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ノドの地  作者: 音切萌樹
第一章.バートンとトラグス
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10.侵入

 バートンとトラグスの領地から少し離れた場所、海がよく見える場所にヴィオレッタの領地はある。

自動車で飛ばせば三十分もかからないその場所は普段美しいリゾート地として栄えていたが今はどこかよどんで見えた。


「さて、ここからは別行動。バルドル、ジェット先走りは頼むわ。エイラとベリルはもう行動を開始して。私はここから総指揮をとるわ」

「あいよぉ」

「はぁい」

「足引っ張んないでね」

「誰が引っ張るかよ」


 互いに軽口を叩きながら車を出る。エイラとベリルは裏に、バルドルとジェットはそのまま表扉の前に立つ。目配せをし、表扉を叩く。


「バートンファミリーが幹部バルドル・バルザークだ。バートン領地より不審者がこちらの領地に向かったとの情報を得たため、こちらに馳せ参じた。ヴィオレッタファミリー党首への面会を希望する」

「同じくジェット・バロック。バートンファミリーからの要請を受け、馳せ参じた」


 二人の名乗りに扉の中にいる者が動揺したのが手に取るようにわかった。バートンファミリーの幹部が来たといくことがどういうことなのか感ずいているのだろう。あえて「聞こえなかったのかも知れないな」とジェットに声をかけ、再度扉に向かって声をかけるが、やはり返事はない。


「どーすんだよバルドルさん。誰も出てこねえぞ」

「どうすっかなぁ……基本壊せば誰か彼か出てくるとは思っているがそれは避けろと言われているしなぁ……」

「案外考えてるかと思ったらやっぱ見た目通りなんだな、バルドルさんって」


 変なところで感心しているジェットを他所にバルドルは再び扉をたたく。先ほどより大きな音が響くがやはり人は出てこない。


「ジェット、一つ相談がある」

「いいっすよー。任せます。俺、アタマわりぃんで」


 ヘラヘラと笑いながら返答を返すジェットにバルドルはニカッと悪い笑みを返す。

珍しく着ていたジャケットを脱ぎすて、持ってきていたトランクを開ける。

トランクの中にはバルドル特製の組み立て式の武器が所狭しと入っていた。バルドルはその一つを手に取ると手早く組み立て始める。


「ジェット、強硬手段に入るぞ。この扉をぶっ壊す」


 一体あの小さなトランクのどこに入っていたのだろうか。バルドルが組み立てたのは対戦車用兵器R.P.G。一般的にはロケットランチャーと呼ばれるものだ。


「バ、バルドルさん?確かに任せますって言ったけどこれは、その……これは後々報告書ものでは……?」

「心配すんな。これは、すべて、ヴィオレッタが、悪い!」


 言い終わるか終わらないかのタイミングでバルドルはR.P.Gの引き金を引いた。

低く重い音と共に目の前の扉が被弾する。

 ジェットは、後にこの時のことを「なんでバルドル(あの人)が『傲慢』の名を受けたのかが分かった気がする』と語っている。

 目の前の木っ端みじんとなった扉を見ながら満足そうに頷くとバルドルはジェットのほうを振り返り「ほら、行くぞ!」と笑いかけるとずかずかと屋敷の中へ進んで行った。

 その後姿を一人見つめながらジェットは無意識のうちに口が動いた。


「……俺いらなくねえ?」


 遠くで己を呼ぶ声にはっとしながら駆け足で屋敷内部に侵入する。中では突然の爆発音に動揺し、ヴィオレッタの面々がざわついている様子が手に取るようにわかった。ジェットは自身の武器である小型のナイフを構え、この後に待ち受けている『ほうこくしょ』の文字を頭に浮かべ一人ため息をついた。



 * * *

 


 一方、R.P.G.を扉に打ち込む少し前。はるか後方ではエイラとベリルが屋敷に侵入するために行動を始めていた。


「さて、と……ベリルはちょーっと後ろにいてね」

「ハイハイ、合図は任せたわ」


 何度か咳払いをし、声のトーンを整えるとエイラは裏扉を控えめに叩く。

 トン、トトン、トトトン、トン。合図を送るように扉を叩くと少しして、中から声がかかった。


「だれだ」

「ヴィオレッタ様へお仕えしておりましたエラと申します。先日でお暇をいただきましたが、至急ヴィオレッタ様のお耳に入れたいことがございますため、再度お伺いさせていただきました。裏扉を開けてはくださいませんでしょうか」

「……今ヴィオレッタ様は忙しい。内容を話せ」

「御本人様にでなければ話せません。扉をお開けください」

「……全てでなくてよい、なんと言えば通じる?」


 どうにもお堅い門番だ。エイラは少し黙り混むと、何か閃いたようにニヤリと笑う。


「……では、『お好みの花を売る花売りを見つけました』と。それと『お好みの花は、ジギタリスでお間違いないですか?』とお伝えください」


 エイラの言葉に門番が動揺したことがわかった。これは失敗したか……?その考えが頭を駆け抜け、ベリルのほうに一瞬目をやる。ベリルはすでに侵入準備を終え、いつでも動き出せるように少し先の外壁に足をかけている。

 侵入部隊はシンプルすぎる作戦だった。まず、元々侵入していたエイラが平和的侵入を試みる。それが失敗すれば強行手段に出る。それ以外は考えていない。あとは野となれ山となれ作戦だ。もちろん、平和に侵入できれば殺傷は最低限にできるため、平和的に終わらせたいのが本音だが。

 そろそろ待っても無駄だと思い始めた頃、扉の中から声がかかった。


「エラ・ナーダ。ヴィオレッタ様より許可が下りた。今扉を開ける。一人で、間違いないな?」

「ええ、一人でございます」


 返答が帰ってきた。瞬間、ベリルに侵入開始のサインを送る。見張りを素早く片付けるためだ。

 ゆっくりと扉が開き、男が周囲を確認する。しっかりと自分以外の誰もいないことを確認し、改めてこちらの顔をみる。


「エラ・ナーダで、間違いないか?」

「ええ、間違いありませんわ」

「……エラ、ナーダ?」

「ええ、エラでございます」

「あれ?エラは金髪ではなく茶髪だった気が……」


 見張りの男が疑問に持った瞬間に背後にベリルが降り立つ。猫のように音もなく降り立ち、的確に男を気絶させると手慣れたように近くの見つけづらそうな物陰に男を隠した。


「ずいぶん手慣れてるのね」

「……あたしはもともとスラム育ちだからね。あたしらを襲ってきた連中をこうやって隠すことが日常だったから」

「……暗くなるようなこと聞いたわね。悪かったわ。さて、さっさとジギタリス全部燃やしてアタシたちも遊びに行きましょ」


 本格的に屋敷内部に侵入する。エイラとベリルはそれぞれ個人行動のほうが良いと逆方向に走り出す。

走り出してすぐ、エイラは以前侵入していた時の記憶を基にただ一カ所へ向かっていた。

 西塔地下。ここにだけはボスとボスが認めた数名しか入ってはいけないと言われていた。何かを隠すにはもってこいだとエイラは目を付けていた。


『ほかに目を付けていた場所はすでにあの娘に伝え済み。ならアタシは西棟地下に目的を絞る』


 道中、見つけたヴィオレッタの構成員は残らず倒していく。当たり前だ。ボスからの命令は『殲滅』なのだから。

 人間だったモノの返り血を拭いながらエイラはため息をついた。


「バルドル達、ちゃんとやってんのかしら……」


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