、和風寄りとかですかね?」
方や新しい遊び、方や新しいアバター衣装に胸を躍らせているようだ。楽しそうで何よりだよ。
しかし聞き逃せない言葉をナツメちゃんは口にした。そう、新エリアの答えを口にしたのだ。
「そうそう。新しいエリアは和風ファンタジーだそうだよ」
もう一度、静かな店内に叫び声が響き渡った。
和風ファンタジーは洋風より好きだと豪語している少女と、和装アバターが大好きだと豪語している少女。二人分の叫び声が。




