第2列車 日の始まりは「ひかり」から。
《―長らくお待たせいたしました、19番線の電車はひかり501号 新大阪行です。途中停車駅は~…》
ガッチャッ
バタム!
乗務員扉を閉め、運転情報の入ったICカードを運転台わきの専用口に差し込む。
「―ICよし。」
運転台に運輸区であらかじめセットした時計をはめ、行路表を置く。
「う~ん、今日もひかり主体かぁ。」
指先で停車駅の停車時刻と通過時刻を改めて確認。彼女の口から思わず零れる一言。
「ひかり」は、東海道新幹線でもメジャーな駅に止まる列車。
東京・品川・新横浜・名古屋…と必要最低限しか止まらない「のぞみ」の停車駅を少し増やしたような列車である。
…天気は悪くないし、空転の心配もないかな。
そうそう、きょうは名古屋着番線が16に変更で…
ちょっとした職業病な考えをしながら、運転室の機器やボタンを一つ一つ確かめて行く。
X-RAYは元々N700系の試験車両として登場し、後に彼女が絡んで旅客完全対応に改造されたのだが、まだ走行試験や実験は終了していない。
床下には改造した分も含めて沢山の試験機器を搭載しているため、車両の重量もかさむし、何より点検項目が非常に多い。
電源よし、蓄電池よし、BC600、予備よし…
通常のN700系であれば10-20箇所の確認で済むところを、この編成だと30-40か所近くもある。
「さっき車掌の佐久間さんが言ってたこと、分からなくもないような…」
―って、もともと旅客営業に就かせたのは私じゃない…
「んんん、これもまた愛情。」
点検項目を確かめている中、背後でドアの開く音がする。
乗車が始まった。
«ビィーッ»
乗務員扉横からブザーの音がする。
「はい、運転士。」
「―こちら後部車掌です。ブザー並びにマイク感度良好でしょうか?どうぞ。」
「…異常あり、後部車掌が佐久間さん。」
「―はははっ、冗談抜きでそりゃひどいぞ神代さぁんさ。」
「へへ、今日も頑張りましょうね。」
「―はいはい、今さっきドア開けたので、出発は定時になりそうです。」
…車掌のせいで定時に発車できなかったらそれはそれでとんだ迷惑だけど。
「はい了解。」
少しじめじめしはじめた5月の金曜日、東京駅は今日もまた穏やかだ。
《えぇ~…19番出発よし。》
出発の合図である発車メロディーが流れる。
《神田南、了解。ひかり501号ドアを閉めまぁす。》
ホーム柵の閉まるメロディ「乙女の祈り」が窓越しに聞こえるのが分かる。
もっとも、運転室の後ろにあるドアの閉まる音が一番わかりやすいのだけれど。
「戸閉点よし…ブレーキ緩解よし、東京発38秒延。」
直前に駆け込んだ旅客が居たため安全確認にてこずり、発車が38秒遅れた。
新幹線以外にも言える様な事柄だが、鉄道の世界で「時間通り」は当たり前で必須条件。
たとえそれが数秒だけでもあろうと、回復させるにしても後々後続の列車にも遅れを巻き込んでしまう。
「2分遅れれば列車1本分の輸送力が失われる」と言われるほど、「時間通り」は厳しい世界なのである。
「約40秒…新横(新横浜)までに回復させないとね…」
神代達の乗務する「ひかり」は、まだ静けさの残る東京駅を発って行った。




