28.「おやすみ、俺の天使」
カルマの元にやってきたクロナは手に持っていた一枚の書類を差し出しながら声を上げた。
「カルマさん!最終処理まで進んでいたランクBの書類改変が判明しました!最近バートンの傘下に入ったファミリーです!」
クロナが報告をするとさきほどまでの柔らかい雰囲気はどこに行ったのかというくらいカルマの表情が歪んだ。
「はぁ!?担当は何してたんだ!!」
「先ほどルニさんが確認して担当を別室に隔離しています!そのファミリーから上がってきた財務処理担当が水増ししたようです!」
ルニが見つけた異変を確認すればすぐに原因が判明した。最近バートンの傘下に入ったファミリーがごく一部の構成員の給金を水増ししていたのだ。
バートンの給金はそれぞれのランクで決まる。入ったばかりの構成員はCランク。ある程度仕事を任せてもらえるようになればBランク。役持ちになればAランク。カルマたちのように幹部となればSランクとなっている。
財務処理担当が水増しした。そう告げたクロナの言葉が真実なのであれば、ある程度バートンに奉公し、信頼を得てきたという事だ。だが、カルマの前でバートンも他のファミリーも関係はない。
「ほぉ、このカルマ様の目の間でそんなことやりやがったのか。てめえら!しっかり作業しとけよ!この場はルニ・モンターニュとイルメナ・コーヴェルジュ。クロナのところのサラ・マルファンとメディナ・マルファンに任すぞ!俺が処理すべきものは机の上にいつも通りにあげとけ!」
「了解しました!!」
様々なところから同じように声が上がる。カルマは自身の椅子に引っ掻けていたジャケットを手に取ると、クロナを呼び共に部屋を出た。
クロナとカルマの二人が給金室に戻ってこれたのはすでに日付を超えた後だった。
あの後、ルーファを呼び出し隣の部屋に拘束していた担当者を締め上げた。どうやら他にも共犯者がいたらしくその人間を随時連れてきていたらいつの間にかこんな時間になってしまっていた。
「はぁ……ごめんねぇクロナ。こんな時間までつき合わせちゃってさ~」
「い、いえ!むしろカルマ様の御手を煩わせてしまってごめんなさい……」
「いやいや、俺としてはクロナが気づいてくれて助かったよ~あのままだと数十万程度じゃすまなかったからねぇ~」
ヘラヘラといつもの様子で笑うカルマだったがまたすぐにため息をついた。尋問という慣れない事をしてきたおかげで無駄に疲れてしまった。すでに日付を越している今、給金日は本日である。処理を頼んだ書類の量は莫大なものとなっているだろう。自分とカルマの二人だけでどれだけ処理できるだろうかとクロナは頭を抱えそうになった。
ため息をつきそうになるのを何とかこらえ、給金室の扉を開くとそこには財務処理担当の人間が全員そろっていた。その光景に珍しくカルマが驚いた表情を浮かべていた。
「な、お前らなにやってんのぉ……」
「カルマ様があたしらに任せるっていうんで他の書類の再計算とランクごとへの書類の分配、あとはもうカルマ様とクロナ様に確認とサインしてもらうだけまでにしてますよ」
「ルニさん!?それは時間外業務です!」
クロナの言葉にルニはウィンクで返す。
「もちろん、時間外業務になりますのでその分の財務管理担当の給金は上乗せさせていただいてまっす」
「どのくらいだ?」
「残業二時間分だけです。二時間ですべて終わらせられましたので。そのあとは皆ここでお茶していただけでーす」
楽しそうに話すルニにクロナとカルマはため息が出た。
残業二時間と本人たちは言うが、カルマもクロナも本来なら残業させるように仕事は組んでいない。それぞれのノルマだけならば時間内にすべて終わるはずだ。それでも残業出に時間つかったという事は明らかにクロナとカルマがやるべきノルマまでこなしたということになる。
もちろん、クロナもカルマも他の人員の倍以上のノルマを自身に課している。そう簡単に割り振って終わるものではない。
「つまりあれか、お前らは自分の給金のために残業したと?」
「そういうことです」
「俺らの仕事を奪ってまでか?」
「だって二人ともこの後私らが処理した書類片付けなきゃでしょ?それに追加でノルマまでやってたら私らの給金支給が遅くなっちゃう!」
「お札数えるのは好きだし、みんな気にしてない」
次々と言葉を返すルニ達にカルマは再度大きくため息をついた。
「お前らはどうやっても頭に金しかねえなぁ……ほら、俺とクロナの残った書類を処理する。その整理頼むぜ。手伝ってくれんなら臨時ボーナスは俺のポケットマネーから出す」
「あ、か、カルマさん!わ、わたしのポケットマネーも使ってください!」
「んー、俺の想像を超えたら少し、助けてねクロナ?」
「は、はい!!」
全員が一丸となって残った書類の山を処理していく。
気が付けば朝日が昇っていたが、他の部署の人間が起きる前に全ての書類の処理が完了していた。
「おう、全員ご苦労様……後日、全員分臨時ボーナス出すから楽しみにしておけ……以上、部屋に戻って寝ろ。命令」
「了解、です……おやすみ、なさい」
次々と就寝の挨拶を残して給金室を後にする。全員が部屋を後にしたのを確認するとカルマは大きく腕を伸ばした。
「さすがに、ハードすぎない?俺死んじゃう~……って、あれ?クロナまだ戻ってないの?」
自身のデスクに顔を伏せ、一切動かないクロナを見てカルマは不思議そうに近寄ると顔を覗き込み、困ったように微笑んだ。
「……お疲れ様。Καληνύχτα, ο άγγελος μου」
クロナの頭を優しく一撫でしてそう言い残すと自身のジャケットをクロナにかけてカルマはその場を後にした。
目が覚めたクロナがカルマのジャケットに気づいて悲鳴を上げるまであと・・・・・・
読み方を何度も聞いて題名にしたのは良い思い出。




