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ノドの地  作者: 音切萌樹
第二章.変わらぬ日常
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26.きっと思いは通じてる

 オニキスが三度目の紅茶のお代わりをしたころ、ラピスが大きく伸びをした。それを見てオニキスも立ち上がりラピスに声をかけた。


「さて、ちょうどいいころ合いですね。ラピス、おわりましたか?」

「はい!おわりました!」


 さっと書類に目を通し、不備がないことを確認するとその書類をオニキス自身のデスクへと置いた。


「それじゃあ互いに半休にしますか。ラピスはどうするんですか?」


 不意な質問に動揺するもラピスは少し考えて「買い物とか、かな?」と答えた。

ラピスの答えにまるでその返答を知っていたようにオニキスは笑った。


「そうなんですね、楽しんできてください。そういえば最近街に新しい店ができたみたいですね、そこに行ってみるのはどうですか?ラピスの好きそうなお店だと思いますよ」

「えっと、その、オニキスさんは……」

 できることならばオニキスと共に出かけたい。そんな欲が出てしまった。

ラピスの問いかけにオニキスは残念そうに頭を下げた。


「私は用事があるのでこれから遠出します。帰れるのは……朝方、ですかね」

「あ、えっと……そうなん、ですね。っていうかそれ半休じゃなくて出張の間違いですよ!?」

「あれ?そうでしたっけ?いつもこうだからなんかわからなくなりますね」

「私、この半休終わったらオニキスさんの休暇申請見直しますね……」


 ざっと5年分位でいいだろうか。きっと、いや、絶対に彼はそれ以上前から誤って申請を出していたに違いないとラピスの中の何かがそう叫んでいた。



***



 オニキスの言う通り街に出たラピスだったが、買い物もそこそこに街の外へと出てきていた。

特に理由はないと言いたいが、ラピスにはどうしても行きたいところがあった。

 街の南部には山というには小さいが丘というには大きい「カルヴァリーの丘」と呼ばれる丘があり、そこには一つの墓が立っている。名も刻まれておらず、ただの石だと言われればそうだと納得するものだが、ラピスは確かにこれは墓だと認識していた。


 真っ赤に染まった夕陽が丘の上の墓を照らした。

ラピスはその墓の前に跪くと買ってきた花束を墓の前に供えた。


「こんばんわ、かな?あまり頻繁に来れなくてごめんなさい」


 ゆっくりと手を合わせ、墓に祈りをささげる。サワサワと柔らかく吹く風が周りの草木を揺らした。

しばらく祈り続け、ゆっくりと目を開ける。夕日がラピスの身体をも赤く染めあげていた。

 丘には誰もいなかった。だからだろうか。

無意識かもしれないが、そこで眠るみんなに声をかけたくなった。


「お久しぶり、でいいのかな?今も4人とも元気です」


 勿忘草が微かに揺れる。


「最近はバートンとトラグスで協力することがあって、ああ、きっと言わなくても分かってるかもしれないですね」

「ジェットもベリルもオニキスさんもみんなそれぞれができることを精いっぱいやってますよ」


  ローズマリーの香りが漂う。


「貴方たちが作り上げた平和をきっといや、絶対に私たちはまた繰り返す。ごめんなさい、多くの犠牲の上に立っていることはわかっていても、私たちの意思ではもう止める事が出来ないの」

「貴方たちもきっとそうだったんだよね?・・・・・・私もきっとあなたたちと同じところに行くわ。その時に許してくれなんて言わないし、許されたいとも思わない。だからお願い、覚えていて。私は全て終わるまで止まらない。だからいつかすべてが終わって再会出来る時が来たなら、その時は、一緒に抱き合ってくれるかしら?」


 ヒャクニチソウが返答を返す様に揺れた。

それはラピスの目の錯覚なのかもしれない。返事が返ってこないことなどわかってはいるが、ラピスは墓石に向かって笑いかけた。


「返事は、再会した時でいいわ。久しぶりに会った時に文句を言われないように私も頑張るから」


 花束の中のアスターの花びらが風に乗って空へと飛んだ。飛び去った花びらを見つめながらラピスはもう一度手を合わせた。


――また、いつか会えますように。そんな願いを込めて。


 気が付けば夕日はすでに半分以上沈んでおり、空には星々が輝き始めていた。もう帰ろう、そう思い、立ち上がろうとしたラピスの足元にいつの間にいたのか黒猫と白猫の夫婦がすり寄ってきた。

 見慣れない老猫の夫婦だ。きっとこの丘を住処にしていたのだろう。

 立ち上がりかけた足をもう一度折れば、警戒したのか黒猫が威嚇行動をとった。

どうやら、ラピスが知り合いではないと気づいたらしい。


「こんばんわ、みんなのお友達なの?そう警戒しなくていいわよ、私も、みんなのお友達、だから」


 声をかけ、ゆっくりと瞬きをしながら地面すれすれに手を出せば警戒しながらも黒猫が近づき、フンフンと匂いを嗅いだ。警戒は解けていないようだが、どうやらこの墓の関係者だと認識してくれたようだ。

ずっと警戒している黒猫を他所に、白猫は我が物顔でラピスの膝の上に飛び乗った。

 グルグルと喉を鳴らす白猫を心配して細い鳴き声を黒猫を見ながらラピスはクスリと笑った。

まるで、どこかで見たような光景だ。誰、とは言わないけれど。


「貴方たちもお世話になっていたのね。なら、一緒におしゃべりしましょ?彼らのことを」


 白猫と黒猫の背を撫でながらゆっくりと声をかける。

まだまだ夜は長い。言葉は通じなくてもきっと思いは通じている。


 そう、願ってる。

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