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予約投稿にしてると思ってました…
更新遅くなりすみません
硬質感が指先に触れる。先ほどのような輝きは見せなかったが、温かみのある淡い光がこぼれた。
ブレスレットは外している。反応を見せることに戸惑い、アレクシアが教皇へ視線を送ると、表情を綻ばせて軽く頷く。
「聖女様のご誕生、心よりお祝い申し上げます」
跪く教皇に、アレクシアは思考が一瞬停止する。ぱた、ぱた、と瞬きして、ぐるりと周囲を見回し、聖女であるヒロインを探すが当然いない。この場にいるわけがない。動き出した思考が、ある答えを導き出した。
(はあ?!)
教皇と、いつの間にか跪いている神官たちの視線がアレクシアへと注がれている。状況を踏まえ、誰に向かって言っているかは明かだった。
先ほど水晶が輝いた原因は、フェルナンドに指示されうっかり触れた結果だ。アレクシアに起因しない現象だ。今ほどの反応に関しては断言できないが、ある可能性は浮かぶ。
(元凶フェルでしょ!? やっぱり持ち帰るんじゃなかった)
どどっと後悔が押し寄せる。今夜は絶対にもふりの刑にしてやると、アレクシアは決意した。
その前に、この現状をどう打破するかだ。
神官たちから向けられる眼差しはもう、聖女に対するものだった。
「もしかしたら聖力があるのかもしれませんが、私が聖女であると決まったわけではないのでは?」
「いいえ。我々神官が持つ聖力は蒼白く反応するのですよ」
神官の一人が水晶に触れて見せてくれる。確かにアレクシアが触れたときと色味が違った。
「聖女様だけが持つ聖力の色なのです」
根拠を突きつけられる。何がどうしてそうなったのかは想像もできない。
夜にでもフェルナンドを問いただすとして、今のこの状況を本当にどうしてくれようかと途方に暮れる。
(ああ、ほんとにめんどくさい!)
不敬だと責められようが、率直な気持ちだ。
よし、とアレクシアは決意した。
「聖女、謹んでお断りします」
遠回しな言い方をせず、直球ではっきりきっぱりアレクシアは己の意思を伝える。ぽかんとした神官たちの顔を見て、なぜそんなに驚くのかわからなかった。
聖女の肩書きなど、面倒事が付随するだけでメリットなどわずかも見いだせない。拒否一択だ。
「聖女は尊い身分であり、神殿に属するものです」
「ええ、神殿の象徴です」
教皇の傍らに控えていた神官が声を上げる。ちらりと、アレクシアは視線を投げた。
「それがどうかなさいまして?」
反論されるなど想像もしていなかったようで、神官はぐっと言葉に詰まる。
象徴は象徴でしかない。
「尊い身分だという聖女でいいことがあるんです? 私公爵家の一人娘なので、大抵の方は傅きますが」
神殿だって、寄付金を積んでいるロシェット家にいい顔をしている。まだ一般公開前の水晶を見せてくれてもいた。
「聖女は神殿に所属するのが習わしだ」
「それは平民、もしくは下位貴族の者が聖女として覚醒した場合、権力のある者に利用されないために神殿が保護する習わしでは?」
だからこそ、聖女が現れると王族と婚姻を結ぶことが多い。
ジェフリーに一途だったアレクシアは、ぽっと出の聖女に奪われないため、過去文献含めて念には念を入れて調査済みだ。抜かりはない。
(まさか黒歴史の執着心がここで役に立つとは思わなかった)
過去がそうだったからと、上辺しか知らない神官の主張など論破できる。アレクシアは権力が身近な者が持つ威厳ある、優雅な笑みを浮かべた。
「重ねてになりますが、私は公爵家の者です。前騎士団長で公爵位を持つ父は存命ですし、兄もいます。最強と名高い専属の護衛がいて、騎士団がある我が家の方が安全であり、神殿に保護してもらう必要など一切ありません」
生活環境も間違いなく雲泥の差だ。
公爵家の贅沢な暮らしを自ら手放すなど、絶対にしたくない。
「ですから、保護をしてもらう代わりの無償労働も、当然いたしません。私、自分の時間を奪われるのが一番嫌いなんです」
まだまだ読み終えていない本が多くある。観劇も楽しみたい。
野菜のスイーツ店も経営しなければいけなかった。神殿に仕えるなど絶対にお断り案件だ。
「対価をいただけるなら考えてもいいですが……私の時間はとても貴重で高価ですが、神殿に払えまして?」
「金を取るのか」
先ほどまでは丁寧な対応だった神官が、声を荒らげる。小娘一人、どうとでもなると高をくくっていたようだ。
「寄付金を集めるための広告塔にしようと目論む方々には言われたくありません」
聖女の畏敬訪問など、ただの人気取りでしかない。神殿への寄付金を募る客寄せパンダだ。
なぜそんな鬱陶しい行事に無償で参加しなければいけない。苦労して集めるよりも、アレクシアのポケットマネーから出した方が早かった。
出さないけども。
神殿が健全で、寄付金を渡すのに値する組織ならば慈善事業の一環として、ロシェット家が神殿に渡している分に個人資産から上乗せしてもいい。
実際は帝国でもそうであったのように、一部の神官の懐に入るだけだ。
「だいたい、私が奉仕の精神で生きるような聖女の任につくように見えまして?」
神官達を睥睨しながら、ゴージャスな容姿のままにしておいてよかったとアレクシアは安堵する。高飛車な台詞が似合い、違和感がない。
「見えないな……」
肯定されれば、それはそれで面白くはない。
「ちなみに、私を神殿に無理やり留めようなどとお考えでしたらやめた方が得策でしてよ?」
心からのアドバイスだ。
「私が帰らないとなれば、父と兄が我が家の騎士団を引き連れて参りますわ」
エリックに加え、アレクシアも本気を出せば神官程度は余裕で床に沈めることができる。ただ最終手段なので今はまだ使わない。そうなった場合の後始末が面倒くさかった。
神殿が機能しなくなったら、それはそれで大変だ。できれば穏便に解決したい。
「私、やりがい搾取には断固抗いますので」
資産も潤沢で、華やかな生活を送っている。神殿の質素な生活など受け入れるわけがない。
以前のアレクシアだったら、王太子ジェフリーとの婚姻を餌に聖女として立たせることができたのかもしれないが、今はまったく興味がなかった。
前途多難、周囲の人の顔にはそう書いてあるのが見えるようだった。
だが、知ったことではないとアレクシアは聖女を断固拒否の意向を覆す気はない。聖女になるくらいなら、悪役令嬢の方が好ましい役割だった。
(てか、なんで悪役令嬢が聖女にジョブチェンジなわけ? ほんと意味わかんないんだけどー!)
「愛国心はないのか!」
はあ、とため息をつきたくなる。権力に近い者は往々にして横柄だ。
反射的になにそれ美味しいの? と返したくなる。
「神殿に仕えることと愛国心、どう関係がありまして?」
「聖樹の浄化ができなければ、魔が復活して国が滅ぶだろう!」
「浄化するのに、神殿に仕える必要があるのですか?」
騒いでいた神官から、反論の言葉はない。
傲慢な者をやりこめた時の快感がアレクシアはあった。
「現実を見ていただいたところで、私から妥協案を提示しましょうか」
大切な家族が住む国が滅んでほしいわけではないので、アレクシアは譲歩する。高位貴族に名を連ねている責もあった。
面倒な雑事――主に神殿上層部の思惑に煩わされないのならば、聖樹を浄化するため聖力を注ぐくらいの仕事はする。本来聖女の力が必須なのはその程度のはずだ。
「小娘の戯れ言と最初から受け入れる気がないようでしたら、私は今すぐ、即座に公爵邸へと帰ります」
宣言して反応を待つが、誰一人、異議を唱えない。
表情は様々だが、アレクシアからの提案を待っていた。
「聖女でしか担えないことは請け負いますわ。神殿に対して多少ささやかな我侭を言う場合もあるでしょうが、運営が立ちゆかなくなるほどの対価を、とは申しません」
金銭はいらないけど貸しだよ、とやんわりと伝える。使える手駒は増やしておく。
「対外的に聖女、が必要でしたら代理を立てましょう」
「そんなことができると思っているのか」
「ええ、神殿は聖女で人気取りがしたいだけでしょう?」
違いますか? とアレクシアは視線を流す。聖樹を浄化して魔の封印を強める以外は、神官でもできることばかりだ。
「詐欺の片棒を担げというのか」
「詐欺を働かなければいいのでは?」
聖女として笑顔を振りまくだけなら、人々が勝手にありがたがるだけだ。
聖女が何かしらをするから対価をとなれば、相手を謀っていることになる。本来の目的が達成できるのならば、聖女の存在を公にする必要さえなかった。
「王家をも謀るのか?」
「まあ、人聞きの悪い。聖女が誕生したとします。恥ずかしがり屋で人前に出るのは無理、となれば代理人を立てるのもおかしなことではないでしょう?」
誰が恥ずかしがり屋だと、全員一致の心の声が聞こえるが無視だ。
「私の方に、口が堅く絶対に裏切らない聖女代理の宛がありますので、その点もご心配なく」
ゆるりと笑んで告げれば、神官たちが顔を見合わせる。最終決定を促すように、教皇へ視線を送った。
「聖女様の意思が我々には重要だ。望むとおりにしよう」
「交渉成立ですね。この場にいらっしゃる方、決してこのことは口外されぬようお願い申し上げます。父と兄の怒りを買うようなことはされないとは思いますが」
クギを刺して、約束をうやむやにして裏切られないように魔法契約を提案する。ロシェット家からの寄付金、父兄からの報復を思えば、神殿側は了承する以外の返事はできなかった。




