09.雨宿り
無事にふたりとも橋梁を渡り終えることができた。
このままレール敷設予定地だった軌道跡を行く予定だったのだが……
「この藪は……明らかに通れる状態じゃありませんね……」
「……数十年で思った以上に自然に還るもんなんだなあ。鉄道を通すために森をぶち抜いてるからせいぜい草むらになってるくらいだと思っていたんだが……」
俺の顔の位置辺りまで成長した笹薮が密集しており、数十年振りに通行しようとする人間の行く手を阻んでいた。
「ここを通って行くにしても時間が掛かりすぎますし、別の道を探したほうが良さそうです」
「……そうだな。あと行けそうな道は昔の山越えの道くらいか」
「川沿いは割りと平坦ですしその道を目指してこのまま下流に行きましょう」
◇ ◇
俺達は草の少ない川沿いを下流に向かって行き、しばらく走ると親柱(※橋の両端にある太い柱)が見え昔使われていた道に出ることができたと安堵した。
「……ここには初めて来ましたけど、本当に橋があったんですね」
「今じゃ残骸だけで見る影もないけどな」
「ほとんど何も残っていないので、あったことは知ってても姿が思い浮かびません」
橋は昔の台風で流されて以降やはり放置されたままで、親柱の片方とわずかな残骸しか無いのでここに橋があった当時を知らないと想像もつかないだろう。
道路の方はさっきの軌道跡とは違い、道幅もありきれいなので問題なく走行することが出来た。
しばらくは順調に進んでいたのだが、最初の山の麓までやってきたところ天気が急変し大粒の雨が激しい音を立て地面をたたき出した。
顔に当たる雨粒を避けるようにウインドウシールドに顔を伏せ雨をしのげる場所を探しながらしばらく走っていると先の方に建物のような物が見えた。
(あそこで雨宿りできそうだな……)
そう安堵していると、突然エンジンのパワーが落ちスロットルを開けても失速し、そのままエンジン停止してしまった。
「……エンジン掛かりませんね。アドくん壊れてしまいましたか?」
「水たまりとかも越えて走ったからなぁ……。もしかしたらどこかに水が入ったかも」
「ここまでずいぶんと無理させてしまったかもしれませんね。とりあえず向こうに見える建物まで押して行ってそこで休みましょう」
やや勾配がついてより重くなった車体を、その建物に向け二人で押していった。
やがて普通の一軒家より大きめな古めかしいが木造一階建ての建物が目の前に現れた。
バイクを建物の屋根の下に入れ、階段を数段上がったところにあった横引きのガラス扉は鍵が掛かっていないようで横に引くとなかに入ることができた。
「――ここは昔の駅舎だ」
「そのようですね」
「……完成後放棄されてから30年以上経っているはずなのにずいぶん状態の良い建物だ」
「もしかしたらしばらくは誰かが定期的にメンテナンスをしていたのでしょう。埃が積もっているという以外はすぐ使えそうな感じですね」
「雨宿りには上等だな。今日はここに泊まろうか」
「はい」
雨具を着る間もなかったので全身ずぶ濡れだ。
二人はタオルで身体を拭き、着替えて濡れた服を張ったロープに吊るした。
さすがに色々あって二人とも疲れたので寝具とランタンを設置し、早々に寝袋に入った。
「……兄さん、まだ起きてますか?」
「ん、なに?」
「こんなカタチで都市を出ることになってしまいましたが、どこへ向かう予定なんですか?」
「そうだな……、まず南の都市に行って食料と燃料を調達。そこで情報を集めてから最終的に東の果てにある都市に行くつもりだ」
「東の果ての都市……。確かこの国の首都だったらしい、という場所ですよね。そこになにかあるんですか?」
「どうもじいさんの故郷らしいんだ。かなり遠いが行きたいと思ってる」
「……もしかして、前世の記憶というのはおじいさんのものなんですか?」
「そういうこと。去年階段から落ちて3日間寝てただろ?そのときになんか記憶が俺の頭に入ってきたんだ」
「都市伝説でそのような話を聞いたことがありましたが、まさか兄さんが当事者だとは……」
「普通信じられない話だよな……。自分でも頭おかしくなったかと思ったけど、昔の出来事とか父さんと母さんが若い頃の記憶もあったから間違いないな、と確信したよ」
「そこまで憶えているんですか。噂にもありましたし実際こうなってしまいましたが、それでわたしにまで秘密にしていたんですね」
「お前にも言わなかったのは正直悪かった……。あとこうして道連れで根無し草になってしまったのもすまないと思ってる」
「そのことに関してはわたしが選んだわけですから気にしないでください。まあ、生活能力がゼロな兄さんが悪いというのは半分くらいありますけど?」
「失敬な。俺はやればできるしまだ本気出してなかっただけなんだ!」
「たまに本気出して年に一回くらい突然凝った料理やりだして失敗するのが定番イベントじゃないですか」
「うぐぐ……」
「……そんな兄さんが野垂れ死にしないようにするので一緒におじいさんの故郷まで行きましょうね?」
「かしこまりました、お姫様。どこまでもお供いたしますよ」
「ふふっ、何言ってるんですか……」
レイカとの会話が終わり、これまでで一番濃い一日を過ごした疲れによる猛烈な眠気に襲われたので俺は重くなった瞼を閉じた。
次で最終話にするかもっと続けるか迷ってます。
書き具合によって決めようと思います。