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ノドの地  作者: 音切萌樹
第二章.変わらぬ日常
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30.大掃除

 バートンファミリーには七人の幹部がいる。

それぞれが色欲、悪食、傲慢、嫉妬、怠惰、強欲、憤怒の七つの名を持ち、当代のボスが直々に選んだ者たちのことである。

次代によって空席はあるものの、どの時代も変わり者が多かったと語られている。


 そんなバートンの屋敷が何やら騒がしくなっていた。


「はいはい、皆さん集まってください。そしてそれぞれ道具をお持ちください」


 パンパンと手を叩きながら一人の青年がエントランスホールの中心で声を上げる。

ぞろぞろと集まってきた人の山からカルマが一歩前に出て青年に笑いかける。


「キリュウちゃ~ん、これ、なに?」

「なにって、掃除道具ですが?」

「いやそういう事じゃなくて……」

「ユダから全部屋の大掃除の命を受けました。本日は全員が休日という事ですし大掃除の日とします」


 キリュウと呼ばれた青年はそう言い切るといたるところから不満の声が上がった。

せっかくの休日が、休みたい、寝て居たい、など様々だが総じて「掃除はし(はたらき)たくない」という事だ。

 キリュウは大きく息を吸い込むと「だまらっしゃい!」と叱りつけた。


「仕事を進めるのはとてもいいことです。ですが掃除をしないという事はそこから犯罪につながるのです!お分かりですか?だから今日は掃除をします!主に!!ロキ様の居住区となっている情報処理室!以前から獣臭いと苦情が上がっているんです!」

「あ、じゃあ俺らはいらないねぇ~部屋に戻るよ~」


 我先にと逃げようとするカルマに「駄目です」と言い捨てる。


「カルマ様の御部屋は普段からキレイだとは聞いていますが細かな掃除のために最後にお伺いいたします。まずは……」


 ぐるりと周囲を見渡し、一人の人物を見つけるとそこに目を止める。


「クロナ様の御部屋からお伺いいたします」

「ひぇっ!わ、私のお部屋ですか!?」

「なにかお困りですか?」

「ちょ、ちょっとだけ待ってください!し、私物が散乱しているので自分で片づけたいんです!!」


 顔を真っ赤にしながらアワアワとするクロナにキリュウはため息をつきながら言いだしに了承を伝えると、クロナは挨拶もそこそこに自室へと走っていった。


「さて……それではバルドル様の部屋からお伺いします」

「おう。俺の部屋か、構わねえぞ」


 バルドルの返答に満足したように頷くとその場においてあった掃除道具を持って共にバルドルの部屋に向かう。屋敷内に部屋があるものは自室の掃除に走り出し、持っていない者は屋敷内の掃除を始めた。

二階に上がり、バルドルの部屋へ向かう。部屋の前で本人に許可を得てから扉を開ければ、部屋の中は適度に片付いており、気になるところは出しっぱなしになってしまっている筋トレ道具ぐらいだろう。

 一通り部屋の中を見回してキリュウは大きくうなずいた。


「掃除の必要なし。ご自身で細かなところをお願いいたします」

「普段からエイラもうるせえからな……定期的に掃除してて助かったぜ……」

「それでは次は……二つ隣のルーファさんのところにいきます」


 少量の掃除道具とユダ直属の部下を残して次の部屋へ向かう。掃除の必要がないと言われたためか、バルドルもそのまま同行するようだ。

全員で部屋を出て、バルドルの部屋から右に二つ隣に向かう。二つとなりはルーファの部屋だ。

広間で掃除をすると宣言したときに真っ先に部屋に向かっていたから先に掃除を始めているであろうとルーファの部屋の前で立ち止まり、ノックをすると少しの間の後に中から返事が聞こえたため「失礼します」と一声かけてキリュウはゆっくりと扉を開けた。


「こ、これは……」


 部屋の扉を開けると目の前には様々な薬品棚が広がっていた。

一目でわかる危険度にキリュウはそっと扉を閉めた。


「次にいきましょう」


 あまりにも素人が手を出すには危険すぎる。ルーファには自身で掃除をするように伝え、次の部屋へ向かう。次は地下にある情報処理室だ。この部屋はロキが私室と言っても過言でもないくらい入り浸っている。そのためこの部屋も私室と判断し、掃除に向かうのだ。


 地下に降りてすぐ何か異様な臭いを全員が感じ取った。生臭いような半乾きの臭いのような、奇妙な臭いだ。これが獣臭いと皆苦情を漏らしていたらしい。


「この臭いは……ちょっとひどいな」


 ずっとついてきていたカルマが思わず鼻を覆った。獣臭いと入っていたがここまで獣臭いとは思っていなかったのだ。


「さて、探しますよ……」


 情報処理室の扉をノックしてから部屋の中に入る。元々返事を待っていても返ってくる可能性は低いことは全員が理解しているからだ。

 部屋の中に入るとより獣臭さが増した。おそらく匂いの元凶はここにいるのだろう。


「ロキさん、いらっしゃいますか?この獣臭さについて質問があります。早々に姿を見せてください」


 キリュウが扉の近くから掃除をはじめ、奥に向かって声をかける。返事はもちろんない。

ため息をつきながら着いてきた人間に清掃を始めるように声をかけようとした瞬間、キリュウの足に何かがぶつかった。なにかと足元を見れば無邪気な瞳をこちらに向ける小汚い毛の塊がこちらを見ていた。


「ひっ!?っ」

「だ、だめだよヨル、そっちに行っちゃ……あっ」


 慌てて駆け出してきたロキが全員の目線に思わず固まった。微動だにしないかと思えば、ゆっくりと毛の塊を拾い上げると、脱兎のごとく奥へと逃げた。

 あまりの行動の素早さに全員があっけにとられすぐには動けなかった。

しばらく全員が動かずにいたがハッとキリュウが現実に意識を戻した。


「ま、待ちなさい!ロキさん!その毛の塊をこちらに引き渡しなさい!」


 そこからはもうしっちゃかめっちゃかだ。ヨルと呼ばれた毛の塊を奪われないよう両手で抱き抱えて逃げ惑うロキとそれを般若のような形相で追いかけ回すキリュウ。はたから見たら弱いものいじめである。


 情報収集に使うPCやサーバーがここには山のようにある。普段から居座っているロキはいいにしろあまりこの部屋に出入りしないキリュウはとても追いずらそうにしていた。


 追いかけても追いかけてもキリュウがロキに追い付けない現状を見て大きくため息をつくとちょうど目の前を通り抜けようとしたロキの首根っこをバルドルがひょいとつかみあげた。

 見た目は、どうやっても子獅子を運ぶ親獅子の図である。


「ちょ、やめ、バルドル離して!」

「おーおー元気なこった。ロキ、お前はこの部屋に入り浸ってるから分からねえかも知れねえがこの部屋もお前もヨルもめちゃくちゃ臭ぇぞ」

「えっ」

「ボスにバレて茶化される前に風呂行った方がいいんじゃねえか?」


 バルドルに言われ、ようやくロキは自身の衣服から漂う獣臭に気づいたようで辺りをクンクンと臭いを嗅いでは徐々に眉をしかめていった。

その様子を見ながらバルドルはゲラゲラと笑うとロキを地面に下ろした。


「その様子だと理解できたか?おら、なら風呂いくぞ。お前が風呂入ってる間にヨルもきれいにしてやるからよ」

「すごく不安、だけど……お願い、バルドル」


 先程とは打って変わっておとなしくなったロキは少し口を尖らせると抱き抱えていた毛の塊(ヨル)をバルドルに渡し、自身は屋敷の浴場へと向かっていった。


「キリュウ。俺はこいつを風呂にいれてやらなきゃ行けねえから一度戻る。ここの掃除頼んだぜ」

「かしこまりました。ロキさんのお世話、お願いします」


 深く頭を下げて挨拶を交わすと、キリュウは袖をまくった。

さて、大掃除の始まりだ。



  * * *



 あれから数時間。情報処理室は先程とは打って変わってとても綺麗になっていた。

床に散らばったごみはすべて回収し、ボロボロとデスク回りを中心に溢れていた食べ物カスもすべて回収し、捨てた。

サーバーの上やPCの上に積もりに積もっていた埃も資料棚の上も壁との隙間もすべてキリュウは片付けたのだ。ロキと同じ情報部の人間は「こんなにきれいな情報処理室を見るのは何時振りか」と溢していた。


 掃除が終わるのとほぼ同じ頃、ロキとバルドルが情報処理室に戻ってきた。

先程の汚れはきれいさっぱりと落ち、薄汚れていた髪も今は綺麗な淡黄檗色(うすきはだいろ)が光を反射し、輝いていた。

一緒に戻ってきたバルドルが腕に抱いていた毛の塊を床に下ろした。

綺麗にしてみればその毛の塊もただ汚れていただけだったらしく、洗ってみればとても綺麗な白い体だったようだ。


「大変だったんだぜ?洗っても洗っても水が黒くなるしこいつも暴れるしよ。なぁロキ」

「びっくりした……ヨルってばこんなに動けたんだ……」


 風呂に入っていた時のことを思い出したのかロキは少し疲れたような表情でヨルの頭を撫でた。

聞けばシャワーの音で大暴れ。水をかければ大暴れ。石鹸の香りに大暴れ。泡が立って大暴れなど事あるごとに暴れて大変だったそうだ。


 しばらく黙って聞いていたキリュウだったがヨルの大暴れ話を途中で遮ると、最後まで聞くことなくロキとバルドルの二人にねぎらいの言葉をかけた。

 しばらくワイワイと綺麗になったヨルを撫でまわしていた一行だったが不意にカルマがキリュウに声をかけた。


「ね~キリュウちゃん。ユダってどこ行ったの?」

「ユダですか?詳しくは俺も知りません。ただいつも『出張に行ってくる』とだけ言い残していなくなりますね」


 キリュウの応えにカルマは自然に笑みを返し、更に質問を重ねる。


「へぇ~ちなみになんだけど月にどれくらい?」

「月、ですか?それだとバラつきはありますが……大体、月に二、三度ですね」

「月に二、三度かぁ……」


 顎に手を当て数度頷く。

キリュウの言う通りユダを屋敷で姿を見ないときは出張に行っているのだろう。キリュウの証言とカルマの記憶は大体合致していた。

しばらく同じポーズのままで固まっていたからだろうか、キリュウが心配そうな顔で恐る恐るカルマに声をかけた。


「あの、ユダが何かしましたでしょうか?なんなら探し出してすぐ連れて帰りますが……」


 流石はユダの部下だとカルマは思わず拍手をしそうになった。

上司が上司なら部下も部下らしい。普通自分の上司が何かしたかと一番に疑わないだろう。

不安そうに見つめてくるキリュウを見ながらカルマはいつものように笑みを返した。


「んーや。たまぁに屋敷で姿を見ないから気になってたんだよね~アリガト、キリュウちゃん」


 同性ではあるが気にせず頭を撫でる。

撫でられ慣れていないのだろう。少しびくっとするとすぐに嬉しそうに顔を綻ばせた。

しばらく頭を撫で、スッと手を引くと名残惜しそうな目でキリュウがこちらをジッと見つめる。

カルマは少し勿体ないことをしたかもしれない、と思いつつもキリュウに手を振った。


「そんじゃキリュウちゃん、俺部屋戻るね~」


 片付けないとキリュウちゃんに怒られちゃう。などと軽口を言いながら情報処理室を後にした。

背後からキリュウの後で向かいます、という声や綺麗になったヨルと戯れるロキたちの声が聞こえていたがカルマはその一切を耳に入れていなかった。


 早足で階段を上がり、自室へと向かう。途中、何人も部下とすれ違うもその誰もがカルマを見て後ずさった。それほど顔が酷いのだろうという事に気づいてカルマは自嘲気味に一人笑った。


「あいつは昔から何かと変な奴だったけど、俺に無断でいなくなることは出会ってこの方、一回もなかったんだけどな……」


 一人呟き、すぐさま自室へ滑り込むと誰も入ってこれないように鍵をかける。

ズカズカとデスクに向かい、締め切りや日時が前後することなどお構いなしに過去の書類を探すために引き出しをすべてひっくり返した。


 一瞬、頭をよぎったなにか。

それがただの杞憂であってほしい。

そう願って。

中の人、いろいろと忙しくなってきたため、もしかしたら更新頻度が落ちる可能性があります。

申し訳ありません⊂⌒~⊃。Д。)⊃

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