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ノドの地  作者: 音切萌樹
第一章.バートンとトラグス
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06.喧嘩するほど・・・?

 銃声が部屋の中に響き渡った。同時に部屋の中が硝煙の香りで満ちる。

弾丸が放たれた銃口から余韻が消え、カインは満足そうに笑った。


「あら、よけるんだ」


 弾丸が放たれる直前、すんでのところで部屋にあった家具を盾にして避けたアベルは身を隠したまま舌を打ち、己の獲物であるグロッグとサーベルに手をかけた。


「ったりめぇだろうが!つかテメェが死ね!!カイン・トラグス!!」


 アベルは言い終わらぬうちにサーベルを勢いよく鞘から抜き、物陰から飛び出すとカインに斬りかかった。カインもそれに応じるように自身の持つレイピアを抜き、アベルの剣を受け流し、急所めがけてレイピアを突き出す。

それを半身で回避するとレイピアを打ち上げ、カインの開いた胸元に銃口を向ける。


 銃声が一つ。


 だが、それも華麗に避けられ、お返しと言わんばかりにまた銃声が鳴る。

 半身で回避し、サーベルの峰で銃口を突き上げ、グロッグのグリップ部分で顔を殴りつける。

もちろん、カインにそれが通じるわけもなくあっさりと躱され、背中に向けて蹴りを受ける。


 普段より重い蹴りにアベルは前につんのめるが、サーベルを前に放り投げ空いた手でひらりと一回転し、一発弾丸を打ち込む。カインが回避している間にさきほど投げ捨てたサーベルを拾い体制を整える。


 剣を向ければお互いに流され、銃を向ければお互いに躱し、反撃を加えてくる。


「そう、そうだよアベル・バートン!それでこそあんたはアベルなんだ!」

「わけのわからねえこと言ってんじゃねえよ!早く死ね!!」


 銃口を向ける。避ける。剣を振る。流され、反撃を喰らう。

同じような行動の繰り返しだが、お互いに一切の傷もなく、一進一退が続いていた。


 部屋の中がそんな修羅場になっているとは気づくことなく、ガチャ、と外からドアノブが捻られる。

それぞれの部下へ電話していたユダが戻ってきたのだ。

 ユダは部屋の中の様子を見て、なれたようにため息をついた。


「もう始めちゃいましたか……」


 後ろからやってきたオニキスにユダは気づくと、ぺこりと一度頭を下げた。オニキスも室内の現状を確認し苦笑いを浮かべる。


「あ、どうもお疲れさまです。そっちも終わったんです……ってまた、ですか」


 バートンとトラグスのトップは顔が似ているうえに仲が悪い。

これは周りの領地を治める他ファミリーの間ではよく出る話であり、酒の肴であったりもする。

また、当の本人たちが揃いも揃って「似ていない!」とムキになることも余計に拍車をかけているのだろう。

 顔を合わせればすぐに喧嘩するバートンとトラグスの名物喧嘩として面白がられてるとは本人たちのみが知らないことである。

そんな喧嘩をいつも生暖かい目で見守っているのがユダとこの男、オニキスである。


 実のところ、このユダとオニキスも二人の喧嘩を見ながらどちらが勝つかまた引き分けか、と賭けをしているのだがこれは本人たちには内緒である。


「オニキス、今回はどうだと思います?」

「もちろん引き分けでしょう。むしろカイン様の次の予定が迫っているのでそのうち止めますよ」


 この喧嘩のタイムキーパーの役目も務めるのがオニキスとユダの役目だ。

次の予定に間に合うようにお互いに喧嘩させ、少しでも書類整理のストレス解消になれば、とユダとオニキス主体で故意的に始まったが、もはや止めるまで止まらないので半諦め気味でこの喧嘩を放置している。


「なるほど、今日はこの後に予定があるのですね。それでは何分後くらいに?」

「そうですね、こちらは1時間ほどは放置でも大丈夫ですが」

「よし、じゃあそれで。ついでにお茶でもしましょうか。どうせ私たちが声をかけるまで終わらないですし、そちらの被害状況など詳しく教えていただけると経理担当の者に伝えやすいので」

「そうですね、それではそうしましょうか」


 大半この喧嘩は放っておいても止まらない。ならば時間は有意義に使うべきだ。

それに、今回の件はただの内輪揉めではない。

 バートンの領地だけでなくトラグスの領地でも被害が出ているのだ。加害者はバートン傘下の者であるとわかっている以上、けじめのつけかたは話し合っていて損はないだろう。


「お茶は何がいいですかね?カモミール、アールグレイがいいかな?」

「オニキスの選ぶお茶はどれもおいしいですからね」

「ふむ・・・・・・今日の気分から考えるとセントジョーンズワートとかも良さそうですね」

「お互いに、疲れの取れるものにしましょうか……」


 呑気にこれから飲むお茶の話をしながらユダとオニキスは再び施設の外へ出た。


「死ねぇ!アベル!!」

「うっるせぇ!!つーかテメェが俺と顔似てんのがいけねぇんだよ!!」

「るっせえ!!いいから死さらせぇ!!」


 締まる扉の先で本来仕えるべき主の暴言が聞こえたような気がしたが、きっと。

そう、きっと気のせいだ。



 * * *



 一時間が経ち、オニキスとユダは互いに膨大な量の書類を手に持っていた。

互いの領地の被害状況を確認し、今回の騒動の主犯であるヴィオレッタの領地についてなど様々な話に花が咲き、無事に互いに納得のいく条件を提示できたからだ。

 あとはこれを自身の主に見せ、判をもらうだけだ。もちろん、異論など認めはしないが。


 施設の扉を開ける。扉の先はすっかり変わり、見事に廃墟にリフォームされていた。

あったはずの机はもはや形もなく、あったはずの椅子やソファはクッションの部分だけが残されていた。


こうも見事にリフォームを施した犯人達はどこに行ったと施設の中で目を凝らせば

それぞれの主がいまだドンパチやっているのが目に入った。


「……一時間経ってもまだやってるよ、あの二人」

「いい加減、素直になって欲しいものですねぇ」

「喧嘩するほどなんとやらって言いますしね」


 顔が似ていると周囲から幾度となく言われ、互いに意識しているがうまくそれを伝えられないなど、どの時代の学生か。と重臣である二人はいつもため息をついていた。


「ハラワタぶちまけろ!!」

「脳漿ぶちまけろ!!」


 喧嘩の最中に暴言を吐くことなど普段通りであり、もはや気に留めることもない。


「……仲がいい、のか?」


 呟いた一言は響いた銃声でかき消された。

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