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ノドの地  作者: 音切萌樹
第一章.バートンとトラグス
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08.共同戦線

場所は変わって、バートン本部ではてんやわんや

「――というわけであとはよろしく~」

「はぁ!?ちょっと待って……切られた」


 一方的な連絡を受け、ルーファはため息をついた。

なにやら早急に傘下のヴィオレッタファミリーを壊滅させろとボスからの命令が下ったとか。

 ただ電話口で告げられただけのルーファは困りきり、再度ため息をついた。


「どうやれっていうのよ……私個人は支援向きだしそう簡単に一組織を壊滅させるだなんて……」

「おぉ?ルーファじゃねえか。なにしてんだこんなところで」


 背後から声がかかる。振り返れば目の前にはいつの間にか巨大な壁が迫っていた。


「あー、上だ上。近すぎて見えてねえな」

「お生憎様。私の成長はもう数百年も前に止まっているのよバルドル」

「あーはいはい、何度も聞いたよその台詞。んで、なんか困ってなかったか?」


 一歩下がり、話しやすいようにルーファを抱き上げたのは壁、改め幹部の一人バルドルだった。

ファミリー内で最も身長の高いバルドルと最も身長の低いルーファが話す時はバルドルの腕に抱えられたまま話すというのがもはや恒例になっていた。


「困るも困る。ボスが傘下のファミリーを一つ潰してほしいんだって。早急に」

「んあ?行けばいいじゃねえか」

「私を、どこかの筋肉達磨や色欲戦闘狂と一緒にしないでくれない?」


 言葉の端々に棘を残したままじとっとした目でバルドルを見つめるが当の本人は気にもしていないように豪快に笑った。

 普段後方支援しかしていないルーファがそう簡単に一組織を潰せるものか。第一、今本部に人が少ない。ルーファの指示で動かせる人数がごく少数に限られるのだ。


「すまねえなぁ!んで、その指定された組織を潰せばいいんだろ?なら俺が行けば解決じゃねえか」

「え、バルドル行ってくれるの?」

「というかユダ達が連絡してきたってことはそういうことだろ?」

「……それも、そうね」


 妙に納得してしまう。

我らがボスの側近が無理難題を押し付けてくるわけがない。ボスのスケジュールを頭に入れるついでに全員のスケジュールを覚えているのだろう。今回は、それに助けられた。


 ノタノタと迷いなく進むバルドルの腕の中でルーファは突撃隊の構成を考える。


『バルドルは決定として、今本部にいるのは私とロキとクロナ。あとはその部下。前線部隊の隊長クラスがもう一人くらいいれば楽になると思うけど……』


「おい、ルーファ。そう言えばお前まだ挨拶してないんじゃねえか?」

「は?なにが?」


 ほれ、とバルドルが道の先を指す。振り返ればコツコツとヒールを鳴らし、美しい金髪をかき上げながらこちらに近づいてくる美女がいた。

 10人いれば間違いなく10人が美女だと答えるだろう。中身を知らなければ。


「はぁい、ルーファひっさしぶり~元気ぃ?」

「あらエイラじゃない。いつ本部に戻ってきていたの?」

「ついさっきよ。ユダに頼まれてた仕事が終わったの」


 エイラの仕事は多岐にわたる。前線に出て戦うこともあれば慣れない書類仕事をしていることもある。

それよりも多いのが他組織に潜入する仕事だ。

本人は変装ができている、というが実際はハニートラップに近いとルーファ含め幹部は思っている。


「今回はどこに行っていたんだ?」

「ヴィオレッタのところよ。なんかきな臭いって噂があったからちょちょーっと見に行ってきたの」

「ヴィオレッタ!?」


 エイラの言葉にルーファはバルドルの腕の中から身体を乗り出し、声を荒げた。


『これでイケる!エイラがいれば内部事情についてはクリア。火力についてはバルドルがいるから申し分はない。あとは……』

「な、なによ。そうよ、傘下の一つのヴィオレッタのところ。もういい?報告書あげたいんだけど……」


 バルドルの腕を叩き、道をよけるように言うエイラの腕をルーファが掴んだ。

ムッとした表情でルーファを見上げるがそのままの勢いでルーファはエイラの肩を掴み揺らす。


「エイラ、そのまま仕事を頼むわ」

「はぁ!?うそでしょ!?」

「ボスからの指示。さっきまでいたヴィオレッタの壊滅。それと……」

「バルドル様!ファルタナ様!フェルナーダ様!会談中、失礼します!」


 一人の青年がこちらに走り寄ってきた。息を切らせてやってきたがすぐに息を整え、姿勢を正す。

 胸元を彩るグリフォンの紋様から察するにバルドルの部下だろう。


「おう、ザックじゃねえか。どうした?」

「申し上げます!トラグスを名乗る男女がお見えになりました!幹部の方々への伝言を預っております」

「聞こう。言え」

「ハッ!『紫の薔薇を共に摘ませろ』そう伝言を受けております」


 伝言を聞き、全員が眉をひそめた。

 ヴィオレッタファミリーの家紋は薔薇であり名前の通り紫を基調としていた。


「だとよ。どうする、ルーファ」

「カルマから可能性として連絡は受けているわ。被害はこっちだけじゃないからって」

「なら、とりあえず一度会うしかないか。エイラは外仕事用に着替えて来い。ザックはそいつらを客間に案内しろ。ただし、扉は開けたままパール兄弟に見張らせろ」

「了解しました!」


 バルドルの命を受け、ザックがすぐに走り出す。エイラも何やかんやと文句は言っていたがすぐに着替えるために自室へと戻って行った。


「さて、ルーファはなんか必要なもんはあんのか?」

「特にないわ。そのまま向かってちょうだい」


 その返答を分かっていたように笑うとバルドルはルーファを抱えなおした。


「はいよ。ファルタナ婆さんの仰せのままに」

「それ、部下の前で言ったら殺すわよ?」

「はいはい。俺より実年齢が上だってことは内緒だもんな」


 軽口をたたきながら一階の客間へ向かう。近づくにつれてなにやらワイワイとした騒ぎ声が聞こえる。

二つは知らぬ声、もう二つはパール兄弟の物だとバルドルは呟く。

 客間の手前でルーファを降ろし、開け放たれたままの客間の扉をノックする。


「ずいぶん楽しそうじゃねえか。仕事そっちのけで何やってるんだ?レイン、ネイン」

「バルドルさん!それがこの人ら面白いんっすよ!サーカスとかそういうの見たことないらしくてオレらみたいな曲芸師の芸が珍しいって!」

「バルザーク様が褒めてくれた技、この人たちにも褒められました。なんか、むず痒いです」


 楽しそうに顔を上気させてバルドルの周りを飛び回るレインと少し恥ずかしそうに笑うネインを見ながらバルドルは深くため息をついた。頼んだのは客人を楽しませることではなくヘタに動かないように監視するためだったのだが、結果的に客間に留められたのであれば良しとすることにした。

 

「わかったわかった、後で聞いてやるからお前らは客間の外にいろ。アイツが来たら入れてくれ」

「かっしこまりー!」

「了解しました」


 個性の出る返事を残し、パール兄弟は外へ出る。その際に扉を閉めないあたりわかっていると言える。


「さて、俺のところの騒がしいのが失礼したな。知ってるだろうが名乗らせてもらう。バートンファミリーが幹部、バルドルだ。お前らには『傲慢』とか『戦車(チャリオット)』って名乗ったほうが早いかな?」

「同じくルーファよ。バルドルの名乗りに合わせるなら『悪食』や『魔女(ウィッチ)』って言ったほうが早いのかしらね」


 バルドル達の名乗りに客人は目を見開いた。驚き、というよりかは相手の力量を測るために隅々まで観察しているように見える。


「して?おまえらは?」

「……トラグスファミリーの幹部。これだけじゃ不満?」

「ああ不満だね。俺たちは名乗った。」

「……チッ」


 不満を隠そうとすることなく男のほうが舌打ちをする。女のほうもそうだが育ちが良いとはお世辞にも言えない。ジッと見つめ続けると観念したように女がため息をつき、立ち上がり手を差し出す。


「トラグスファミリーが幹部。カイン様の近衛騎士が一人ベリル。よろしく。これでいい?」

「上出来だ嬢ちゃん」

「名乗った意味……」

「……チッ、同じく近衛騎士のジェット。知ってるだろうけどよろしく?」

「ジェットとベリルね・・・・・・それじゃあ、座って。細かく話のすり合わせをしましょう」


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