05.珍客
ようやく天敵の登場です。
勢いよく扉が開くと同時に低いヒールの音と人影が二つ、屋敷に入り込んできた。
屋敷にやってきた珍客は徐々に色と形を持ち始める。
赤茶の髪を低い位置で結び前に垂らし、黒いコートを着た中性的な人物。そして、その人物に付き従うように少し後方から何かを引きずってやってきた黒髪の男の二人組だ。
十分に注目を集めた赤茶髪の人物は両手を左右に広げるとお茶らけた様な口調で挨拶を飛ばす。
「はぁ~い、どうもこんにちわ~。お邪魔しまぁ~す」
その挨拶を背中で聞きながらアベルは誰が来たかを悟り、深々とため息をついた。
「……いやな奴が来た」
心の底からの声であった。
赤茶髪の人物はアベルの姿を再認識すると猫のようににんまりと笑い、わざとらしくヒールをコツコツと鳴らしながら近づき、絡み始めた。
「はぁい、こんにちわこんばんわ、お邪魔しまぁす。トラグスファミリーが頭首カインで~す。ところでバートンファミリーの頭首がこんなところでなにしてるんですかぁ?」
「お前には関係ねぇだろ、トラグスのクソ野郎」
自らをカインと呼ぶ赤茶髪の人物はアベルの悪態を気にも留めず、すぐ近くで座ったままの男に近づき、目線を合わせるようにしゃがみこむと、その髪を荒々しくつかみ上を向かせる。
普通ならば髪を引っ張られた痛みで顔をしかめるはずだが、男は一切歪めることなく無表情のままだった。
「あら?あらあら?どういうことかなぁ?その子の様子、おかしいようだけど。まるで薬中毒者のそれじゃない?」
扉の近くで虚ろな目をし、よだれを垂れ流したままの男を見ながらカインはニヤニヤと怪しく笑い続けた。ぱっと掴んだ男の髪を放し立ち上がるとヒールの音を鳴らしながらアベルの近くで顔をのぞき込んだりくるくると意味もなく回ったり、やれバートン傘下のファミリーは気性が荒いだの、バートンの管理がずさんだの、バートンにはセンスが悪いのが多いだの、お前は身長が低いだの好き勝手におちょくりはじめた。 周りでワイワイやられ、アベルは耳に指を突っ込みながら苛立ちを吐き出すようにため息をついた。
「うるせぇな、だからそれをシメに来たんだよ俺は」
イライラを隠すことなくアベルは言葉を吐き出す。
そんな様子を見て何かを納得したように手のひらを一つ打つと、カインは数度頷いた。
「あぁ、そういうこと。ちなみにコッチにも『バートン』を名乗る男が薬をばら撒いているのだけれどそれはどうするの?こっちで処理しちゃっていいのかな?」
アベルとユダの眉間が同時に寄る。なにやら聞き捨てならないことを聞いた気がする。
「ハァ?んだよそれ」
アベルの言葉を予見していたかのようにカインは後ろで控えていた黒髪の男に合図を送った。男はその合図が出ると同時に自身が引きずっていた荷物を勢いよく前に投げ捨てる。ドサッという重い音と共にアベルの目の前に荷物が投げ捨てられる。
荷物だと思っていたそれは、すでに暴行を受け、気を失っている人間だった。死なないように絶妙なさじ加減で生かされているその男を見て絶句するアベルを他所に、カインは男に冷たい視線を向けた。
「今オニキスが投げたのはトラグスの領地で捕まえた売人の一人……どこかで見た顔じゃない?」
カインの言葉にアベルは男の顔を覗き込むが、全く見覚えがない。
もしや、傘下や末端の部下ではないかとユダに視線をやると男の顔を覗き込み、暫くの思考の後、頷いた。
「確かに、傘下の構成員の一人ですね。確か……ヴィオレッタ」
ユダの言葉でアベルは頭を抱えた。
ヴィオレッタファミリーは父である先代からバートンの傘下にいた古参といっていいファミリーの一つだ。ヴィオレッタの後継者であるウォズとは幼いころからの仲であり、アベルがファミリーの幹部以外で気兼ねなく話せる人物の一人だった。
だが、傘下である以上バートンの掟に従わない者は誰であれ、粛清せねばいけない。
「そうか」
大きく息を吐き出し、浅く吸う。ゆっくりと顔を上げ、自身の部下を見つめ、一言、名を呼んだ。
「……ユダ」
「かしこまりました、ボス」
踵を返し、本部へ連絡に行こうとするユダの肩を叩き、カインの部下である黒髪の青年、オニキスがユダを引き留めた。
「あ、ちょっと待ってくださいユダ。こちらも被害が出ていますのでトラグスからも一部隊出して良いですか?」
「ええ、頼みます。とりあえず私は本部へ連絡ですね……」
オニキスとユダは隣へ並び、共に部屋の外へと出ていった。
速やかにヴィオレッタファミリーを殲滅するために一時的な共同戦線を張るのだ。利害関係の一致は時に敵対していた事実など歪めてしまえ、というのも先代の教えだったりする。
足早に部屋から姿を消したユダとオニキスを見送るとくるりとアベルのほうに向き直る。
「あらあら、優秀な部下をお持ちですね。バートンのボスさん♡」
内容を言わずともすぐに動いたユダをみてカインはまたおちょくるように言葉を重ねる。
また一つ、アベルの頭の血管が切れる音がした。
「るせぇよトラグスのクソ野郎。どうせ用はそれだけじゃねぇんだろうが」
バートンとトラグスは仲が悪い。それは周知の事実であり、そんな犬猿の仲の二人が顔を合わせるときにはいつも一つ以上の問題が発生していた。
アベルの言葉にそれを待っていたといわんばかりにカインは喜び、飛び跳ねた。
「あら、よくわかってるじゃん。じゃあ、さっそく……」
カインはゴソゴソと自身のコートの内ポケットを探った。目当てのものを見つけ、にっこりと笑うと懐からそれを取り出しアベルに突きつけた。
「死ねよ、アベル・バートン」
甲高い銃声が部屋の中に木霊し、部屋の中が硝煙の香りで満ちる。
弾丸が放たれた銃口から余韻が消え、カインは満足そうに笑った。
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