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報連相は大事だ。
これを怠ると、状況が悪い方へ転がることもある。だからこそアレクシアは屋敷に帰ってすぐに、サヴェリオとレイモンドを呼び出し向かい合って座った。
ものすごく気が重いが、今後のこともあるのですぐに伝えるべきだ。
「どうしたんだ? 改まって」
「神殿に遊びに行って、何かあったのか?」
行き先と目的を告げていったが、遊びに行ったことにされている。神殿の重要な聖遺物に対してその表現は間違っていないだろうかと一瞬呆れたが、なんら間違っていないことにアレクシアは気づいた。
「お父様、お兄様、どうやら聖女に認定されてしまったようです」
「は!?」
「なんだと!」
「興味本位で、うっかり水晶に触ってしまい光ってしまったんです」
本当のことは言えないので、適当にごまかしておく。
帰りの馬車で元凶に何度呼びかけても、返ってくるのは沈黙だった。
「……神殿を潰せばいいのか」
「そうですね父上」
「え」
(なんでそうなる!?)
「シアが聖女なのは納得できる。神は見る目があると言わざるを得ないが、私の大切な娘であるシアを神殿が奪うというのなら全面戦争だ」
「そうですね。シアを聖女としたのは褒め称えることですが、我が家から奪わせるわけにはいきません。とりあえず教皇を人質に取りますか?」
サヴェリオは今すぐにでも騎士団を率いて神殿に乗り込みそうだし、レイモンドの言うとりあえずがとりあえずではなく物騒だ。
(そうだ、こういう人たちだった)
わかっていたはずなのに、アレクシアの予想よりも過激だった。
「まず、シアは隣国のスペンサー家に逃がしますか?」
「環境が整うまでそれがいいかもしれないな。無駄に権力を持っている王家が横やりを入れてこないとも限らない。せっかく王太子妃候補から辞退したのに今更媚びへつらってくるなど許せん」
「待ってください! 私は神殿に入りませんわ」
「わかっている。シアの自由を奪わせるわけにはいかない」
キリッと言い切るサヴェリオが頼もしい。
「そうではなくて、神殿ときちんと交渉してきました。お父様とお兄様のそばを離れるなんて冗談じゃありませんもの」
二人が感極まったような表情でアレクシアを見つめる。
「それで、今後のことについて打ち合わせをしようかと」
「そうだな」
「聖女なんて肩書きを押しつけられ、シアを狙う者が更に増えるなど遺憾だ」
「私は聖女として立ちたくありません」
本当に聖女なのかも怪しい。
聖剣であるフェルナンドを常に身に着けていたせいで、魔力の質が変化したのではないかと馬車の中で話していた。水晶の力は一切受け取っていない。すべてフェルナンドの元へと渡った。
「口止めはしてきましたが、慌ただしくしていたのを目撃している者がいないとは限りません」
ロシェット家のお嬢様で訪れているので、目立っていたはずだ。
「口を封じればいい」
「父上、すぐにでも処理しましょう」
悪い顔をする二人に、だから物騒すぎると心の中で突っ込みを入れる。穏便な案を出したアレクシアに、神殿には感謝してほしかった。
「処理も手間なので、聖女の代理を出そうと思います」
「代理?」
ふむ、とサヴェリオが目で続きを促す。
「筋書きとしては、私がつれて行った使用人が聖女だった。ロシェット家が後ろ盾になって庇護していた者だった、でどうでしょうか」
「おかしくはないな。いい案だ」
サヴェリオに合格点をもらえ、アレクシアは微笑む。
「神殿には話し、了承は得ましたわ」
「代理はどうするんだ」
レイモンドの疑問ももっともだ。
多くの人を謀ることになる。ロシェット家の弱みになる可能性もあった。
「マリッサ、呼んできてもらえる?」
「はい」
しばらくすると、マリッサが一人のメイドを連れて戻ってくる。
「お呼びですか、お嬢様」
「先ほど話した件をお父様たちにも提案したの」
「君か……」
納得したように、レイモンドがこぼす。
「引き受けてもらえるのか? リサ」
「はい」
頷いたサヴェリオが、リサへ確認を取った。
「私はもとよりアレクシア様に救われた命です。ロシェット家が庇護してくださったからこそ、今もこうして家族共々生きて生活できているのです。恩人の方々に報いることができるのでしたら、喜んで役割を全うします」
目をキラキラと輝かせて、リサは手を胸の前で組んでいる。まるで祈りを捧げる信者だ。
操られていたとはいえ、公爵令嬢を陥れようとした平民であるリサは、家族もろとも厳罰に処される。この世界は、それだけ身分は重い。
被害に遭ったのはアレクシアなので、ロシェット家預かりにして処罰の権限をサヴェリオがうまくもらってきてくれた。
学園をひっそりと去ったリサは、ロシェット家で働いてもらっている。貴族ではないので侍女にはなれないが、聖力が使えるので騎士団で重宝されていた。
自我を取り戻し、すべてを知ったリサは処刑を覚悟していたらしい。それがロシェット家の温情で処刑を免れたどころか働けることになり、アレクシアに忠誠を誓っていた。
「無理はしなくていいの。あなたは聖力があるのだし、時折民に癒やしを与え、聖女として過ごしてくれれば」
「いえ、アレクシア様から目をそらすため、完璧に演じきってみせます」
強い心意気、意気込みを感じる。そこまでしなくても、と思うアレクシアとは違いサヴェリオとレイモンドは感銘を受けていた。
「頼もしいな」
「アレクシア様のためですので」
きっぱりと言い切るリサは、サヴェリオとレイモンドに通ずるものがある。送り出すときは、無理しないように言い聞かせようとアレクシアは決めて、話を戻すことにした。
「聖女の肩書きがあれば、今後はリサも家族も肩身の狭い思いをせずにすみます。聖女として得られる報償はすべて渡すつもりです」
アレクシアは今でも充分贅沢な暮らしをしているし、名誉など欲しいとは思えない、むしろ面倒事が付随するようなものは受け取り断固拒否だ。
けれど平民としては生涯安泰だ。
リサの両親も善良で、私利私欲で動く人たちではない。娘のやったことを知り、地に頭をつけ心から謝罪し、温情に感謝していた。
「王家から聖女へ婚姻の打診があるかもしれませんが、聖女の意思が尊重されます。私は神に仕えていきたいのでお断りします、でいいか」
平民育ちだと、王太子妃どころか将来は王妃など重荷でしかない。
なりたがるのは、頭がお花畑の物語のヒロインだ。
「さすがシアだ!」
「ええ、父上。完璧ですね」
二人に褒められ、アレクシアの案が採用されることになる。
「では私が明日にでも神殿に赴いて、打ち合わせしてくるとしよう」
「お父様自らですか」
「当然だ、約束を反故になどさせない。更に確固たるものにしてくるから安心しろ」
「ありがとうございます! お父様」
一応解決かな? と、アレクシアは肩の力を抜いた。




