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ノドの地  作者: 音切萌樹
第二章.変わらぬ日常
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22.「いつか、お前のところにいくまで」

 脱兎のごとく逃げだした子供たちは口々にちゃんと数を数えてね、早く逃げろーなどとわーきゃー楽しそうに声を上げていた。すっかり子供たちの姿が見えなくなったころ、メリルは大きくため息をついた。


「まったく……あんたが焚きつけたから今日は鬼ごっこで遊ぶ羽目になったじゃないか」

「いいんじゃねえの?運動になるから太らねえぞ」

「あんたねぇ……まあいいわ。今日はオリヴィーンの命日、だもんね」


 メリルの言葉に思わずジェットは黙り込んだ。そんなジェットの様子が見えていないのかメリルはそのまま話続ける。


「オリヴィーンも災難だったわよね、持病持ちだからってここに捨てられて。運よくアンタが見つけたから良かったもののあのまま放置されてたら死んでたものね」

「……」

「けどあの子にとってどうするのが一番よかったのかしらね。結局持病が悪化して若くして死んでしまうだなんて。しかもその時の事件の相手があの」


 拳を握り締めたジェットが声を荒げようと顔を上げた瞬間、低い位置からドンと強い衝撃が身体を襲った。見てみれば待ち飽きたのか一番に駆けていった少年がジェットのほうを見上げていた。


「おにいちゃん!いつまで経っても探しに来てくれない!みんな待ってるよ!」

「あ、ああ……おーし、じゃあ兄ちゃんが追いかけに行くから先に逃げておけよー?十カウント終わったらすぐ捕まえるからなー?いーち、にー……」

「あ、ああ!ずるい!!まってまって!!!」


 十カウントをしてすぐに少年のことを追いかける。一度走り出せばすぐに教会は小さくなり、やがてそこにいたメリルの姿は見えなくなった。キャーキャー奇声をあげながら逃げ回る子供たちを捕まえながらも決してジェットは笑顔を絶やさなかった。


 純粋な瞳に怒りは見せてはいけないと思った。

純粋すぎる子供の瞳に度を過ぎる怒りや憎しみ、悲しみは見せてはいけない、そう思った。

そう思ったら自然とかつて義妹に向けていた時と同じように優しく接する事が出来た。そうしなければいけないと思った。


 この子たちは幸せに暮らさなければいけない。もう二度とオリヴィーンのような子供は出してはいけない。そう、思っている。



 * * *



 すっかり日が暮れた頃ようやくジェットは教会の前へと姿を現した。聞けば少年を追いかけてすぐに子供たちを全員捕まえたはいいが次から次へと遊びを変えて付き合わされたのだ。

――教会へやって来た当初よりやつれて見えるのは気のせいではあるまい。


「あらあら、あんたたちお兄ちゃんに遊んでもらったのかい?」

「おかあさん!めっちゃたのしかった!!」

「おにいちゃん、すごくたかい所までジャンプするの!マリアもやりたい!」

「いっかいもおにいちゃんに勝てなかった!おかあさん!どうすればいいの!!」


 メリルの問いに倍以上になって返ってくる返答にメリルは楽しかったんだね、よかったね、などと一つひとつ返答を返していく。

 ある程度子供たちをなだめるとメリルはジェットのほうにゆっくりと視線を戻した。

ジェットの目にはメリルがどことなしか申し訳なさそうにしているように見えた。


「ジェット、アンタいつでもいいんだからまた戻っておいで」

「……おー、また気が向いたらな」

「そうだ、今度はあの子つれてきなさいよ!えっと、あのじゃじゃ馬娘!」

「ベリルか?じゃじゃ馬なんて言ったらアイツ怒んぞ?」

「あら、じゃあそうならないようにアンタがなんとかしてね?」

「そんな横暴な……」


 テンポの良い会話に思わず互いに笑みが零れた。

いつか、どこかのタイミングでベリルを連れてこよう。

ベリルだけでなく、ファミリーのみんなを。自然にそう思えた。


「それじゃあメリルばあさん、俺行くわ」

「ああ、気を付けていっておいで!たまには連絡するんだよ!」

「はいはい、じゃあな」


 後ろ向きに手を振り、ジェットは一度も振り返ることもせずにその場をあとにした。

その後ろ姿をメリルはただ一心に見つめていた。



 * * *



 教会をあとにしたジェットはまた行く宛のないままただただふらふらと歩き続けた。

夕暮れですべてが紅く照らされる中、気がつけばジェットはまたオリヴィーンの元へとやって来ていた。


「あー……なんだぁ、お前が呼んだのか?オリビア」


 オリヴィーンの墓の前でそっと呟く。ふと見れば朝に来たときにはなかった花束と丁度ジェットの立っている地面が焦げ付いていた。


「花……誰か来てくれたのか、よかったなオリビア。んで、お前何したんだ?俺が何も持ってこなかったからって地面焦がして怒るのかぁ?ひでえなぁ」


 ケタケタと笑いながらオリヴィーンの名が刻まれた墓石を撫でる。

決して答えが返ってくることはないけれど、それでも語りかけずにはいられなかった。

 朝と同じようにオリヴィーンの墓の前に座り込み、たわいのないことを話始める。朝話した内容と被らないように今度は教会にいたメリルの話を。

子供が増えていた、一緒に遊んできた、メリルの力が年々弱まってきた等、本当にたわいのないことを。


 徐々に日が暮れてゆく。すでに日は沈みかけ、夜が始まろうとしていた。

ジェットは名残惜しそうにもう一度オリヴィーンの名を撫でた。


「オリビア。きっと俺これから忙しくなってあんまり来れないかもしれないけどよ、元気でやってるから。いつかお前のところに行くまで、見守っててくれよオリビア」


 ゆっくりと立ち上がり、オリヴィーンの元をあとにする。

その足取りはしっかりと屋敷の方に向かっており、ぶれることはなかった。

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