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ノドの地  作者: 音切萌樹
第二章.変わらぬ日常
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19.前線部隊の日常

続きは18時投稿

 突然だが、バートンの屋敷には様々な施設がある。

ロキをはじめとした情報収集班が籠る地下3階のPC室。

ルーファを中心に様々な薬品を管理している一階の薬品管理室など、言いだしたら切りがないが様々な専用室が作られている。

 地上三階、地下三階の全六階構造の屋敷の地下一階部分に大きな広間のようになっている部屋がある。

そこは訓練場と呼ばれており、任務のない前線部隊の人間がなまらない様に体を鍛える場所となっている。


 そんな訓練場に一人の青年が顔を出した。バルドル直属の部下、ザックレー・カルトランドだ。

その手には数枚の書類が握られており、キョロキョロと誰かを探しているようだった。


「ふむ、人の気配を感じたが……誰もいないな」

「あら、あんたバルドルのところの子じゃない?」


 背後から声をかけられ、ザックはとっさに銃を引き抜き突きつける。が、そこには誰もいない。

白昼夢でも見たのかと不審に思いながらも懐に銃を収め警戒を解いた瞬間、ゴツンと硬いものが後頭部に押し当てられた。


「はいざんね~んアタシの勝ち」


 よくよく聞けば、この声には聞き覚えがあった。本来ならば忘れるなどありえないはずのお人だとザックは軽く息を吐き出す。


「フェルナーダ様、お戯れもほどほどにお願いいたします」

「ええ~だって一人で訓練ってつまらないじゃない?それにアタシの存在に気づいてなさそうだったし」

「それは……確かに、気が抜けていなかったといえば嘘になります」

「冗談よ?真に受けないでね?ここ屋敷だし、緊急時じゃないから全然気を抜いてていいんだからね??」


 しょぼんとしながら反省しだすザックにエイラは慌てた。どうやらこの青年には冗談が通じないらしい。


『まったく、流石バルドルのところの子って感じね……』


 少し呆れながらも純粋なザックにエイラは思わず笑みが零れた。楽しそうに手首を回しながら数度鳴らし、ザックの肩を叩く。


「よし、ザックって言ったっけ?このままアタシと手合わせしなさい」

「ええ!?いや、あの、フェルナーダ様?俺、いや私まだ仕事が……」

「言い訳無用!行くわよ!!」

「ちょ、ええ!?!?」


 書類を置く間もなく飛びかかってくるエイラの拳を避けながらジャケットを脱ぎ、私物置き場となっている棚に書類と共に投げ置くと、エイラの相手をするために構えを取った。


 突き出された右手を左手ではじき、追撃として右手で掌底を打つ。だが、ザックが出した右手を掴みエイラが宙を舞う。空中で身を翻し、ザックの顔をめがけて蹴りつける。

寸でのところで足蹴りを躱し、少し距離を取る。


「エイラさん!ストップ!靴!危ないから靴脱がせて!」


 大声で叫びながら一度私物置き場のほうへ寄って靴を脱ぎだす。

エイラは素足、手には手合わせ用グローブを装着しているが対してザックは途中で脱ぎすてたもののスーツの上下に革靴。


 手合わせ中に誤って一撃でも直撃させてみろ。あとでバルザーク様(上司)半殺さ(おこら)れる!


 どうやらちゃんと手合わせするという意識が見れたのか、エイラは中心部へと戻り、軽く首や手首を回し始める。

 やはり、逃げることはできなさそうだ。

 

 革靴も靴下も脱ぎ、きちんと整えて私物置き場に置く。行儀は悪くなるが仕方がない、とズボンの中からシャツを引き出しネクタイを取り、ボタンを二つほど開ける。どうせこの後熱くなるのだ。多少の行儀の悪さには目を瞑っていただきたい。

 動きやすい服装になったところでエイラのほうへむかう。


「それじゃあ、お願いします。フェルナーダ様」

「あら、さっきみたいに呼んでいいのよ?エイラさんって」

「……いずれ門番以外を仕事とできるようになったら検討させていただきます」

「それって呼ぶ気ないってことじゃない。ショック」


 話しながらも組手の手は止まらない。右に左に次々と連撃を叩きこんでくるのを躱しつつ叩き落とす。

ただ受けているだけでは組手にならないだろうと徐々に打撃の回数を増やしてゆく。


「そういえば、どうしてフェルナーダ様は実働部隊なんですか?」

「ん?なんでってなんで?」

「フェルナーダ様、思った以上に様々な事が出来ますよね?事務処理もそうですし武器の整備もできる。なのになぜわざわざ一番死亡率の高い実働部隊にいるのかと思いまして」


 一瞬、エイラの表情が曇る。右の中断蹴りを受け流し、懐へ入るが、すぐに肘打ちを落とされけん制されたため距離を取る。心なしか、さきほどより打撃の重みが増した気がする。


「そんなのなんとなくよぉ。銃を撃つのは好きだし相手の血に濡れるのも悪くないって思ってる。それじゃ理由としては不足かしら?」

「いえ、そんなことは……ちょ、急所は反則でしょう!」


 ニコニコとしながら金的に向かって蹴りを突き出すエイラにザックが慌てたように距離を取る。どうやら質問が地雷だったようだ。自重しよう。

 慌てて違う会話に切り替えねば、とザックは慌てて再度質問をする。


「そ、そういえばバルドル様と仲が良いですよね!まるで夫婦みたいに!」

「な、なにいってんのよ!」


 アイツとはそんなんじゃない、と言いながらエイラの連撃がザックを襲う。何とかすべて受けきる。

……勘違いかもしれないがまた打撃の強さが上がった気がする。


「助けたり助けられたりはしたけどバルドルとはただの旧友!ボスが前線部隊を強化したいって言ったから知り合いのアタシに声をかけたってだけ!それを仲が良いからってふ、夫婦とか……戯言もいいかげんにしてよねっ!」

「す、すみませんフェルナーダ様!あまりにも仲が宜しい様なので直属の部下の中ではいつ一緒になるのかと話しております!!」


 その発言にエイラの攻撃がピタリと止まる。


「それ、バルドルのところだけ?」

「へ?」

「その、賭け、バルドルのところの子だけって聞いてるの」


 あまりの威圧に、ザックの声がひっくり返った。


「ひ、い、いえ!フェルナーダ様直属の者ともお話しております!」

「ふぅん……ザックくーん。ちょーっとお姉さんと詳しくお話ししようかー」


 『殴り合い』と書いてお話と読むのではないだろうか。とザックは一人遠い目をした。

どうやら、まだまだ開放してはくれなさそうだ。

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