17話-挑戦
これ見よがしな洞窟は内部もこれ見よがしな洞窟だった。
薄暗く、ライトがないと先がどうなっているかも分からないダンジョン。出口までの距離もマップ上では表示されていない。先頭にナツメちゃん、その後ろにカルハスくんと舞桜ちゃん。さらにその後ろにぼくとねねんさん、殿がリアさんという隊列で少しずつ進んでいく。これといったBGMもないことから洞窟内の雰囲気はさながらホラーゲームのようだった。
「ねねんさん、足元気をつけてくださいね」
「う、うん……わっ……」
「言わんこっちゃない。大丈夫ですか?」
「だいじょ……石井くん近い近いっ」
「抱き止めたら必然的にこうなりますけど」
「そうっ……じゃなく、てぇ……!」
「目の前でラブコメしないでもらえるかな?」
案の定転びそうになったねねんさんの手を慌てて取って引き寄せるとリアさんから揶揄うような言葉が飛んでくる。確かにラブコメ的展開ではあるけれど、ぼくとしてはただただ当然のことをしただけなのでそこまで揶揄されるような謂れはないし、そもそもリアさんがどういう意図でそう言ったのかよく分からない。ねねんさんの具合を見るとふいっと顔を背けられた。解せない。
「……行き止まり、ですかね」
「思ったよりちっさい洞窟やったな」
先頭組が開けた場所に出たらしく、呼ぶ声が聞こえる。足元に注意しながら後に続けば確かに行き止まりだった。ヒントも何もないタイプの、行き止まりだった。
「次のイベントはここ、ってことかな」
「ふむ……ねねちゃん、一人で動かない」
「あう……。りぃちゃん離してぇ……」
猫みたいに襟を掴まれているねねんさんを横目にナツメちゃんたちと合流する。二人と舞桜ちゃんは、一部に描かれた壁画を注視しているようだった。
「光るパネルを順番に踏んでいく、ってとこですかね、これ」
「で、その光るパネルが……今オレらが踏んでるこの地面、と」
カルハスくんの爪先が地面を叩くと、地面が淡く光る。薄暗い洞窟内を照らすようなそれは不規則に流れるような五色の光だった。
一定の間隔で、一色ごとに順番に光る。四色目までは近くで光っているけど最後はこのエリアを一周するように、かつ、他の色よりも早いテンポで光っていく。
「時限式の記憶ゲー。手順通りかつテンポ良くパネルを踏め、と」
「クエストも更新されているね。『舞を踊れ』……このパネルを踏むと舞になる、といったところか」
リアさんとクエスト画面を眺めている間にカルハスくんが一度目の挑戦をしたらしい。どうやらリズムゲームの側面もあるらしく、光に合わせて五色全てを同時に踏む必要があると。
「ちょうどいいですね、五人いるし」
「そうなると、白と青はねねんさんと石井か」
何度か確認したところ、カルハスくんの言った白と青が一番簡単そうであることは確かだった。それをわざわざ最初に指定してきたということは。
「誰が鈍臭いって?」
「言っとらんわ!」
言ってないらしい。
それはともかくとして、楽できるならありがたい。こう見えてもぼくはリズム感というものはない。複雑なステップを要求されようものなら足があらぬ方向に折れ曲がる可能性すらある。一人だけツイスターゲームになるところだった。
「で、赤はリアさん」
「任せたまえよ」
「黄色がオレで……緑が」
「……私、ですね」
真剣な表情でナツメちゃんは地面の光を目で追っている。他よりも早いテンポで踏む、ということはそれなりのリズム感と運動神経を求められる。そうなると必然的に、現実でバリバリ運動部だったナツメちゃんに白羽の矢が立つ。彼女はああ見えてインターハイ常連の陸上部員なのだから。それはそれとして、速さだけで乗り切れるようなものでもなさそうだ。単純に外周を一周すればいいというわけでもなく、反復横跳びのようにあちらこちらに走り回る必要がある。
「光の順番、覚えておかないとダメなんですよね……石井さん、どうにかできません?」
「ナツメちゃんの反射神経なら大丈夫だとは思うけど……ぼくの声に反応できる?」
「私は問題ないですけど、石井さんが指示出しと自分の動きを同時にこなせますか?」
「あー……リソースが足りないね。今、外部アクセスにリソース割いてるから」
「さすがにそれは続けてもらわなあかんやろ。……と、なると」
ぼくたちの視線がナツメちゃんの隣で同じように地面を見つめていた舞桜ちゃんに向かう。NPCである舞桜ちゃんならこういう場合のお助けキャラとして配置されている可能性の方が高い。問題があるとすれば、開発途中である舞桜ちゃんにその機能があるかどうか。この子に与えられているデータの解析ができない以上、祈るしかないわけだけど。
「データがなくても問題ないですよ。舞桜ちゃん、お願い聞いてくれますか?」
「お願い? いいよ! 何すればいい?」
快諾。非常にスムーズだった。システムではなく、思考に語りかける。つまり舞桜ちゃんにお願いするのは、緑が光った場所をナツメちゃんにそのまま伝えてもらうこと。システムとしての補助ではなく、人としてできる範囲でのお手伝い。それならデータを解析する必要なんてない。
「なるほど、盲点だった」
「後でデータベース更新しといてくださいね。データに頼るだけじゃなくて人力での攻略も時には有用だって」
「肝に銘じておくよ」
何はともあれ、これd目下の問題はクリアできた。それぞれが決められた位置に立って合図を待つ。どのタイミングで始めるかも舞桜ちゃんに任せるとのことだ。
「いくよー? よーい、スタート!」
舞桜ちゃんの声と共に全員が動き出す。
右、左、また右、今度は後ろ。五角形を形作るように配置されているパネルが光る度に何度か踏んでいく。踏んでいく、が。
「……ナツメさん、二個前です!」
「ぐあぁ……! すみません、また失敗しました」
「こればっかりはしゃーないな。石井とねねんさんは体力大丈夫か?」
「なん、とか……」
「二人はちょっと休憩しててください。……少しでも、覚えます」
ナツメちゃんのパートが異常に難しい。開発途中なこともあって難易度設定が調整中、といったほどに難しい。
舞桜ちゃんと二人でタンタン、タン、と口に出して軽やかにステップを踏みながら復習している様子を眺めてぼくもどうにかできないか考えてみる。とはいえ、管理AIとはいえ、開発には携わっていないしこのエリアのデータにアクセスできないから地形を変えるだのシステムに干渉はできない。つくづく、無能な管理AIだ。
ぼくら自身も復習しながら、二人の復習はどうなっているのかとカルハスくん、ねねんさんと耳を傾けてみる。
「……こことここ、ぴょーんって行けないかな?」
「ぴょーん、って行っても次がぴょーーん、なんですよねぇ」
「じゃあここはたっ、って行ってちょん、でぴょんだよ」
「ならここはすってしてくるって、ぴょーんですか」
……擬音と擬音のオンパレードだった。
「……何の話やアレ」
「感覚、派の……陽キャの会話だ……」
「陽キャかどうかは別の話じゃないですかね」
何とかまとまったのか、ナツメちゃんがぐっと伸びをして準備運動。どうやら話がまとまったらしい。
「なんとか覚えました! とはいっても動き方が怪しいのは怪しいので、舞桜ちゃんのサポートは引き続き」
「お任せください!」
覚悟のこもった目。力強い言葉。なら後は、この子たちを信じて進めるしかない。
ぼくたちはもう一度、位置についた。




