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初雪が降る前に  作者: 天ノ風カイト


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3/5

中編 『越冬の椋鳥』

あの日あの時、私は初めての経験をいくつもしていた・・・赤いナナカマドの実が揺れる、都会の街の中心での事だった。


『誰・・・・・?』


『誰・・・・?』


『誰・・・?』


『誰・・?』


『誰?』



頭の中、同じ言葉を繰り返す私。


冬空の下、都会の交差点の歩道の上。


私は文字通り凍り付いて居た。


それは、もうすぐ雪が降ろうとしてるこの街の寒さのせいなどでは無く。

(つたな)いながらも、ここまで生きてきた自分の恋愛経験の中で、全く理解できない事が突然起こったからだった。


『誰?』

尚も頭の中で繰り返すこの言葉・・・・。 


それは、『誰か』への質問の言葉・・・・・・? 



いや・・・・・・・・違う!


本当は、たった今現れた見知らぬ女性に言いたい言葉。


問いただしたい言葉と衝動。

それをただ、私は自問自答の様に頭の中で繰り返して居た。


それはまるで、それを唱え続ければ、何かが現れて・・・・・或いは何かが閃いて、彼女の正体を明かしてくれるとでも思ってるかの様だった・・・・。



 「どうして待ってくれないんですか~?」

その女性の甘えた様な声を、私は背中で聞いて居た。

「ああ・・・。なんだ・・・びっくりしたよ。」

そう応える悠一さんの声は、少しも驚いた様子は無かった・・・。


「びっくりしたよ。じゃないですよ!びっくりしたのは、私の方ですから!」

「何かあったの?」

「何も無かったからびっくりしたんです!」

「なに?それ?・・・びっくり箱を明けたら何も入ってないってパターンだろうか?」

「似た様なものです。先に出るならそう言ってくれたら良かったのに。」

「休憩時間にコンビニ弁当を買いに行くだけなのに、大袈裟おおげさな事を言うね?」

「大事な事ですよ!二人一緒に歩けば、仕事の話や、色々な話を出来るから、効率も良いんですから。」

「ふーん。まあ、ここでこうして立ち話してる方が効率が悪いけどね。」

まるで彼女の事など構って無い様な口振りの悠一さんの言葉に、私は一瞬安心した。

けれどそれは、親しい間柄だからこその会話だと私は直ぐに気付かされる・・・。

「今は、効率度返しの時間なんです。」

だからだろう。彼女は尚も悠一さん喰い下がった。

「意味が解らないけど、歩く気が無いなら、僕は先に行くよ。」

素っ気なく彼女に答えた悠一さんだったけど・・・その半面、どこかこの会話を楽しんでる様に私には感じられたのが嫌だった・・・・。


「また、そうやってイジワルするんですね。」

少し()ねる彼女。

「早くしないと、信号が変わってしまうよ。」

そう言った悠一さんが、その女性を置いて歩きき始めるのを、私は耳で感じて居た。

遠ざかる悠一さんの足音。

それを追う、女性の足音。


どうしよう?


『私だけ置いてかれてしまう・・・・。』


でも、今振り返ったら、私は悠一さんに見つかってしまうかも・・・。


そう思った私は、急に私を取り巻く孤独感に包まれた。

そして実際には短い・・・・でも、私にとってはとても長く感じる時間を絶え、二人との距離を開けようとして居た。

すると、見知らぬおじさんが、私の横を通り過ぎ、信号を渡ろうとしていた。

私は、とっさに、そのおじさんの影に身を隠す様にして、一緒に信号を渡り始める。


『走ってはだめ・・・。』

足音さえも消し去りたいと思いながら、前を行く二人を追いかける私。


本当は、その二人を呼び止めてしまいたい。


でも私は・・・それとは矛盾する様な必死の思いで、横断歩道を渡る二人の後を、距離を取りながらゆっくりと追う。


二人が向かいの歩道に差し掛かった時、信号が点滅し始めた。

まだ車道の上の歩行者であった私は、私の横断を待っている車がいる事を言い訳の様にして、急ぎ足で通り抜ける。


そうして私が横断歩道を渡り切って前を見た時には、見知らぬ彼女は悠一さんの右に並び一緒に歩いていた・・・。


私は思う。

『きっとそれは、会社の同僚同士であれば、ごく普通の光景なのだろうけれど・・・。』と・・・。


不安と苛立ちを踏み締めながら、私はその二人の後ろを、さっきの同じ方向へ歩く見知らぬオジサンの影に体を紛れさせ付いて行く。


「今晩、この後、雪になるそうですよ!」

喧騒の中でも良く通る彼女の明るい声に、私は鼓膜を針で刺されたかの様な痛みを感じた。


その言葉は・・・。

『悠一さんに私が言う筈だった言葉だったのに・・・・。』


私は、胸に湧き上がる悲しさと悔しさを紛らわす為に、震える下唇をギュッと噛んだ。


「何を楽しそうに・・・雪が降るんじゃ帰りは混雑するから、僕は嬉しくは無いけどね・・・。」

同じく喧騒の中、悠一さんの低めの声は、その声を聞き慣れていた私には、ハッキリと聞き取れた。


「けどね?」

悠一さんの語尾に引っかかった彼女は、そう聞き返しながら、悠一さんの歩く速度に合わせる為に急ぎ足で歩いていた。


見知らぬ彼女は、悠一さんと並ぶと、とても小さく見えた。


私よりも、少しだけ背が低いのかも・・・・。 


だからなのだろうか?トコトコと歩くその姿は、年下の私から見ても可愛らしく見えた。


『あの人・・・私を・・・イライラさせる。』


私は、そんな(ふう)に思いながら、二人との距離を気にして付いて行く。


すると少し考えていた悠一さんが、彼女の質問に答えた。

「うん・・・都会で仕事してると、雨、風、ましてや雪なんて、都合の悪いばかりの事なんだけれど・・・。」

「けれど?」

「それがなくちゃ、僕らの仕事も成り立たないって思うし。」

「思うし?」

「それに、それがあっての地球だからね。」

「え!?・・・ちきゅう?」

すっとんきょうに語尾の音程が上がった彼女の声に、私の心の声も同じ思いで重なってしまった・・・。

 

直後、私は彼女を睨みそうになった自分に気付き、さっと二人から視線を外し、さっきから私が勝手に身を隠させてもらっている、オジサンの背中にそっと隠れた。


二人はそんな私に気が付つかづに、話の続きを始めた。


「都会で暮らす僕たちにとっては、不便な事でも、自然では何かのバランスをとる為に、そんな気象現象が起こってる訳だから、それが無い世界を望むのっては・・・。」

と、そう悠一さんが思い深げに、そこまで話すと。


見知らぬ彼女は「いけない事ですか?」と、合いの手を入れた。


彼女のそれを、私はまたも苛立(いらだ)たしく思う。


すると悠一さんは、そんな彼女の反応に満更(まんざら)でも無いって感じで「いけないも何も・・・・」と、会話の溜めを作った(のち)「それが有る事が、僕らの『日々』って事なんだ。」と言った。


悠一さんの結論染みた言葉に、ハッとした私は、一瞬立ち止まりそうになった。


「言い切りましたね!」

私の思いを他所よそに、彼女は又も合いの手を入れた。

「これ位はね。」

それに答える悠一さん。

「あは!2度連続で言い切りましたね!最後は(マル)って感じでした!」

そう言った彼女は、ふーんっと、悪戯な笑みを悠一さんに向けた・・・。

そして、急にニコッと笑う。

「明日のプレゼンもそんな感じでお願いします!」

突然、話が仕事の事に成った事に悠一さんは驚き「なんだ?イヤミかい?」と、笑いながら彼女に言った。そんな言葉に彼女は少しねた様な言い方で「違いますよ!応援してるって事です!」と、横に並ぶ悠一さんとの距離を更に詰めた。

私は、そんな彼女に、ずっとイライラしてたのだけれど、今と成ってはそれ以上に、彼女と距離を取らない悠一さんに腹を立てていた・・・・。


『若い女子社員と、そんなに近いって、セクハラじゃないですか・・・!?』


私のそんな思いを他所(よそ)に、悠一さんは彼女の応援の言葉に「おいおい・・・そんな外からの掛け声じゃなく、実質的な『応援』が君の仕事なんだよ。」と、年長者らしく彼女を(たしな)めた。

その声は、少し疲れを帯びていたけれど・・・・同時に親しみも込められていると私には感じられた・・・・。


そう・・・きっと、彼女だって・・・・・。


「そうなんだ・・・・。」

私は必死に声を圧し殺し、自分に向かって呟いた。

手を振り歩く私の両手の中には、いつの間にか悔しさが握られていた・・・。


「話は戻るけど、まあ・・・何にしても」

そう言った悠一さんの声のトーンは、低く抑えられていた。

ずっと斜め後ろからしか悠一さんの顔を見ることの出来ない私でも、彼の表情が、すこし寂しげになりながらも、真剣なものへと変わったのが判った。

それから続けて彼は言った。 

「自然もそうだけど・・・。誰しも望むのは勝手だが・・・手に負えない物事に、出来るつもりで手を出すと、痛い目に遭うって事かな。」


彼が自分に言い聞かせる様に放たれたその言葉に、私の胸は得体の知れない何かを感じ、ザワついた・・・・。


次の瞬間。

意味深に右手の人差し指を唇にそっと当てながら悠一さんを見詰めて話す彼女の言葉は、私の、そのザワメキの正体を言い当てた・・・。


「ふ~ん・・・・それってぇ。いけない恋の話しみたいですね!」


一瞬、それまで一定のリズムで自分の足元の視界を幾分妨(いくぶんさまた)げていた私の白い息は、その存在を消し去った。


私が呼吸を止めたのだ。


ズキンッっと胸が(きし)む。


なんて事だろう。

ほんの少しの間だっけれど、苛立ちと不安の正体を突き止めるのを邪魔していた私の思考の中に立ち込めた雲谷もやは、残酷な程に消え、その向こうに広がっていた認め難い現実を私の前に現していた。

それは、私の前を歩く見知らぬオジサンの肩越しに見える、悪戯な表情と、今や妖しく輝く目をした彼女の言葉によってだったことが、この寒い夜を一層寒くした。


「ええ・・・!」

今更の様に、悠一さんが声を上げた。 

そう、彼女の言葉に驚いたのは私だけでは無く、悠一さんも同じだったのだと、この時、私は気付いた・・・・。


直後。

歩道のアスファルトは、まだ凍ってもないのに、両足の設置感を失わせ、私のブーツは乱れた足音を鳴らした。


彼女の質問の答え。

それは、前を行く二人の会話に入ることも無く、まるで無関係な様にしてここに居る私には出ていた。


「何を言ってるんだか・・・。水谷みずたにさんの想像は、何時も飛躍しつぎだよ。」

少し動揺した声で悠一さんが答えた。


なぜだろうか?

やっと『見知らぬ彼女』の名前が知れた事に、私は不思議な程、無感情だった。


そして、そんな悠一さん否定の言葉に、水谷さんと呼ばれた彼女は「そうですか?」っと、事も無げに答えた。


私は、悠一さんへの彼女のそんな答え方に、この女の人は、年上の・・・それも結構年が離れた先輩?上司?に、失礼な受け答えをする人だと思い、又も腹立たしくなった。

それはきっと、腹を立てる事で、自分の中の攻撃性を取り戻したかったからだったろう。

そう!

『だって・・・・だって私は、悠一さんの彼女だから!』

水谷という女性を睨む様にして、人知れず私は、ウン!と、うなずく。


「そうだよ。僕の話の主旨からは大分離れてる見解だと思うけど。」

落ち着きを取り戻した悠一さんの受け答えに、揺らいだ私の足元も安定を取り戻した。

同時に、胸の中で渦巻き出した鬱憤うっぷんも消し飛び、鮮やかに晴れていった。


『そうですよ!悠一さんの言う通りです!』


その感情を更に言葉にしたならば、きっとこうだ。

『やっぱり悠一さんは大人の男性だ!それなのにこの水谷って女の人は、自分の無礼が許されてるとも気付かないなんて!もう成人してる社会人なのに、なんて甘えてるのだろう!!』


しかして、少しニヤついた私は自分の思いの中に意識が入り込んでしまった事で、前を歩く二人から注意を削いでしまって居た・・・。


それは完全な油断。


「そうでしょうか・・・・悠一さんの『地球全体の話し』よりは、ずっと身近で・・・・。」

と、彼女はその先を言うのを、勿体振もったいぶる様にして、めた・・・。

すると彼女は、それまで悠一さんの歩幅に合わせて、早足で歩いていたその足を、少しだけ緩めた。

そして、悠一さんに向けていた、悪戯な表情を、少しだけ傾けたと思った瞬間。



私は彼女と目が合った。 



それは、ほんの一瞬だったろう。


しかし私にはとてもとても長く長く感じられる一瞬だった。

彼女の目は、それまでの柔らかで悪戯な感じとは、かけ離れた、勝ち気なものに変化していた。


『見付かった!』


彼女が見た私の目には、そんな言葉が見て取れた事だろう。

彼女の浅はかさに腹を立て、そうして(さげす)んでいた事。

それがそのまま、自分の事なのだと気づかされた瞬間だった・・・。

どうしようと思っても、最早(もはや)どうしようも無い!

わずかに私が有してたと思っていた、彼女への優位性が、一瞬で奪われたのは、紛れも無い事実だった。


私はもう、彼女の(てのひら)の上に立つ〖魔法も使えない小人同然〗に思えた。


『お願いですから!気付かない振りをして下さい・・・!』と、私は思った!!


そして、その哀願に似た思いは神様が叶えてくれた・・・。

いや、本当は、彼女が叶えてくれたのだ・・・・それが悔しいけど、そうだった。


「悠一さんって。」

脚を早め、悠一さんに並び向き直った彼女が言う。


「ええ?なんだろうか?」

少し不安げな悠一さんの声を、私はこの場から消え入りたい気持ちのままで聴いた。

そう、私は彼女に自分の存在を気付かれたにも関わらず、二人の後を付けるのをめてなかった。


すると彼女は「ううん・・・・何でも無いですよ!」っと、事も無げに答えた。

「何だろうか?・・・・かえって気になるけど。」

「そうでしょ?・・・気になるけど?・・・でしょ?」

そう言った彼女は、急に駆け足になり、もう目の前と成っていたコンビニのドアの前に立ち、悠一さんの方へと振り返り、手招きをした。

「早くシましょうよ!悠一さん!二人には時間が無いんですから。直ぐに朝になっちゃいますよ!」

「おいおい・・・誤解を生む様な変な言い方は()してくれ・・・・残業はそこまで遅くは成らないよ。」


私は思う。

『違うよ悠一さん・・・・彼女の言葉は、私に向けた挑発的なものなの・・・・。』・・・と。


私は、見知らぬオジサンを盾の様にして、コンビニに入ろうとする二人の前を他人のフリをして通り過ぎる。


「いらっしゃいませー!」

コンビニの自動ドアが開くと、中に居る店員の声が外まで聞こえてきた。


『中は暖かいだろうな・・・。』と、私に向けられた訳では無いそんな挨拶を背中で聞きながら・・・後ろ髪を引かれる思いで通り過ぎた。






 「時間が無いんじゃなかったの?」


私のそんな独り言は、白い息と共に夜の街へと吸い込まれて行く。

もう、10分近くも二人はコンビニから出て来ない。

彼女は、雑誌コーナの本を手に持って、悠一さんと寄り添いながら、それを見て居た。

「いえ違います。二人は寄り添う『様に』です。」

道路を挟んだコンビニの向かいに立つ私は、今度は電柱に身を隠しながら中の様子を遠目に見ている自分の思いから出た言葉を訂正した。

けれど・・・。

それは、誰に対してでも無く、自分の為でしか無かった事が、今の私を一層、惨めにさせた。


でも・・・・。


それでも・・・・・・。


私は今夜は帰れない・・・・・。


じゃなく、帰らないから!


だって、私が今年の初雪を一緒に見るのは・・・。

「悠一さんと二人でって・・・・決めてきた・・・の・・だから・・・。」


強い意思を示すつもりで言葉にした声は、そんな私の思いとは裏腹に、最後の方は弱々しくなっていた・・・。


「それなのに・・・・。」


こんな『筈』じゃ・・・・・・。


「無かった・・・のに・・・・・なぁ・・・・。」

頬を冷たいモノが伝う・・・・・。


その感触が更に自分を惨めにする。


私の悠一さん(かれ)は今、他の女性と居る・・・・。


その女性は、今は彼の『彼女』では無いだろう・・・・きっと・・・たぶん・・・・。


「だって、もし彼女が、もう悠一さんの彼女だったら・・・。」

悠一さんの態度は、もっと違ってる筈だから。


『もっと・・・きっともっと、私と二人で居る時みたいに、あんな感じに・・・・・。』

足元を見ながら、そこまで想像した時、私は私と悠一さんの過去を思い返して居た筈なのに、いつの間にか彼女と悠一さんとの想像にすり変わっている事に気が付いた・・・。


視界が歪み、そして足元がぐらつく。


気が付けば、うつ向いて見ていた視界の中を、大粒の涙が遠ざかって落ちて行き、冷えきった黒いアスファルトを一層黒くしていた。


『でも・・・彼女も悠一さんが好きだ。』


それは、女なら・・・・女同士だから尚更に解る。 

悠一さんと居る時の彼女の全てがソレを物語って居た。


そして何より、私を見た彼女の視線・・・・。 


全てが自分の手の中から、滑り落ちて行く様な強烈な喪失感が私を襲う。


「待ってよ・・・・!」

思わず口にした言葉。


でもそれは、何を待って欲しかったのだろう?


私は、落ちる自分の涙を、追い掛けるつもりだったのだろうか・・・・。

この涙を、無かった事にしたかったのだろうか・・・。 



そうして私は、この時初めて、止めどない涙とは、このんな涙だったのかと、悟った。


「もう・・・良いから・・・止まってよ・・・!」

私はその思いで、顔を上げ冷たい夜空を見上げた。


そう高くは無いビルの間に、星はもう見えなかった・・・いつの間にか雲が覆っていたからだ・・・・。


手の甲と指で涙を拭い、私は尚も鉛色に成った夜空を見詰める。


「雪雲・・・・。」


そう独り呟いた私の言葉は、それまでもそうだった様に、白い雲の様に成って、過去の空間へと流れて行った。

とっさに私は思った・・・そんな私の白い息さえも、空の雪雲の一つに成ってしまうのではないか・・・・と。


ああ・・・・なんて事だろう・・・・。


待ち望んで居た筈のソレは、今は希望の星を隠す為に湧いて出たかの様に今の私には思えてるのだ。


「早いよ・・・・降り始めから、二人並んで見たいのに・・・。」


それは、まるで。さっき悠一さんが言っていた〖人の勝手な想い〗そのものだと、私は気が付く。

 

『そうだね、勝手なものですね・・・人って。』

そう思った瞬間。


いや、違う・・・・今の想いは他人のモノでは無い。

私の想いなのだと気が付いた。

「そう・・・・私の想い。」


私は、そんな私の言葉で、自分を勇気づけようとしたのかも知れない。

『今、解ってるのは、彼女の思いと・・・・私の思いだけ・・・。』


そうだ。


大事な事は、まだ何も解ってないのだ。


私は悠一さんに、彼女との事を何も訊いてないのだ。

『自分が、恋の決戦なんて事をするなんて、思わなかった・・・・。』


赤いナナカマドの実を椋鳥(むくどり)(ついば)んで居るのが、道路を挟んだ向かいに見えた。

白色の明るい街灯に照らされた、灰色と白の体と羽。

(せわ)しなく動くオレンジ色の(くちばし)が、遠目にも鮮やかに浮かび上がっていた。


そこは、あのコンビニの前。 


日々の(かて)を自分で探す椋鳥の姿に、今の自分の恋の行方とが重なった。



今夜と週末の予定は、この後の戦いに掛かっていた・・・。



事の始まりを知る観戦者など一人も居ない、たった3人の冬の陣は、次の私の一声で始まろうとしていた。



1年振りの有難う!

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