第4列車 タイムマシン②
新幹線(に限らず鐡道全般)は、一般的な自動車やバスなどを運転するのとは全く分けが違う。
自動車は空いている道を好き勝手に走ることが出来るが、新幹線では当然そんなわけにはいかない。
鉄道とは、車両の性能や到着時間・停車時刻。発車時間やスピードなどを徹底的に管理されたいわば「システム」だ。
列車一つ一つに指示を与える鉄道司令員、車両の時間管理やドア開閉・乗客の状態まで徹底的に管理する車掌、そして提示通りの運転を託された者がこの「システム」を厳守しなければならない責任がある。
「―まだ…まだまだスピードに乗せられる…!」
品川~新横浜の区間は遂に新幹線の本領を発揮する出番だ。
東京都を出て横須賀線の武蔵小金井駅付近まではまだ130km程度の速度制限があるが、その先の新横浜までは速度を出すことが出来る。
いくら乗りなれた若手のベテランも、今日ばかりはすこし緊張気味。
《まもなく、新横浜です…横浜線ご利用のお客様はお乗り換えです。新横浜の次は…》
キンコーン
「信号130。」
駅が接近してくるとともに、ATCの表示制限速度が徐々に遅くなってゆく。
ここまでくると、あとはATCのシステムに任せるのみとなる。
列車の遅れも左右するのはこのATCなのだから。
「――新横浜停車。6時46分18秒。8秒延。」
予定通り、遅れをなんとか新横浜までに縮めることに成功した。
定時とはならなかったものの、20-30秒程度まであった遅延を一けた単位までをこの1駅で巻き返すことは、実はなかなか難しい話だ。
ビーッ
「こちら運転士、車掌応答せよ~」
「はいこちら嫌われ者の佐久間ぁ」
少々ふざけを交えながらほっと連絡を取りあう。
「もうドア閉めるから、いつでも発車できるように。車掌から以上。」
「静岡、通過…9秒延。」「―信号 270。」「―豊橋、到着…定着。」
彼のうまい乗降促進もあってか、先の小田原・豊橋・名古屋から先も、10秒程度の延着はいくつかあったが、ほぼ定時で運転でできた。
―新大阪駅
「新大阪、終着。9時30分32秒、2秒早着。」
シュウウゥ…
X-RAYは非常ブレーキをかけると、まるでほっとしたかのように大きな音を出し上げた。
私は引き続き電留線(営業が終わった列車を収容する線路)へと向かうが、前・中車掌やパーサーはここで下車となる。
出発までのひと時、乗務記録を書き込んでると佐久間さんは乗務員扉の窓からこう言った。
「遅れを出してして時間より遅く着いたりしても、スピードを上げれば目的の時間まで戻れる。」
「―新幹線ってのは、一種のタイムマシンなのかもな。」
ふと、彼の胸ポケットにはいつもついてるはずのポケット時刻表が無いことに気が付いた。
「…佐久間さん、名言もいいとこですが、何か忘れてないですか~?」
「―ン??…っと!やっべ行路時刻表乗務員室に置いてきた!」
「わはは、早く取りに行かないと。車掌のせいで遅れたら今夜ごちですよ~!」
「あああぁ!それだきゃ勘弁!」
毎日が佐久間車掌とペアなわけでもないし、ピリピリした人とか、威圧感バリバリの車掌も多いけど、やっぱりこんなことが有るから楽しい。
新大阪の電留線で、作業員さんに交じって車両清掃を手伝った。
「あら、運転士さんがなんでこんなとこにおらっしゃるの?」
「―私の新幹線ですから。」
なんだか、自分が放った言葉に自ら納得してしまった。
―ちょっとお休みだね、X-RAY。




