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「大変そうだな、サユ」
あたしを“サユ”そう呼ぶのは彼しかいない。彼、ユズルくん。
「あ、ユズルくん、おはよう」
「おう」
ユズルくんはニッと笑った。
「チョコ、かぁ」
ため息交じりにあたしは呟いた。
「はえぇな。もうそんな時期か」
どーりで、さみぃわけだ。
青のチェックのマフラーに顔を埋めながらユズルくんは言った。
「ユズルくん」
「ん?」
「カイロ、使う?」
ポケットからゴソゴソとカイロを出して笑った。
「いいのか? ラッキー」
ユズルくんの笑みにつられるように笑った。
それが二日前の出来事。
やっぱり送れないメール。当たり前だけど、ユズルくんからメールがくるわけでもない。
もやもやとしたままのバレンタイン前日。
今日は、頑張って、ガトーショコラ作るんだ。
胸に秘めている思いは口には出せない。
これは、アイちゃんに全部いきそうだな。
臆病風に吹かれてそんなことを思った。それでも。もしかしたら。そんな思いが浮かぶ。
もしかしたら、明日渡すチャンスがあるかも、しれない。
もしかしたら、そんな希望にもにた思いを胸に秘めていた。